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十七本の赤い薔薇  作者: 西村系
第二章 出会うまで

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全ての結果

 勇気はもちろん犯行現場から逃げた。

 教頭はその後に警察も呼んだが、生徒の顔は髪の毛に隠れて見えなかったうえに、名前すらも覚えていなかったことからすぐには容疑者がつかめなかった。


 シゲイチと晴臣は秋山有に”許され”そのまま暴行を通報されず、退学もせずに暮らすことになった。

 

 なお、秋山有は負けを認めて旧校舎に帰るしかなかった。


 田中エリナは、その日の放課後コインランドリーで一人の男子を、座りながら待っていた。 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 放課後。晴臣とシゲイチは”勇気感謝放課後パーティー”を開くために近くのイオンに出かけた。


「迷子になった覚えはないッ!」

「スピードに乗ってる実感もないッ!」

「でも最後に飛び乗ったッ!?」

「わけもないぜぇッ!!」


 二人で歩いてジャンプして歌って駐車場を回っていた。

 シゲイチが笑って止まると、晴臣の前に飛んで、手にあったコーラのボトルを口に運んでからこういった。

「宝くじ、やってみようぜ」

「おお! 運試しか、いいかもな」

 晴臣はそう答えて、コーラを欲しがるように手を前に出した。

「自分の買えよ」

「金ねぇよ」

「…なら宝くじで当ててくるか」

「いいね!」


 二人はとにかく宝くじが売られていたイオンの入り口近くまで歩いていった。

 小さな四角い建物の中に入ると、おばさんが頭を窓から出して寝ていた。


「こんちゃっす」

 晴臣が声を出すと、おばさんは頭を上に一気に上げたが

 ガラスに頭を当てて、痛がりながら手で後頭部をなでた。


「…何買いますか」

 おばさんは二人に聞いた。

「ジャンボ一つ」

「あぁ、オレはこの犬のスクラッチで」


「はいよ」

 しばらくしてからおばさんがジャンボと、スクラッチを出してきた。 

 晴臣が料金を支払おうとすると、財布がカラだということに気が付いた。

 

 シゲイチは、それを見て千円の札束を一枚出した。

「…ありがとう」

「宝くじ当てたら半分な」

 シゲイチはきちんと、”これは借金だ”とだけ言って、おばさんからお釣りをもらって建物を出た。


 落ち着ける場所を探して、二人で座り込んでから話をした。


「…あの、校長室の謎の人物は誰だったんだろうな」

「へ、はははッ!」

「へへへへへへへ」


 シゲイチがふざけ気味にいうと、晴臣が笑った。

 それにつられてシゲイチも一緒に笑う。


「勇気に決まってるだろ! あんなパーマにきったねぇ上着、勇気しかいねぇって」

「へへへ、それは確かにそうだな。あいつ、デート行くって言ってたけど、どうしてんのかな」

「うまくいってはいるだろ何とか」


 晴臣は勇気を信じていた。

「…一年のエリナちゃんだっけ?」

「あのハーフっぽい子でしょ」

「あぁ」


 シゲイチは、エリナの名前を今日初めて聞いた。顔も、そうだった。

 100人もいない田舎の高校で、顔を見たことがなかったのはものすごく変だが…

 それだったら確かに勇気に似合っているかもしれない。


「あ、宝くじ! 俺スクラッチやんねぇと」

「そうじゃん」

「お前は…ジャンボだから来週か」

「おん」


 晴臣は、ポケットからスクラッチを出して、シゲイチから10円貸してもらってさっそく削り始めた。

「えっと? 猫が3匹そろえばいいんだよな」

「多分」

 

 全部一気に削ると、晴臣は200円

 宝くじで当てることができた。

「プラマイゼロだな」

 シゲイチが突っ込んだ。

「スクラッチの金、返すよ」

 晴臣がそういってスクラッチを手渡すと、シゲイチは金を拒んだ。


「俺はジャンボで勝つからいいよ。来週には億万長者ってやつ」

「ほぉ、賭けるか?」

「いいぜ、賭けよう」

「お前が勝つのに200円」

「は?」

「へ、ははは」

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

「黒高にいたって?」


 旧校舎三階。廊下の一番奥。

 音楽室の中で、羽田家と有が話をしていた。


「お前はなんでこうも汗だくなんだ」

 有は彼女の服と、髪を指さして質問した。


「…説明なんていいんだよいらないんだよ。今は、田中エリナに注意を向けなければならないの」

「…俺は…少し休憩が欲しい」

「何もしてないのに?」

「…」

「黒高に行って、ゴミみたいに生徒に手ぇだしてから一文無しのまま旧校舎に戻ってきただけなのに?」

「…」

「あんた恥だと思わないの?」

「お前にとやかく言われる筋合いはない。恩を忘れるな鶴丸」

「うちをその名前で呼ばないで」


 机に腰を置いていた羽田家は、何歩か彼に近づいて、男をにらみつけた。

「女でも男一人ぶっ殺せることくらい知ってるでしょ」

 それから教室は静かになった。


 羽田家はそのまま部屋の中をぐるぐる回って、窓から外を見たり教室内を見たりして考えていた。

「計画を――」

「休みが欲しい」

「は?」


 羽田家が何かを言おうとすると、有がそれを止めた。

「休みが欲しいって言ったんだ。もう今週はお前のお遊びで疲れたんだよ。いつも通り、妹を貸せ」

「黒高で起きた一件以降は、妹を貸さないのが筋だと思うけど…?」

「約束だろう」

「…わかったって、自由にしろ」

 目を合わせず、とにかく雑に言い切った。

 男に、妹を渡したのである。


 羽田家にしても、昔した約束を破りたかったが、約束を破ることは彼女の安っぽいプライドが許さなかった。


「そのあとは俺が何とかするから。お前が、そんなに欲しがっている”田中エリナ”も、連れてきてやる。だから約束というよりかは交渉になる」

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 コンビニの隣のコインランドリーで私は多分、20分ほど待っていた。

 スマホをいじるのはもう飽きてしまった。

 ずっと座るのも、飽きてしまった。

 だから他人の服を回す洗濯機を見て、目をぐるぐるさせていた。

 

 でも、なんだかそのせいで気分が悪くなってきた…

 やめよう。


「はぁ」

 ため息を出して、異常なまでに硬い椅子に腰かけた。

「…もう帰ろっかな。ハルキも家で待ってるし…」


「家で洗濯しようとしても、洗濯機の回し方がわからないんだ。だから今日の朝、保健室で洗おうと思っても必ず先生に助けを求めてたと思う。コインランドリーはいいよね、500円という安い金額で、簡単に洗えるんだから」

「ゆうき!」

「でも、逆に言えば――先生の助けは、500円の価値しかないとも受け取れる。それだとなんだかなぁ」


 松本勇気は、汚い上着を片手に持ってどんどんランドリーの中に入っていき、洗濯機の前で止まると

 扉を開けて、そのまま適当に上着を入れた。

 私の方を見ながら500円玉を入れて、それから隣の椅子に座ってきた。


「こないのかと思った」

 

 私は彼に言った。


「500円玉を見つけられなくて、結局ソファーの下まで探す羽目になったよ」

「それは面白いね」


 私は笑って、彼にそういった。

 …ランドリー内が、少し静かになったかと思えば今度は洗濯機が回り始めた。

 でも、保健室の時みたいにうるさいとは思わなかった。

 

 勇気は、ひたすら前だけを見て、私の方を見ようとしない。

 緊張? というより…後悔? いやいや、話も始めてないのに。

 趣味とか…聞いてみようかな。


「松本さん……は、何か趣味あるの?」

「えっとね、絵をかくのが好きだよ。風景しかかけないけど、あとはゲームとか、アニメかな」

「マジ! 何が好き? 私は家にプレステ2あるよ、中古で買ったから一昔前のやつなんだけどね」


 少し興奮してしまったが、すぐに体制を取り戻した。

 今度はきちんと、私の方を見て話をし始めた。


「ゲームだったら…そうだな…あ! メタルギアが好きだな」

「渋ッ!」

「ハハハハハ!」


 彼は口元を隠して目を閉じ、静かに笑った。

「それとさ、勇気でいいよ別に」

「勇気?」

「おん」

「…勇気の好きな曲は?」

「リナモルガナの…ファーアウェイとか」

「またまた渋いなぁ」


 彼は、まるで照れ隠しのように笑った。

「エリナの好きなものは? 教えてよ」

 少し、体を私の方に近づけてきいてきた。

 でも、視線は前を見たまま。


「唐揚げが好き」

「あとは?」

「ゆらゆら帝国っていうバンド、好き」

「お! シゲイチと同じだ」

「シゲイチ?」

「僕の友達」


 彼はニコニコ笑って、自分の太ももの上に手を置いて温めるように手を擦り始めた。

「寒いの?」

 私は聞く。

「あのジャケットがなきゃなんだかいつも寒いんだよ」

「寒がりってこと?」

「あんまり冬は好きじゃないね」

「ふーん」


 寒がりなんだ。へー。

「…ねぇ、なんでコンビニにいた時万引きを止めなかったの」

 

 私は一歩踏み込んで、彼に聞いてみた。

「万引きも…何か理由があるかなって、悪いのはわかってるけどね。たまに、悪いことをしなければならない時もある。目の前に二択の選択肢がある中で、二択ともが悪という可能性もある。何個かのおにぎりくらいで、僕はエリナを責めたくなかった」


 この人、興味ないように見えて、優しいように見えて。

 でも結局、どっちなのか、よくわからない。

「ありがとう」

 私は、とにかくお礼を言ってみた。

「弟のご飯だったの。お母さんはご飯作らないから、私も作り方知らなくて…」

「いいんじゃないじゃあ」

「…」


 なぜか、許してもらった。


「何の話したい?」


 彼は私に聞いてきた。


「そんなこと聞かれてもなぁ」

「わかんないか」

「うん、わかんない」

「これってデート?」

「みたいなもんじゃないの? あんたがしたいから来たんだけど」

「初デートにしては貧相な場所に連れてきちゃったな。次はちゃんとしたところに連れて行かなきゃ」


 彼は、真顔で言ってまた静かになった。


「へぇ、”次”があるんだ」

 

 少しからかってみた。

 彼は優しく笑って、それから


「そういうわけじゃないけどさ、んんん…まぁ、そういうわけかな」


 私はそんな一言に大声で笑ってしまった。

 面白い人だけど、なんだか読めない人。


 こう、もう少し高校生のテンプレを想像してた。

 ダサいラッパーが好きとか。

 かっこつけて喧嘩するとか。

 先生に口出ししてる俺カッケーとか。


 でも、彼はほかの男子とはまるで違う。

 学校という猿だらけのジャングルで、唯一人間を見つけた気がする。

 

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