表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十七本の赤い薔薇  作者: 西村系
第一章 田中エリナ・松本勇気 プロローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/18

私の首を絞めて。

 海陽にある木製の古い家で女子高校生と、大人の男性が一人いた。


「ごめん、電話きた」

 ソファーに男を独りにして女は立ち上がろうとしたとき。

「映画、いいとこなんだから早くしろよ」

 男がそう、テレビの映像を止めて言うと、ポケットからスマホを取り出しいじり始める。

 女性は振り向いて一言。

「わかったよ、愛してる」

 とだけ言った。

「俺も」


 女性は廊下に出てスマホを耳に当てた。

「もしもし、夏帆?」

 電話越しから大人の女性の声が聞こえた。

「うん、どうしたの姉ちゃん」

 スマホを耳に当てた女性が答える。

「あんたの後輩にエリナって言うのがいるがいるから何とかして」

「何とかってw」

「何でもいいから、うちが喜ぶようなこと」

「忙しいから、ただでさえ今男子一人相手してるんだからさ」

「へぇ、珍しいね。”鶴丸”が彼氏持ち?」

 電話の先から大人の女性が笑った。


「ちがう、彼氏がいるのは知ってるでしょ。あいつだよ、松本」

「見つけたんだね」

「あのパーマ糞男だけは絶対に許せないの。絶対に」

 女性はスマホを強く握りしめると、最後に一言だけ言い放った。


「松本勇気は私が殺すの」

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

「本気でスピード出せよ別にあんたの車じゃないんだからっ!」

「うおうおうお!!! 車運転すんの始めてぇ!!」

 

 私はまた助手席に座っていた。

 しかし今度は羽田家の優しい運転ではなく、ルカの粗い運転に導かれていた。


「ちょっと、はきそう…」

「おい! 羽田家先輩の車だぞ!吐いたら承知しねぇからな!」

 そういってさらにスピードを出してカーブを曲がる。

「前言撤回!前言撤回! やっぱりスピード出さないで落ち着いて!」

「情緒不安定な女だなぁ」


 少しスピードを緩めてからルカは私に話しかけた。

「羽田家とは部屋で何をしたん?」

「何もしてない」

 私は即座に答えた。

「あの人何歳なの? なんで女子高生を狙うの? 女だからって何でも許されるとでも思ってるの?」

 ルカの方を向いて答えを求めた。

「し、知らねぇよ。あの人は今年で28っぽいけど…狙う理由は、普通に趣味なんじゃねぇのか?」

 またもやニヤニヤしながら前を見てそう言った。


 趣味ね…

「でも、羽田家先輩怒るぞ、あの人犬みたいに話を聞いてくれる人が好きだから。逃げたんだろ?」

「あぁ、逃げたよ。でも、あんたここで戻ったら殺すからね」

「ひぇ、殺害予告されちまったよ」


 しばらくすると、すぐにコンビニについた。

「ここだよ」

 本当に、私の家の近くのコンビニだ。

 今は、大体六時半

「あともう少しで時間だよ、俺の友達がカメラ切るよ。もう行った方がいい」

「カメラが切られるときはどうやってわかるの」

「カメラのライトが赤く光る、撮影してないしるしだよ」

「わかった」

 私はそう言って立ち上がって車から出る。

 扉を閉めようとしたとき、ルカが止めた。


「俺やっぱここで待ってるから」

「あっそう」

 別にいい、独りで行くから。

 

 とにかく大量の食べ物を詰め込みたかったから車の後ろの扉を開けて何かバッグを探した。

「あった」

 席の足元に黒く、デカいバッグがあった。

 中から全部取り出してバッグだけ持ってコンビニに入った。


「紅鮭と、マヨネーズだったら…」


 私はおにぎりコーナーを最初に見てみることにしたが、隣に背の高いパーマの男性がいて邪魔だった。

 でも、カメラが切られるのは今だけ。

 上を見ると、まだカメラは切られていない、あともう少しだ。


 男は、細くて、でも身長が高く、私の学校の制服にジーンズのジャケットを着ていた。

 上を見た。


 いまだ!

 バッグを開けてとにかくすべてのおにぎりを中に入れこんだ――

 その時だった。


「何日分の食料で?」

 私の事情に、鼻を突っ込んでくる。

 うるさい、あんたに関係ない。

「一週間」

 答えてしまった。

 男はなんだか興味のなさそうな目をして、自分の飯をもって会計まで歩いていった。


「追及しないの? 止めないの?」

 変な男だった。

 声を掛けずには、なんだかいられないような

 私は彼の左腕をつかんで止めた。

「いや…止めようと思ったけど、面倒くさくなった」

 面倒くさい…そっか。

「適当な人ね。」

 私はそう一言だけ言って、男の腕を放した。

 彼はそのまま会計へ進み、落ち着いた手つきでゆっくりと財布を取り出して自分が棚からとったものをきちんと支払った。

 

 私は反対に、重たいバッグを背負ってコンビニを走って出て行った。


「変な人」

 車に入るとき、独り言が漏れてしまったがルカはそれを無視した。

 エンジンをすぐにつけて、車をまた走らせた。

 車内は、旧校舎で嗅いだ女性ものの香水の匂いがして、少し気持ち悪かった。

 

 私はもともと車酔いをする方の人で、助手席に座ると少しは良くなるが…

 後ろの席に座る吐き気がして収まらない。

 

 しかし、香水は助手席の”酔い止めの力”をキャンセルするようだ…


 突然、ルカの電話が鳴った。

「!?」

 驚いて、ルカの目を見た。

「答えないで、絶対羽田家だから」

「いや…先輩をさすがに無視は…」

「答えないでッ!!」

「あぁかったよ」

「…」


 もしも、このバカが電話に出ようものなら今の位置がバレてしまう可能性もある…


 いや、車にトラッカーが付いていればやがて…

「車から降りる」

 ちょうどこの車が嫌いになるところだったから、家が近くてよかった。


「え、あ…本当に?」

「うん、もう家近いから」

 

 家は本当に近かった。

 何分か歩けばすぐにつくくらい。


「わかった、今停めるから」

 そういってできるだけ丁寧に車を道路沿いに停めた。


「あんた運転うまいのね」

 これから先輩に怒鳴られるであろうルカを、私は少し褒めてやった。

「へ、毎日フォルザやってたら簡単だよ」

「…フォルザが何なのかわかんないけどまぁいいや、じゃあね」

「あ、フォルザはゲームで――」

 彼が言い終わる前に私は扉を閉めた。

 

 彼は気にせずにUターンして、コンビニ方面へと戻っていく。

 旧校舎に、行くのかな…


 そんなの気にしてられない。

 これからは、私の家だ。

 家に帰れば、新しい男がいるのかもしれない。

 家に帰れば、弟が腹を空かせて待っているのかもしれない。

 でも、それとは反対に…もう腹が空かないほど殴られているのかもしれない。


 夜道に女性一人で歩くのは、お母さんが連れてきた二人目の男性に危険だと言われた。

 あの人も、あのコンビニの男に似て背が高かったが…コンビニの男ほどではなかった。


 私の学校の制服ってことは…先輩なのかな。


「別に子供なんて欲しいって思ったことないし、的な? あの子の父親がクズで、捨てただけだし」

「自分の子供だぜ? 少なくともちゃんと世話はしてるよな?」

「世話?」

 夜道で偶然、仕事から帰ってくる母親と、新しい男が家に帰るのを見てしまった。


 二人の背中を見ただけだが、それでも十分、声と、背中で母親だってわかる。


 お母さんは異常なほど笑って、まるで「子供の世話をしない私はおかしくありませんよぉ」とでもいうような口調だった。

 逆に男の方は少し乗り気ではなさそうだが、女を抱けるなら何でもしそうな感じがしている。


「世話なんていちいち、別に母親が全部しなきゃならないわけじゃないじゃーん?」

 お母さんはまた、甲高く笑って男に抱き着いた。


 彼女は、酔っている。

 で、でも、いつものことだから…

 いつものように、ちがう男の匂いをしながら帰ってくるから…


 …はるきに、こんな母親はもう見せたくない。

 でも、前みたいに、リビングを血だらけにしたくない。


 …なんでこんな糞みたいな家庭に生まれたんだろう。

 なんでこんなアマが母親になったんだろう。


 走ってとにかく先に家に帰ろうとした。

 お母さんより早ければきっとハルキを避難させて、彼にこんな親を見せるのは回避できる!

 

 大丈夫、走ればいいんだ。

 走れ、走れッ!!

 走れよ! 

 

 夜風に当たって一歩進むごとに背負うバッグが背中に強く当たる。


「ねぇお姉ちゃん、本当のお母さんはいつお迎えに来てくれるのかな」


 はるきっ! お母さんじゃないけど、私が守るからッ!!

 家族の私が――


「すばしっこい犬の方が、確かにスリルがあるね」

 家の前の階段に、短髪の、大人の女性が座っていた。

 羽田家だ。


 走る足が、確かに止まる。

 少しだけ震えて、彼女を見つめた。

 

「うちはね、嫌いな人間が二人いるの。でも、そのうちにあなたは入ってない」

「嫌いな人って?」

「別に、あんたの知らない人よ」

 ……


 羽田家は下を向きながら、玄関のライトに照らされながらゆっくり立ち上がった。

「そのバッグ。うちのだよね」

 羽田家は私の背負っていたバッグを指さしてにらみこんだ。


「うちの車借りといて、しかも許可もなしに物も借りるのか。」

「ごめんなさい私――」

「悪い子だね」

「…?」


「今回はさ、許してあげるから。部屋、見せてよ」

「部屋は、見せたくはありません」


「弟の声、ここから聞こえたよ。中でゲームしてるんでしょ」


 私が、一昔前に小遣いを貯めて中古で買ったゲーム機…  

 まだやってたんだ…

「家の中見せてよ。弟紹介してよ」

「無理です」

「お願い」

「無理です」

「そんな、おねがぁい」

 私に近づいて、膝から崩れて私の脚につかまってお願いをしてきた。


「家族を持つの、うち夢なの。一目惚れのあなたと。 大好きなの、愛してるの、うちに、うちにあなたを見せてよ」

 また、今日の昼のように脚を優しくなでて、今度は、キスもしてくる。


 気持ちわるい。

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いッ!!!


 咄嗟にバッグを捨てて彼女の首を両手でつかんだ。


「そう! そう私の首をひめて、強くひめて、キスひて。大好きなの、ねぇ、エリナちゃんんッ」

 彼女の目が少しずつ閉じてゆく。

「あんたなんて気持ち悪い、気持ち悪いんだよ。人の子と勝手に触って密室に呼び込んでレイプするつもりだっただろ。気持ち悪いんだよッ死ねよッ!」

「その、人を見下すような目が、うちを、興奮させるの…ねぇ、ねぇエリナちゃん」

「死ねッ! 死ね死ね死ね死ねッ!!」

 

 唾液を口からこぼしながら、彼女は少しずつ白目をむいていった。

 気が付くと、目を閉じていた。

 先ほど、絞められている途中に痙攣していた脚も、静かに止まった。


「見下すに決まってるでしょ…」


 人間のクズをはじめて殺めた。

 でも、世のため…だよね?


「きゃあああ!!!」

 後ろから叫び声が聞こえた。

 私は驚いて振り向くと、そこには母親と、新しい男が突っ立っていた。

 母親は男に抱き着いて離れない。

 私を見ようともしない。


「なんだお前」

 男が私に話しかける。


「私、わた、あぁ。えっと…」

 人を殺して、心臓がドクドク鳴っていた。

 手の震えが止まらない。

 二人に、見られた。

 母親に、見られた。


 家の中の明かりに背中を照らされたまま、ハルキが笑うのが聞こえる。

 羽田家は、地面に倒れこんだまま。

 お母さんと、男は私を見ている。


 どうすればいい。

 どう言い逃れをすればいい。

 どう、どうやって世界からこの死体を隠すの。

 私の人生はこれからどうなるの。

 過ちを、犯した未成年の未来は決して簡単じゃない。

 

 たった、たった一つの行動で――

 私が、私が――


「…自分で何とかして、もう来ないから」

 母親は私のことを見てから、バッグの中に手を伸ばし鍵を投げた。

 

 投げられた鍵は地面に強く当たり、金属音が鳴り響く。


「え?」

「しばらくの間この人と住むことにしたから。それだけ」

「へへへ、母親の癖にwww」

 男は、死体を見てもニヤニヤ笑っていた。


「母親をこんなので驚かせようなんて気味悪いねあんたも、お友達ならもう起き上がっていいわよ。私もう知らないから」


 …母親は、私が生まれてからずっと無関心だった。

 これまでは、怖くて、いやで、ずっと独りで、さみしかった。


 でも、今回は。

 無関心な人で良かったと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ