ピンと、だいじなプレゼント
春の風がカーテンをふわりと揺らす。
志村ねねの部屋には、色とりどりの折り紙とクレヨンが広げられていた。
ねねは机にちょこんと座り、真剣な顔で紙を切っている。
机の端っこでは、いつもの三匹、ミドリ、ピン、クロが静かにねねを見守っていた。
「なに作ってるんだろ」
ピンが首をかしげる。
「たぶん、また“作品”じゃない? この前は“ひまわりまんじゅう”だったよ」
「いや、あれは作品じゃなくてただの粘土のかたまりだろ」
クロがぼそっと返す。
そんな三匹の会話をよそに、ねねは黙々と作業を続けていた。
小さな手が一生けんめいに折り紙を折るたび、紙の音がちいさく鳴る。
「……おかあさん、よろこんでくれるかな」
そのつぶやきに、もふもふたちは顔を見合わせた。
「そっか。母の日だ」
ミドリがぽつりと言う。
「ねね、ママにプレゼント作ってるんだ!」
ピンの声が弾んだ。
「だけど……」
クロが少し眉を寄せる。
「見た感じ、まったくうまくいってないな」
ねねの手元には、くしゃくしゃになった折り紙が山になっていた。
何度も折り直しては、ため息をつき、またやり直す。
「うう……ぜんぜん、きれいにならない……」
ねねの肩がしょんぼりと落ちる。
ピンは胸の奥がちくんと痛んだ。
あんなにがんばってるのに、うまくいかなくて泣きそうな顔をしてる。
(ねねのためになにか、してあげたい)
「ねぇ、わたし、折り紙作るの手伝ってあげたい」
ピンが思わず言った。
「だめだよ」
ミドリがすぐに制した。
「ねねに見られたら、動けることがバレちゃうよ」
「わかってるけど……でも、このままただ見てるのイヤだよ」
ピンの目はまっすぐだった。
その光の中に、迷いはなかった。
クロは小さくため息をついたあと、低い声で言った。
「やるなら、完璧にやれ。見つからないようにな」
「うん!」
ピンのしっぽがふわりと揺れた。
夜になった。
ねねは机の上に材料を広げたまま、うとうとと眠ってしまっていた。
様子を見にきたおとうさんがねねをベッドに運び、ねねはそのままベッドでぐっすりと寝ていた。
部屋の明かりは消え、月の光だけが静かに降り注ぐ。
もふもふたちは、そっと机の上に登った。
「わぁ……ぐちゃぐちゃだね」
ピンが紙の山を見て呟く。
「折り紙ってどうやるの?」
「……知らん」
クロがそっけなく言う。
ミドリは少し考えて、言った。
「見たことあるよ。角を合わせて、折り目をつけて……ほら、こうやって」
ミドリの見よう見まねで、ピンも夢中になって折りはじめた。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
折っていくうちに、少しゆがんでるけど、どこかあたたかい形をした花ができた。
「これ、ねねが作りたかったやつかな」
「きっとそうだよ」
ミドリがうなずく。
ピンはそっとその花を、ねねの作品の上に置いた。
月明かりに照らされた花が、ほんの少しだけ光った気がした。
そして小さな声でつぶやく。
「ねねのありがとうの気持ち、ちゃんと届きますように」
その言葉は、春の夜風に乗って、やさしく部屋を包んだ。
翌朝。
ねねは目をこすりながら机の上を見て、目をぱちくりさせた。
「あれ……? お花、できてる……」
そっと手に取って見つめる。
少し形はいびつだけど、不思議とあたたかい。
まるで、夜の間に“だいじな気持ち”が形になったみたいだった。
「すごい……できたんだ。ママ、よろこんでくれるかな!」
ぱっと笑顔が咲く。
もふもふたちは引き出しの中で息をひそめながら、その笑顔を見守っていた。
「やったね、ピン」
ミドリが小さく囁く。
「……ま、まあな」
なぜかクロが照れくさそうにそっぽを向く。
ピンは嬉しそうにしっぽを揺らして言った。
「ねね、笑ってる! それだけで、じゅうぶんだね!」
その日、ねねはお母さんに折り紙の花を渡した。
お母さんは目を細めて、「とっても上手ね」と言って、ねねをぎゅっと抱きしめた。
その光景を机の影から見ていた三匹の心にも、ぽっと春の花が咲いたみたいに、あたたかい風が吹いていた。
ピンは小さな胸に手をあてて、そっとつぶやいた。
「ねねの“ありがとう”、ちゃんと届いたんだね」
窓の外では、春の風がまた、カーテンをふわりと揺らしていた。




