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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

白昼夢

作者: 鏡は不思議

服毒による孤独で少し早い去り際を選んだ冷笑的な青年が、睡眠薬が効いてから毒が回るまでの時間16:17〜17:54に見た夢の話


まぁ、つまるところただの痛々しい夢小説かボイス用台本です。

つまらないなと思ったらそっと閉じてください。

 呼吸音が聞こえる。自分の呼吸より僅かに早い。でも自分の呼吸よりもゆったりと息を吐いているように感じられる。

 腰から下は沈み込む感覚がする。どうやら単に身体が重い訳ではないらしい。足先を僅かに動かすとさらさらした砂の感覚がする。

 頭には普段使いの小豆枕の硬さはなく、代わりに僅かな弾力がある。身体の向きと垂直な、妙な裂け目もあるような。


 「お目覚めですか」

 誰かの声。きっと鼓膜が震えて聞こえている声。

 年はおそらく23、4歳。女性の中でもやや低い大人びた声。どこかで聞いたことがあるような、ないような。そんな声。

 「急にこんな所に連れてきてすみません」

 私と面識のない彼女は名乗りもしない。でも驚きも戸惑いも全く起きない。彼女のことが純粋な好奇心から、あるいはちょっとの下心から気になってきた。

 「いつもあのバス停でため息ばかりついているあなたを眺めていて、」

 「思い切って話しかけてみたんです」

 変わり者だな。心配しても何の益もないだろう私のことを気に掛けるだなんて。本当に変わり者だ。

 「聞けば仕事でも叱られてばかりで、女からは尽く嫌われ、」

 「喧しい親御さんからは離れて1人寂しい暮らしに鬱屈としていると」

 「生きている意味があるのかなんて言っちゃって」

 ははは、どれ1つとしてもう考えたくない。

 「それで、私も人の為の役に立てたことなくって、周りの人を尽く不幸に巻き込んでしまって、」

 「もう静かにこの世を去ろうと思ったんです」

 「そうしたら同じようなことを思っているあなたに、帰り道でお会いしたんです」

 ああ私って馬鹿だなぁ。たった1度話しかけられただけでそんな愚痴を、本音を、生への満足をそれなりに過酷な運命の異性に吐いてしまったんだろう。


 「もしかしたら気が合うのかもしれないと思って、」

 「でも死ぬ勇気はそんな簡単に湧かないでしょう、」

 「だから私の最後の勇気を手向けに、あなたにプロポーズしようと思って」

 「大していない友人も多少騙して、あなたを本土からはとても遠い、無人の孤島まで連れてきました」

 別に死ぬだけなら崖でも山でもどこでもいいだろう。海も適当な海岸にまで連れていって沖へとびこめば事足りるだろう。それならまだ君1人でできただろうに。結局君も死ぬ勇気の足りない、面倒くさい奴なんだろうな。

 それにしても目覚めてみれば絶海の孤島か。波の音がどこまでも澄んでいる。うるさい他人もここにはいない。

 2人だけなら人は自然の雑音にはならない。何の取り柄もない、ただの無力な生物として取り込まれていく。

 「ここに来るまでの船は壊れました、もしかしたら誰かが壊したのかもしれませんが」

 「遭難したことにした方がロマンチックだと思いますから」

 ものを考えすぎた若者2人が下手に人生を考えすぎた罰として世間様に醜態を晒すだけじゃないか。手の込んだただの面倒な自殺の何をどう間違えればロマンチックにできるのだろう。

 「ロマンチックとは主観の問題です、人様にいかに映るかは二の次」

 やっぱり体裁も気にしているじゃないか。

 「まあ、こんな島なんかには誰も来ませんから、すべてはきっと私たちの自己満足のためです」

 彼女の顔から海の方へと目を向けた。オーシャンブルーからは程遠い蒼色の海の向こうには、蒼と空の境目がきれいに見えた。

 「大した資材も持ってきてはいません、生き残ろうなんて変な気を起こしちゃうかもしれませんし」

 「飲料も食料も大した量持ってきません」

 「その代わり最期を楽しくする為にあると嬉しいものは色々持ってきましたよ」

 「例えばUNOにトランプ、花札があります」

 修学旅行の持ち物じゃないんだから。突然笑わせないでくれ。

 「お薬もありますよ、修学旅行なら酔い止めとか胃腸薬、年のための風邪薬も持っていきますよね」

 いきなり必要度の低いものから順に出てくるのはよく分からないな。このままだと君は多分旅行のしおりはおろか、きっと肝心な下着の替すら忘れるぞ。彼女は随分要領の悪い荷造りの仕方をするらしい。

 「風邪薬の成分を強めた睡眠薬にキノコから抽出した毒薬です、詳しくはよく知りません」

 すごくふわっとしている。恐ろしいな。

 「まあ、睡眠薬の効果も毒の効果も、どちらももうあなたが既に 飲んでいるものと同じです」

 ここに連れてこられるまでの寝ている間に私は既に一服盛られていたのか。確かに直前は寝ていたものな。

 「いえ、寝る前にあなたが自ら煽ったのです」

 いくら変人の私とはいえども耐性のない毒を煽って今ここで生き残れるほど人間離れしているとは思えないのだが。

 「もう無理に分かろうとしないでください」

 「なんにせよ、これで死ぬための準備は整いましたよ」

 「このまま飢えを待ってても仕方ありません、ただ辛いだけです、これで死ねば今世に別れを告げられます」

 こんなに丁寧に首吊り縄が用意されている。生きる理由は特段見当たらない。いつも通り、ただ死ぬ勇気が出ないだけ。

 「きっと勇気が出ないんですね、だから私はここにいるんです」

 「私の思うに、あなたの悔いはきっと孤独です」

 「私がそうだったように、きっと誰かからも愛された経験を覚えていないから、誰ともこうしてのんびりと語り合うことがないから、孤独のまま死ぬのが怖いのでしょう」

 「だからこれは私からあなたへのプロポーズなんです、死ぬ舞台と、勇気と、私そのものを死にゆくあなたに捧げたい」

 「薬はこれだけじゃありませんよ、修学旅行に持ち込むにはやや勇気の要る代物も携えてます」

 「じゃーん、お空を駆けるお薬です」

 「例えですって、本当に空を飛べるわけないじゃないですか」

 「やはり自殺といえばこれでしょう、人生を思想に狂わされ、生活が乱れに乱れ、ドラッグを使った挙句に愛人との逃避行の末入水心中」

 これからするのは服毒自殺だぞ。心中ですらない。君は死ぬ前に文学史をやり直したほうがいい。

 「うるさいなぁ、そんなことだから女にモテないんでしょ」

「楽しければよかろうと自分でも思っている癖に、全然素直じゃないんだから」


 「それじゃ、最後の心残りを終わらせようじゃない、君は私と一緒に3つのお薬を飲んだあと情事に及ぶ、お互い満足した頃に2人は1人として眠りに落ちる、いつか毒が回って幸せが頭を駆け巡る中静かに息を引き取る、うん、完璧だね」

 「それじゃ、一気に飲んじゃおっか」

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