田中エリナ
私は、犯罪者に恋をしてしまった。
それも、危ない人で、他人を傷つけて、血まみれになって、それで自分を満たす。
そんな人に、私は盲目になるほどの恋をした。
彼を見つめるごとに胸の高まりが、収まらなかった。
人をバラバラにしていく彼を見ると、こわくはなかった。
彼も、私に恋をしていて、私を守るために他人を傷つけていたから――
―――――――――――――――――――――――――――――――
20XX年、高校一年生の私はただ生き残ることだけに集中していた。
なぜかって?
学校というのは大量の障害者が集まった糞みたいなジャングルだから。
先輩は面白くもないちょっかいばかりかけてくるような子供じみた男、同じクラスの女子たちは碌に話もできない、映画も、音楽のテイストもないチンパンジーばかりだ。
「ねぇエリナちゃん! 先輩のルカさんと付き合ってるの?」
「知らない」
知らない、とは?
ト、思う人もいると思うが。
私が先ほど言った、”面白くもないちょっかいをかけてくる人”というのは、そのルカのことだ。
名前も聞きたくないからテキトーに流した。
…明らかに嫌いで、話もすらしてないのに女子は簡単な思考もできずに”エリナちゃんはルカのことが好きー”という結果に行きついている。
死ね、全員死ねよ。
面倒くさいんだよもう。
「エリナはさ――」
「わかんなーい」
「え、言い終わってないんだけど」
「あれれ、そうかな?」
「う、うん。で――エリナは…」
「呼び捨てにしないでくれるかな」
「あ、ごめん。うん」
ルカは、私が照れているとでも思ったのか、勝手に笑っていた。
彼は女子トイレの前で待ち伏せをしていた。
私が出てくると、妙に背の低い男が外に立っていて気持ち悪かったが、そのまま横切ろうとすると私の名前を呼んできた。
ルカだぁ…
私はとにかく振り切ろうとして食堂に向かった。
この古臭い田舎の学校には、少なくとも百人はいるのにこいつは私にばかりまとわりついてくる害虫だ。
私の後をついて、手で何かジェスチャーをしながら妙に騒がしい動きをしながら話をしていた。
…もちろん私は彼の話に微塵も興味はない。
「それでこの前スケボーしてて、海陽近くのコンビニあるっしょ? わかる? エリナ?」
こいつ…私が海陽に住んでることを知ってて…
「あの、あそこだよ。隣にコインランドリーがあるさ、あのコンビニだよ」
「知ってる」
答えた。
いや、答えてやった。
喜べ下民が!!
「うちのダチ公の優斗いるっしょ、あいつマジでやばくてさ、そのコンビニで働いてるんだけどある時間になるとカメラを30秒だけ消してくれんの」
「だから何」
私は少し早歩きになった。
そうしたら少しは食堂にもっと早くつける! そうすれば人混みの中で撒ける!!
「だから、酒とかとってよ。みんなでパァっとやるんだけど――」
「”一緒に遊ぼう!”ってこと?」
「おん」
私は立ち止まって男を見下した。
短髪で、背が小さく、常時ニヤニヤしているのが妙にうざい。
ずっとふざけるような素振りで、真面目な話をしているところは見たことがない。
ニヤニヤニヤニヤしてよぉ…
…
ある時間になると、カメラが消されるコンビニか。
「毎日?」
「どゆこと? 何が毎日?」
「だから、毎日カメラが消されるの? 定期的に?」
「おん、人いない時も”カメラのバグ”ってことにしてるからちゃんと切らなきゃならないって言ってた。じゃないと、バレるとか…」
「へぇ」
「行くってこと?」
そのカメラが消される時間帯が知れるなら、私はもちろんこんなカスにもついていく。
海陽というのは町である。
”海”という漢字が付いているが、決して海に近いわけじゃない。ここはほぼ山の中だ。
正直名前をかんがえた人のネーミングセンスを疑ったほうがいいと思うね。
それで、話を戻すと。
私は夜にルカについていった。
どうも今日は万引き以外にも面白いイベントがあるらしく、後輩の私もぜひ参加をしてほしいとのことだ。
はぁ、面倒くさいが、全ては切られたカメラのために!
「今日はうちがドライブやっから、よろしく」
大体昼の6時くらいに学校の前に年上の女性が青い、細長い車に乗って学校の前で停めた。
「おう!」
私はもちろんルカの後ろで彼が女の人と会話しているところを見た。
「あれ、エリナちゃん羽田家先輩のこと知ってる?」
「しらない」
私はそう答えて一歩前に出て、それから車の中から降りない女性”羽田家”(ハタケ)に握手をした。
腕だけ車の外に出して私の手をぶんぶん振った。
「よろしく、羽田家だよ」
「それがフルネームですか?」
「なわけないでしょ、ミステリアスな女性として生きたいだけよ」
「そうなんだよ、羽田家先輩は黒高の元生徒でさ、エリナちゃんとは気が合うと思うよ」
ルカは前に出て私の背中を弱くたたいた。
…私と気が合う人なんて、そうそうないが…
「今ほぼ泥になってるテニスコートあるじゃん、学校の裏に」
「おお! その話っすか先輩!」
「…」
「あれね、うちが七日間ずっと水撒いたせいでもう乾かなくなったんだぜ」
んなわけねぇだろただの湿地帯だボケ女。
私があまり大層な反応をしなかったせいで場が一瞬冷たくなった。
「あぁ! そうなんですか! すごいですね!」
焦って両手を合わせて、適当に笑顔で返した。
「…で、君まだ名前言ってないけど」
「あ、田中です」
「………フルネーム?」
「ミステリアスな女性として生きたいのは先輩だけじゃないですよ」
私がそう返すと羽田家は上を向いて大声で笑い始めた。
「気に入ったぞこいつッ!」
ドンドンッ!
羽田家はニヤニヤ笑みを浮かべながら、ルカの方を向いて、それから後ろに親指を向けた。
「さっさと乗れ」
まだ少し笑いながらも、彼女はそう命令した。
私もルカに続いて後ろの席に座ろうとすると羽田家が私を止めた。
「あっあっあっ、田中はうちの隣来て。女の子だからとくべつに助手席よ」
「…ありがとう」
そういわれたので、とにかく車の前を通って左へ向かい、重いドアを開けて中に入った。
「閉めるときはやさしくね」
私がドアを閉めようと引っ張ると、羽田家が注意をしてきた。
途端に勢いを何とか止めて、優しくドアを閉めた。
閉めると、すぐに車が走り始めた。
学校の前の大きな橋を通って左に曲がる。
…海陽の方向だが、私の家にはいかないよな?
…と、とにかく祈るしかない。
この二人、圧倒的に予想外すぎる。ルカは何となく汚い思考がわかるが、羽田家はほぼ謎の人物に近い。
ここ出身なら、小学のころに見かけているはずだが、私は羽田家という名を持つ人を知らない。
それに羽田家という名すら聞いたことがない。
いろいろとおかしい人だが…
「田中は今年で何歳?」
「大体二ヶ月くらいで16なります。
「へぇ、五月生まれなんだ。日にちは?」
「三日です」
「へぇ」
「へぇ」
ルカも相槌を打っているが、お前には関係ないんだよ黙ってろ!
「うちは十二月だから、ついさっきみたいなもんだな……」
「あ、俺の誕生日も――」
「それで、田中は兄弟とかいるの? 妹とか」
両手をハンドルに置いて羽田家がまた話しかけてきた。
もちろんルカの話しを遮って。
「弟が一人います」
「うちもね、去年まではお兄ちゃんがいたんだけどさ、小学のころからタバコ吸ってたせいかなぁ、つい最近癌になっちまってよ」
「あ、あぁ」
「この車、どうやって買ったと思う」
「えっと、自分で働いて貯めたまっとうな金?」
「まぁそれが普通だろうけど、親がいい金貯めてたんだよね。それ、盗ってさぁ。車買ったワケ」
「すご――」
「でも!でも! 聞いて、面白いことに、そのたまってたお金って、ただの貯金じゃなかったのッ! なんだと思う」
ウキウキして、彼女は私の方を見つめてくる。
まさか、お金というのは…
「おッそいなぁ! うちのお兄ちゃんの治療台だったんだよ。うち知らなくてさ、つい使っちまった」
きっと、理由があるんだろう。
お兄さんは、何か大犯罪をした人だったとか。
家族に虐められていたとか。
それか…もっと、もっと暗い何かがあったんだと思う。
じゃなきゃ、家族をこんな風に…
「お姉ちゃん」
あぁ、弟を思い出してきた。
…家でどうしてるのかな、もう、お母さんが新しい男を連れてきてなければいいけど。
……とにかく、集中しなきゃ、ルカと、羽田家であるところに向かう。
”あるところ”というのは…
ああああ!! 疲れたよもう…
でも、多分こいつらに似て悪趣味なところなんだろう。




