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十七本の赤い薔薇  作者: 西村系
第一章 田中エリナ・松本勇気 プロローグ

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2/18

プロローグの、少し前

「何日分の食料で?」

 彼女のほうを向いてそう聞くと、少し驚いた顔でこう答えてきた。

「一週間」

「へぇ」


 一言だけ漏らしてそのまま会計へ向かおうとすると止められた。

「追及しないの? 止めないの?」

 左腕を強く捕まれた、一瞬振りほどこうとも思ったが…女性に乱暴はよくない。

「…いや、止めようと思ったけど、面倒臭くなった」

 嘘だけど、嘘ではなかった。

「適当な人ね…」

 そういわれたが、別にどうにも思わなかった。

 そうさ、僕は適当な人さ。


「あんまり、万引きはいいことじゃない。ほどほどにしておきな」


 一言いい残して会計をし、そのまま家へ向かった。


 もう外は薄暗く、夜道に自転車で通るのは危なかった。

 だからカゴにおにぎりとポテチを入れて、自転車を押していた。

 左を見ると太陽が沈んで、残るのはオレンジ色の空だけだった。

 

 しかし右は住宅街のせいで月が見えなかった。

 

 冷たい風が吹くと制服が乱れ、そしてまた静かになる。


 あともう少しで家につく。


「私は別にあんたと彼女がナニをドウしようとどうでもいいのよ、でも酔いに酔って帰ってくるのはお願いだからやめて」

「彼女? 彼女なぁんていませぇんが?」

「嘘つかないで、嘘つき、糞野郎のウソつきよてめぇッ!!!」  


 扉越しから、親父と、母親の喧嘩が聞こえた。

 まただ。今日は機嫌がいいと思ったのに。


「糞野郎ね、結局私は糞野郎と結婚したのね」

「おれぇを、くそやろうと呼ぶな、呼ぶなよ」

「糞野郎ッ! 糞野郎! 糞野郎! 浮気男めッ! 死ね、死ね―――」

 

 お母さんが、怒鳴り終える前に叩かれる音が聞こえた。

 それも、大きく、外まで響いてくる。


 何かが落ちる、木製の地面に落ちて、それで引っ張られる。

 母親のすすり泣く声が聞こえる。

 親父は母の髪をつかんで母を引っ張りながら階段を上っている。


 …くそ。

 糞が。

 今日も、今日もシゲイチに泊めてもらおう。

 シゲイチなら、遊びっていう理由で泊まれるし、それにポテチもあるから…

 二人で。

 二人で食える…


「ああぁッ!!」

 二階から、母親の絶叫が聞こえた。

 

 ドアノブに置いていた手を離した。

 もどろう。

 他の場所に、どこでもいい。

 なんでもいい。



「今日のラッキーはどうだった?」

 30分。

 僕は30分家の玄関の前に突っ立っていたが、開けることはできなかった。

「普通にかわいかったよ、飯もちゃんと食ってたし。明日遊んであげなよ」

 だから逃げた。

 僕は母親を見捨てた。

「それイイね、明日だったら見に行けるかも」

「おん」

 今はシゲイチの部屋でパジャマを借りてデスクに座っていた。

 彼はベッドの上に座っている。


「山のほうは雪どうなの?」

 僕は聞いた。

 ラッキーと遊びに行くならちゃんと雪の具合も見なくては。

「あともう少しで全部溶けるんじゃね? でも寒かった。ラッキーいつも独りで小屋の中にいると考えると可哀想だよ」

「それも一理あるけどさ、わかるじゃん。僕の親父が犬嫌いだから連れていけないんだよ」

「しかも大型犬だしな…」


 シゲイチと一緒に悩んだ。

「ふーん」

 二人で考えた挙句、現状を何も変えないことにした。

 結局あと少しで夏になるんだし。そうしたら山も涼しくなる。


「布団これしかなかった」

 そういって見せられたのはシゲイチが昔使っていた幼児向けのモノだった。

「文句は言わないよ」


 お休み、明日はきっといい日になりますように。



「おはよう」

「うげぇ」

 明るすぎる。明るすぎるぞシゲイチカーテンを閉めろ!!!


「うがうがうがうがうがう―――」

「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ―――」

 春なので仲良くうがいをしました。


「どっぴゅーんッ!! かしゃぁーッ!!」

「うりゃてめぇー!」

 外が明るかったので仲良くボールで遊んだ。

 シゲイチは投げるごとに効果音を口で出していた。


「はぁ、学校めんどくせぇ」

「つかれたよ僕は」

 朝っぱらから遊びすぎたせいで学校に行く気力がなくなったが、それでも行った。


「俺の名前はアンデュウ大魔王だ、ミーソースープ大陸からやってきた。お前は何者だ」

 昼休みの間は晴臣がふざけて作ったボードゲームに浸りこんでいた。

 三人でチャイムが鳴るまで遊んだ。


「6限目は美術だぁぁ」

 時間はまた過ぎて、5限目が終わったころだった。

 シゲイチが机で悶絶している。

「シゲは絵だけは無理だもんな、勇気だったらまだいけそうだけど」

 晴臣がシゲイチを見てそう言い、それから僕のほうを向いた。

「絵は、よく書くけど。今回みたいなお互いの似顔絵を描くのはあまり得意じゃない」

「そっか! 今回似顔絵か、だからシゲもこんなになってるのかッ!」

 晴臣がやっと頭を使った。

「二人一組を組んでやるんだよ、僕はシゲイチとやりたかったんだけど、こいつどうしても「お前とはやらない!」とか言い出してさ」

 僕は説明した。


「俺はな、お前が幸せになってほしいと思っているんだ。わかるか勇気君…」

 突然シゲイチは立ち上がり、僕の両肩を握ってキラキラした目で見つめてきた。

 なんだ、こいつ。


「鶴丸さんも、ペアがいないらしい」


「おっ!?!?!」

 三人の中で一番びっくりしたのは晴臣だった。

 身を少し低くして僕に指を指し、もう片手で口元を隠した。

「シゲ、僕は鶴丸さんとは組まない。組みたくない。」

「なぜ? 俺は最高のカップルだと思うぞ!!」

「…」

「今、今彼女を誘ってこい。」

「…」

 いやな顔をしたが、シゲイチはそれすら無視してくる。

 糞!!!!


「それで、えっと。鶴丸さん…」

 二階の薄暗い階段の前で鶴丸さんを美術室に行かせる前に止めた。

「ペア、決まってるの?」

 身を引き締めて聞いた。

 振られる、絶対振られる。

「いないよ」

 振られ…あれ、いける。

「よかったら僕と組もうよ」

「いいよ」

 早かったな。


 鶴丸さんは、ハンナに似て小柄な人で長い黒髪に忘れっぽいところがある。

 放課後はいつも宿題に必要な教科書を忘れていたりするから、僕が届けることがある。

 別に好きってわけではないが、シゲイチと晴臣に勘違いされている。

 二人だけじゃない、ほぼ全員がそう思っている。


 優しいって、ダメなのか?


「じゃあ、一緒に教室まで行こうか」

 僕は彼女をそう誘った。

「うん」

 あまり、大きな返事はされない。

 冷めている、わけではないと思うが。

 鶴丸さんはそう言えばそういう人だった気もするが、あまり話さないせいか、わからない。


 普通より大きめの筆箱を持っているから、きっといろいろとデッサン用の鉛筆が入ってたり…?

 彼女の教科書の表は落書きされている、猫とハートだ。

 好きなのかな。

 

 それに比べて僕は木の落書きだったり、先生のコーヒーのカップだったり…

 筆箱も中学のころから使っていたもので相当ボロい。


「鶴丸さんは絵得意なの?」

「あんまり、でも好きだよ。私はね、人を描くのが好き」

 僕とは…真反対だ。


 三階、階段前の美術室につくと僕は先に扉を開けて彼女を通した。

 レディーファースト…と言いたいところだが、これはいつもシゲイチに言っているから悪口に聞こえるかもしれない。


「先週の授業にも言いましたが、今日はペアになってお互いの似顔絵を描いてもらいます。では、ペアを決めてある方は一緒になって、決めてない方は今から決めてください。じゃないと先生とペアですよぉ」


 もうおじさんの先生は女子生徒を見てそう言った。

 気持ち悪い…


 そう思っていると、すぐに鶴丸さんが僕の隣の席に座ってきた。

「ここ、すわっても大丈夫だよね?」

「多分」

 僕がそう曖昧な答えを出すと、彼女は僕の隣に座った。


「勇気ってさ、あんまり重村さん意外と話さないよね」

 座って早々僕の話をし始めた。

 重村とは、シゲイチのことだ。

 彼のフルネームは重村しげむら茂一…

 変な名前だろ?


「まぁ、友達だから…」

「それだけ?」

「それだけ、一番気が合う人だからだよ」

「とりあえず、描き始めよっか」

「それがいい」


 しばらく鉛筆を走らせていると、鶴丸さんよりも、周りの教室の風景がとてもきれいになっていくことに気が付いた。

 彼女を見るごとに目が合って、それで結局ほかの場所を書き始めてしまう。

 形はできてるのに、中身がない。

 見れない。


「これ、どう?」

 悩んでいると、鶴丸さんが僕に僕の似顔絵を見せてきた。


 肩に届かないくらいのロングでパーマ髪に、少し細めの唇。

 目は大きく書かれていて、二重になっている。

 鼻も高く、しかし形自体はまっすぐではない。


 …パーマと、二重の特徴はとらえているが、美化しているな。




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