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十七本の赤い薔薇  作者: 西村系
第三章 秋山有・羽田家先輩

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鶴丸夏帆

 あんたを気持ち悪い害虫扱いしない私は、他とは違うの。

 

 どれだけ、”心”の中であなたを嫌おうと、私はあなたを呼び捨てにはしないし、あなたに触るし、あなたと話すし、あなたに、甘い視線を向ける。

 私は姉とは違うの、どれだけ姉がクソで、クズで、でも、頭がよくでも…私は、さらに上に行く。


「大っ嫌いなの」

「そうなんだ」


 私は、学校のスカートを切って短くした。

 先生が注意をすれば、風が吹く演技をするだけだった。


 スカートは、短ければ短いほどいい。

 女子の友達だけじゃなくて、学校の男子だけでもなくて、全員が私を見る。


「だから、どちらかというとガム派かな」

「夏帆ちゃん飴嫌いなの知らなかった」


 私は学校に行く一時間ほど前に、コンビニで友達と一緒に買い物をして適当に話していた。

 ゆあちゃん、麻友ちゃん、それと、杏ちゃん。


「最近杏さ、好きな人はいるの? 前にゆうと君と別れたばっかだけど」

 麻友ちゃんは体を前に出して、私の隣にいる杏に聞いた。


「えー! でもさ、別れたばっかでも好きな人は好きじゃん? 私はいないけどね」

 杏は片手の青いアイスを振りながら言った。

 すると、ゆあがしゃべり始めた。


「私はいるよー! クラスのさ、ルカいるじゃん、成績も普通だし、顔もそんなんじゃないけどなんだか”普通”っていうところが―――」

「私松本勇気が好き」


「え?」

 三人が同時に、驚いたように私の方を向いた。

「松本勇気が好き」

「いやっ、それは…それは、聞こえたんだけど、え?」

 杏が動揺している。


「あのヘンテコラーメン頭?」

 ゆあが男を舐め腐るような言い方で私に聞いた。

「いやぁ、いいん、じゃない?」

 麻友ちゃんは腕を組んで、考え込むように言った。


「あんな、目立ちもしない奴のどこが好きなの?」

 杏ちゃんはゆあの方を向いてから、私のことを見た。


 ”彼はみんなに嫌われていて、みんなにクズ扱いされていて、だれもが彼のことを見下す。彼は目立たないし、彼はしゃべらないし、彼に独特で、個性的な性格があるわけじゃない。私はそこが好き”


 なんて、言えない。


 だって真実じゃないから。


 ”私はみんなと同じくらい勇気のことが大っ嫌いで、ただの犬、いや、それ以下にしか思ってない上に、あんなクズは私はこの手でつるし上げて両腕の血管を軽く斬ってゆっくり出血死させたいくらい。全員の中で私が、私が一番彼を見下す。彼は目立たない害虫で、口も鼻も縫い込んで息もできなくしてやりたい。

 私は松本勇気が嫌いだ。大っ嫌いだ。

 世界で一番嫌いと言ってもいい”


 だったら、言えるかもしれない。

 でも、そんなことをしたら、勇気の信用を無くしてしまう。

 口を開けてだらだらだらだらしゃべることしかできないこのアマたちが私の”勇気嫌い”を広めてしまうからだ。


「優しいし、かっこいいし。上着は…いつも汚いけど、それだけ洗えば完璧な彼氏像じゃない?」

「へぇ、ああいうパーマが好きなんだ」

「パーマだよね」

「絶対パーマ」


 パーマパーマうるせぇ人たちだな…

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 すぐに、バスがコンビニ近くの道で止まった。

 私たちは四人で走ってバスに追いつき、咳き込む運転手に挨拶をして中に入った。

 中に入った…

 

 中に入ったは…いいけど…


「あ、勇気じゃん。隣いいかな」

 私は二人に近づいていった。

「空いてないけど?」

 本当に空いてなかった。

 でも、彼の隣には、席になるプラスチックの腕を置く箇所があった。


 バス内は、満員だし。座る理由はある。

「ここ、座っていいでしょ?」

 私はにっこりして、彼に言った。

 一瞬、窓側にいる知らない女子が、私に視線を向けたが、すぐにまた外を見た。


 私は、とにかく席を作って、座り込み、鞄を脚の上に置いた。

 勇気は寝ようと、目を閉じているが私は彼に話しかけた。

「ねぇ勇気! その人だれ? 知らない人?」

 私は声を小さくして、彼の耳元でささやいた。


「いや、友達だけど…」

「ていうか奇遇だね、いつもは全然バス乗らないのに」

「まぁ、うん」

「…」

「ねえ、鶴丸さん。前は”死ねよ”とか言ってごめん、イラついててさ」

「いいよいいよ、いじめなんてうちの学校の中だとよくあるし」


 私は周りを見回して糞野郎どもをにらみつけた。


「私は気にしないよ、イラついてたんでしょ? 仕方ない」

「あぁ、優しいんだね」

「…うん! それで、その人は?」


 私は体を前に出して、窓側の女を見た。

「田中」

 女はそう言って、私の方を見た。

「田中…何さん?」

「田中だけでいい、ミステリアスな女性として生きたいから」


 こいつ、羽田家と知り合いか。こんな自己紹介…

 エリナだな。


「田中さんね、よろしく!」

 私は左手を差し出して、握手を求めた。


「…握手なんて、そんなにする人いないのに」

 エリナは不思議な顔に、なんだか軽く笑って左手を出した。

「私は…なんというか、他とはちがうの」


 勇気の目の前で握手をすまして、私は二人と話を始めた。

「付き合ってるの?」

 目を閉じそうになっていた勇気が、咄嗟に目を開けて、頭を動かさずに私を横目で見つめた。


「ともだちなんだ、じゃあ」

 私は言った。


「そういうかんじ」

「そうだね」


 二人が返事をした。


「あぁ、そうだ、田中…さん、鶴丸さんは僕の小学のころからの同級生で、いつも話してるんだ」

「へぇ、そうなんだ」


 勇気が私を紹介してくれた。

 それに、エリナはただ窓の外を見ている。

「前も一緒に美術の授業やったもんねー!」


 とにかく、勇気に近づかなければ。

 私は、彼の右腕をつかんで。胸を押し付けると、彼はいやそうな顔をして、エリナの方を見て腕を下にビーンと伸ばした。


 何こいつ…

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