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番外編 クロと、夜の窓辺

 夜の帳が、ゆっくりと街を包みこむころ。

 志村ねねは、ベッドに入ってもなかなか眠れず、窓辺に座っていた。

「……なんだか、今日も眠れないな」

 小さな手で膝を抱えながら、ぼんやりと外を見つめる。


 窓の外では、街灯の光が雨上がりの道に反射して、淡くきらめいていた。

 遠くからは、車の走る音がかすかに聞こえる。

 ねねは小さくあくびをしながらも、まだ眠れないようだった。

 そのとき、髪の間から、黒いもふもふが静かに飛び降りた。

 クロ。夜の色をまとった、ねねの守り手だ。

(やっぱり、ねね眠れないのか……)

 クロは小さく首をかしげ、月明かりの下でそっと毛を揺らした。

 黒い毛並みが、まるで夜空の星屑をまとうように淡く光を帯びる。


 静寂の中、クロの足音は聞こえない。

 ただ、やさしい風だけがそっと部屋を撫でていった。

 ねねの部屋には、ぬいぐるみや絵本、折り紙や色鉛筆が散らばっている。

 昼間は賑やかなその部屋も、今は月の光だけが照らしていた。

 クロはそっと窓際の椅子に飛び乗り、ねねの横に座る。

(気づかれちゃいけない……でも、少しだけそばにいてあげたい)

 クロはねねの肩越しに、静かな息を吹きかけた。

 ふわりとカーテンが揺れ、ねねの髪が優しくなびく。

「……風?」

 ねねは小さくつぶやき、外に目をやる。

 月が木々の間から顔を出していた。

 薄雲の切れ間にのぞくその光は、まるでねねを見つめ返しているように優しかった。

「わあ……きれい……」

 ねねは両手をそっと伸ばし、月の光をつかもうとする。

 その手の先に、クロは小さな光を集めて送った。

 ねねの掌の中に、ほんのりとした温かさが広がる。

 冷たい夜気の中に、ひとすじのぬくもりが差し込んだ。

「……あったかい」

 ねねの口元に、やわらかな笑みが浮かぶ。

 クロはその表情を見て、胸の奥がじんわりとあたたかくなった。

(そう、その笑顔がいちばん大事なんだ)

 ねねが眠りに落ちるまでの時間、クロはずっとそばにいた。

 布団に入るねねの頬に、そっと風を送り、まぶたをやさしく閉じさせる。

 ねねの呼吸がゆっくりと静まっていく。


 クロは窓辺に戻り、外の景色を見つめた。

 夜の街は、遠くの灯りが星のように瞬いている。

 クロはしばらくその光を見つめ、ぽつりと心の中でつぶやいた。

(ねねの夢に、優しい光を……)

 黒い毛先が淡く光り、部屋に小さな星のような粒を散らす。

 それはねねの枕元に降りて、ほのかな光の花を咲かせた。

 夜が更け、世界が静まり返るころ。

 ねねの寝息は穏やかに続き、クロはその音を聞きながら目を細めた。

(ねねのこと、ずっと守る……)

 その願いは、夜の静寂に溶けていく。

 クロの光はゆっくりと淡くなり、やがて闇に溶け込んでいった。


 そして夢の中。

 ねねは、夜の森のような柔らかな黒の中を歩いていた。

 足元には光る花が咲き、どこからか風が頬を撫でていく。

 その風の中に、確かにクロの気配があった。

 ねねは夢の中で小さく笑い、安心したように立ち止まる。

 その姿を見届けるように、クロはやさしく目を細めた。


 翌朝。

 ねねはぐっすりと眠れたようで、すっきりと目を覚ます。

 窓の外には、まぶしい朝日。

 カーテンを開けると、風がそっと頬を撫でた。

「……おはよう」

 ねねがつぶやくと、どこからか柔らかい光がひとすじ差しこんだ。

 クロは髪の中に戻りながら、心の中で微笑んだ。

(今日も、ねねの笑顔が見られた……)


 そして、部屋の片隅に小さな星の粒が残っていた。

 それは、夜にクロが残した“おやすみのまほう”の名残だった。


 三色のもふもふたちは、ねねが安心して過ごせるように、今日もまた静かに、優しく、秘密のまほうを準備する。

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