番外編 ミドリと、ねねの忘れ物
ある春の朝。
志村ねねは、幼稚園に行く前ににお気に入りの帽子をかぶろうとした。
でも、あれ……どこにも見当たらない。
「えっ……ない? どこにおいたんだろう……」
小さな手で鞄の中を探し、玄関も確認するが、帽子はない。
ねねの顔に、ほんの少し曇りが浮かんだ。
そのとき、緑のもふもふ、ミドリが、ねねの髪からそっと飛び降りた。
(これは大変。ねねの帽子を探さなきゃ)
ミドリは小さく決意し、帽子を探すために動き出した。
屋根の上や庭の片隅、階段の下まで、ミドリは小さな目を光らせる。
玄関の外に少し濡れた帽子を見つけたとき、小さな胸がほっと温かくなる。
ねねが昨日、遊んでいる間に落としてしまったのだろう。
(よし、これでねね、悲しまないで済む……!)
ミドリは帽子をそっと抱え、バレないようにこっそり鞄の上に置いた。
ふんわりと毛が光り、帽子はほんのり温かさを帯びているようだった。
ねねは帽子を見つけ、目を輝かせた。
「わあ! あったー!」
帽子をかぶり、嬉しそうに笑うねねの顔。
ミドリは髪の毛の中で小さく毛を膨らませ、心の中でほっと息をついた。
ねねに知られず、笑顔を守る。
それが、ミドリの大事な仕事だった。
その日の午後。
園庭で、ねねは友達と元気にかけっこをする。
帽子は風で飛ばされそうになるが、ねねの小さな手はしっかりと帽子を押さえている。
少し離れた場所から、ミドリは見守る。
友達と笑いながら走るねねの後ろ姿。
帽子がずれないように揺れを抑え、ねねの体に寄り添う小さな光。
それを見て、ミドリは胸がじんわり温かくなる。
(ねね、楽しそう……ほんとうに帽子が見つかってよかった……)
帽子を落とさずに遊ぶねねの姿を見て、ミドリは小さく笑った。
この小さな喜びが、今日の一番の宝物だった。
夜。
ねねが眠ったあと、ミドリはそっと帽子を整える。
少しでも皺がないように形を整え、向きを直す。
そして、明日もまたねねが笑顔でいられるように、小さなまほうの光を宿す。
(ねねの笑顔のためなら、どんな小さなことでも……)
ミドリの毛がわずかに光を放ち、部屋にふわりと温かさが広がった。
帽子ひとつにも、優しさと愛がこもっていることを、誰も知らない。
こうして、ねねの一日は、三色のもふもふたちのこっそりとしたまほうで支えられている。
小さな帽子のひとつにも、彼らの想いは詰まっているのだ。
ミドリはそっとつぶやいた。
「ねね、ずっと笑っていてね……」
そして夜の部屋の片隅で、明日もまた、ねねの幸せを見守る小さな光が揺れていた。




