表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

番外編 ピンと、雨の日の小さな奇跡

 ある梅雨の朝。

 志村ねねは、窓の外で降る細かい雨を見つめていた。

「うーん……雨だと、外であそべないね」

 小さな肩をすくめ、ねねは少し元気がない様子だった。

 窓ガラスを流れる雨の筋が、まるで涙のように見える。

 お気に入りの靴も外には出られず、長靴も少しきゅうくつ。


 部屋の中には、しとしとと静かな雨音だけが響いていた。

 そのとき、ピンクのもふもふ、ピンがそっとねねの髪から飛び降りた。

 ふわりと舞うように着地し、小さな瞳でねねの表情を見上げる。

(今日はねね、ちょっと元気ないな……)

 ピンは小さくため息をつき、考え込んだ。

 ねねが笑わない日があると、部屋の空気まで少し寂しくなる。

(よし、ちょっとだけまほうで助けてあげよう)

 ピンの毛先が淡い光を放つ。

 光は静かに部屋を抜けて、外の雨粒に混じり、きらきらと踊った。


 幼稚園に着く頃、雨はまだやまない。

 でも、ねねは不思議そうに足元を見つめた。

「えっ……あれ? 濡れてない!」

 足元には水たまりが広がっているのに、靴は濡れていない。

 傘もささずに歩いているのに、髪も服もそのまま。

 ねねは驚きながらも、目を丸くして笑った。

「へんなの……でも、なんかうれしい!」

 ピンは、ねねの肩の上でこっそり微笑んだ。

 ねねに気づかれず、ほんの少しだけまほうを使う。

 それがピンのいちばんの得意技であり、いちばんの喜びだった。


 雨が落ちる園庭は、いつもより静かで少し寂しい。

 でもその日だけは、ねねの周りにだけ小さな“晴れの輪”ができていた。

 雨粒がねねの傘を避けるように弾き、地面に小さな模様を描いていく。

 まるで、ねねの笑顔に合わせて、雨そのものが歌っているようだった。

 園庭の片隅では、水たまりが光を反射し、小さな虹がかかる。

 ねねはその虹を見て、手を伸ばした。

「わあ、きれい!」

 虹はすぐに消えたけれど、ねねの瞳にはちゃんと残っている。

 その笑顔を見て、ピンは満足そうに尻尾をふわりと揺らした。

(これで、雨の日でも笑顔になれるね……)

 ピンの心は、ねねの小さな幸せでいっぱいになった。


 その日の昼。

 ねねは、園の友達と一緒に水たまりで遊び始めた。

 長靴をはいた子どもたちは次々に水を跳ね上げて笑い声を上げる。

 だけど、ねねだけは不思議と濡れない。

 ピンがそっと風を操り、雨粒をやさしく押し返していたのだ。

「ねねちゃん、ぜんぜんぬれてないね!」

「ふしぎー!」

 友達が驚くと、ねねは少し照れながら笑った。

「うーん、なんかね……雨がやさしいの」

 ピンはその言葉を聞いて、心の中で小さくガッツポーズをした。

(そうそう、それがピンの“やさしい雨”なんだよ)


 やがて午後には雨が上がり、雲のすき間から光が差した。

 園庭のあちこちにできた水たまりがキラキラと輝く。

 ねねはその中に映る空を見つめながら、小さくつぶやいた。

「雨って……ちょっといいかも」

 ピンはその言葉を聞いて、胸の奥があたたかくなった。


 夜、ねねが眠ったあと。

 ピンは静かに枕元に立ち、毛をやわらかく光らせた。

 今日のまほうの残りが、ねねの夢の中まで届くように。

 布団の上に小さな虹の輪ができ、それがやがて消えていく。

(ねねのためなら、どんな雨の日でも、風の日でも、まほうをかけ続ける……)

 そうつぶやきながら、ピンはそっとねねの髪の上に戻った。

 その毛並みは、雨上がりの空のように輝いていた。


 雨の日も、晴れの日も、ねねの毎日は三色のもふもふたちのやさしいまほうで、少しずつ彩られていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ