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十七本の赤い薔薇  作者: 西村系
第三章 秋山有・羽田家先輩

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17/18

誘導

 バスを降りて、私はとにかく大勢の人間から遠のいてスマホを制服のポケットから出した。


 学校の前の道路、近所の家の前で足を止めた。周りはやけに静かで、人気がなく、朝のくせして暗かった。

「もしもし羽田家です」

 しばらくスマホから電話をかけているとやっと姉ちゃんが出てきた。

「あ、もしもし姉ちゃん」

「うん聞こえてる」

 

 やけに疲れているようだ。

 しかし、声はところどころ途切れている。ここは電波があまり届かないみたい。

 近所の家の前にでっかい山があれば無理もないかもしれない。


「二人が一緒にいる」

「誰?」

「だから、勇気と、”あんた”のエリナ」

 私は少し怒り気味に言った。

 何かを聞き返されるのは、正直好きじゃない。

 会話の流れから察してほしい。


「…」

「どうすんの」

「有がエリナを何とかしてくれるらしいから」

 私が聞くと、姉ちゃんは答えた。

「有? 家で休んでるんじゃないの? 放課後も行く約束してたんだけど」

「あいつの休みなんてくそも関係ない。エリナと勇気を何とかしてでもあいつの家に呼び込め。有は、自分の陣地に相手が踏み入られるのを一番嫌ってる、わかってるでしょ? それを利用するの」


「あぁ、悪くないけど」

「何とかして」


 姉ちゃんはそうとだけ言うと、電話が切れた。

「…死ね」

―――――――――――――――――――――――――――――――

「隣、いいかな」

 給食の間、人が多いランチルームの中で私は独りでリンゴを食べている勇気を見つけた。


「別にいいけど」

 いつもなんだかそっけない。でも、それもそうだ。私が彼に接近し始めたのも最近の話だからあんまり慣れてないんでしょ。


 …でも、よくもこんなに噂一つで嫌われることができるわね。

 全く民衆から信頼されてない証拠だよ。

 こうやって一人で食べてるのも理解できる。


「エリナさんは?」

 私は隣に座って、弁当をテーブルに置き、彼に聞いた。

「…エリナ? 名前言ったっけあの人。」


 しくじった。

「あ、いやでもさ、普通に後輩だし友達から聞いても名前がわかったから」

「ああね、わかった」

 彼はそう言って静かにリンゴをかじった。


 危なっかしい。なんて野郎だ…

「で、一緒に弁当食べてるのかと思ったけど」

「あぁ、エリナはね、教室で食べる派なんだって。注目されたくないだとか、でも僕はシゲイチと晴臣を待ってる。二人、あそこ」


 勇気は後ろを向いて弁当を買ってる同級生二人の方を指さして、リンゴにまた集中した。

「行かないの? エリナんとこ」

「いけないよ、僕は二年生だから一年の教室には入れない」

「あぁ、そっか」

 私は静かに言った。


「勇気さ、エリナと付き合ってんの?」

 

 勇気はまた、バスの時みたいに動揺して、食ったリンゴを吐き出しそうになったが、また私のことを横目で見てから自分のことを抑えて、リンゴをまたかじった。


「またその質問?」

「うん、一人の時の方が言いやすいかなって」

「…付き合ってない、ただの友達だよ。エリナが僕に気があるのか、知らない」

「じゃあ、気があったら付き合うんだ?」

「そうしたら、はじめての彼女になるね」


 勇気は左手にかじられたリンゴを持ったまま笑い始めた。


「なぁにぃ? 勇気マジか、俺たちのこと…」

 急にバカな二人がテーブルの前に現れた。

 重村シゲイチ、武田晴臣…


「いや、そういうわけじゃないよ。友達」

 勇気はまた笑って言うと、二人は勇気の前に座った。

「鶴丸さんすげぇ珍しいな、いつもなら桐生さんたちのところいるのに」

「そうだけど、美術の授業から仲良くなったからさ」

 

 シゲイチに返事をしてから、私は勇気の左腕につかまって、それからすぐにはなした。


「…」

 一瞬、シゲイチの顔が怒りで包まれたようだった。

 何か…バレてるのか。

 晴臣もその一瞬、私を殺すかのようににらみつけてきた。


「ちょっと、鶴丸さん。話そう」

 シゲイチは急に立ち上がって、出口の方に指を指した。

「え! いいけど…」

 

 私も一緒に立ち上がって、彼についていくと、ランチルームの外、トイレの前に行きついた。


「殺すぞ」

「え?」


 シゲイチが急に私のことを壁に追いやって脅した。

 彼の背は私よりも断然高く、包み込むように影を作った。

 彼以外、何も見えないほどの巨体だった。


「なめてるのかお前」

「なんの、話?」

「舐めてるのか聞いてるんだよこのアマ」

 シゲイチはもう一度壁を強く殴りつけて圧をかけた。


「だから…なんの…?」

「わかってるんだよ、お前がしたことをよぉ」

「え…?」

「この前廊下歩いてッとよ、てめぇがお友達たちと話をしてるのが晴臣と一緒に聞こえたんだよ」

「は…は?」


「お前だろ、勇気の悪質な噂を流したのは。聞いてたんだよ、昨日の昼」

「だから、わかんないよシゲイチ君―――」

「てめぇ白状しなきゃ女でも構わないここでぶん殴りつけてそのまま殺してやるッ!」


 急にまた、右手を挙げて私を脅した。

 一瞬、身が震えたが、問題ない、こんなのウソで通れない道じゃない。

 拒否するんだ。

 拒否して、拒否して、また拒否するんだ。

 問題ない。

 嘘で通れる道なんだ、全て。

 大丈夫だから…


「…いいぞ、へへ、はっはははっはッ!! いいぞ、いいよ、マジで? それならかまわないよ」

 シゲイチは壁から離れて、大声で笑って私を解放したように見えた。


 でも、一瞬もしないうちに彼は私のポニーテールをつかんで廊下を引きずりまわした後に、ガラスの扉を開けて校舎裏に私を投げ込んだ。

 校舎裏は…汚い、湿地帯で、泥だらけだった。


「嘘で人生通ってきたなら今がお前のゲームオーバーだ。俺に嘘も、演技も、通用しない」

 地面に倒れこんで、泣いている私の周りをゆっくり歩いて回っている。


「なんで噂を流した。なんで、なんで妊娠だ、旧校舎だ、嘘をつく」

 シゲイチはまた私に聞いた。


「彼氏が…彼氏があんたらことを許さないから…」

「彼氏? 彼氏だと? 彼氏いるくせにあんな勇気に近づくんだ。ただのクソビッチなんだなぁじゃあ?」


「…私の彼氏が――」

「彼氏がぁ?! 彼氏が何するんですかぁ?!」


 彼は、両腕を広げて、私に駆け寄ってから腹を思いっきり蹴った。

 私は、つばを吐き出すと湿った地面がさらに汚くなる。


「彼氏が何するんだ。言ってみろ、彼氏が何をするんだよ? 俺のことを殺すのか? 脅すのか? あッ! わかった、海に沈めるんだな? ははははっはッ!!」


「彼氏が…はぁ…私の…私のことを…」

「マジで。殺すぞ。」



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