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十七本の赤い薔薇  作者: 西村系
第二章 出会うまで

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13/18

出血

「重村さんと武田さんの、ええ、両親に電話しますので。校長先生、お二人と話をしてください」

 そこはやけに白く明るい校長室だった。

 保健室とは違って、高級そうなソファーが二つ。

 その真ん中には品質のいい低いテーブル。


 左側には、色の男、秋山有が生徒たちに恐怖するような顔をしながら座っていた。

 右側ののソファーには、武田晴臣、重村シゲイチが腹を立てて男をにらみこんでいた。


「お前ら何したのかわかってんのかガキッ! 秋山さんはここの元生徒なんだぞッ! 敬意を示せ敬意を、お前らみたいな乱暴な不良品をこの学校に入れなきゃよかったんだよまずまず、受験の時点でお前らみたいなのは斬り捨てていた気になっている私が馬鹿みたいだったなッ!」


 教頭先生はもちろん怒り狂っていた。

 自分の生徒が大人を二人でリンチにするなんて前代未聞である上に、元生徒の大人は頭をパイプで打たれクラクラしているらしかった。


 これは、退学以上に警察を入れた話になる可能性もあったが――

 有は、”優しい”おとこだった。


「別にいいですよハイ! 高校生なんて私の時のような”優等生”ばかりじゃないとわかりますので。それにこう何かを殴りたくなる気持ちもわからないでもねぇ。たまたま、彼らがイライラしていた時に廊下を通りすがっただけですよ俺は」


 秋山有。

 シゲイチと、晴臣の目からしたら男は最高に気持ち悪いクソ同然だった。


「許せるようなことをしていたら両親に電話するほどじゃないんですよッ」

 教頭先生が生徒を二人、指さしてそういった。

「はぁ、それにしても頭を強く打たれてしまった」

「…俺のほっぺはどうなるんだよ。こいつ俺のことガラスで刺したじゃねぇ――」

「お前らは黙ってろと何度言ったらわかるんだッ!」


 教頭がまた怒鳴り声をあげた。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 かっこいい入り方なんざ、僕にはできない。


 かっこいいを、僕は知らない。

 でも、あいつらを漏らすほどの恐怖を埋め立てたい。

 僕は知っている、シゲイチは多分旧校舎のやつに喧嘩を売った。

 名前だけを知られている僕を守るために。

 そして今、守るための行動が…自分をすり減らすことになっている。


 別に人に恐怖をそそるような見た目をしているわけじゃない。

 でも、僕は恐怖を身近に感じたことならある。


 静かな人間こそが、本物の恐怖であることくらい。

 父を通してわかった。

 

 学校の電源をすべて落としてあいつらを暗闇に落とし込む。

 僕が最初に向かったのは、職員室隣の倉庫室。

 物置になっているが、それ以上に学校のブレーカーが置かれていた。

 まず最初にこれを落とす。


 小さな灰色のレバーを下に引くと廊下の明かりも、倉庫も、全てが落ちた。

「…へへへ、へへへへへッッ!」

 10年糞みたいな学校たちで糞みたいな生徒たちと糞みたいな先生たちを耐えてきた。

 シゲイチのためでもあるが、仕返しもしてやろう。


 教頭先生。僕の名前すら覚えてない糞野郎に今から、自分の名前をとどろかせてやる。

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

「お前らの―――え? 明かりが…」

 教頭先生の勢いが止まった、さっきまでシゲイチと晴臣に手を挙げそうなほどの罵声を上げていたのに。


「あぁ、眠くなっちゃう」

 有があくびをすると、校長室の窓に人影が通った。

 でも、カーテン越しでだれなのかはわからなかった。


「ブレーカーが落ちたかもしれない、職員室に行った南先生か、ちがう教員が直してくれると思いますので、少々お待ちください」

 教頭が有に頭を下げた。


 そして、確かに数分後、電気がすぐに戻った。

 が


 扉の前には、松本勇気が有の頭を打つために使われたパイプを持って立っていた。

 生徒の目は長い髪の毛に隠されていた。

 ジャケットからは異臭が放たれている。

 口元は閉じたまま。何も言わずに突っ立っているだけだった。


 シゲイチの前に立っていた教頭は一歩後ろに下がったが、すぐに体制を取り戻したつもりで前に一歩出た。

 指導されていた生徒二人は、勇気を見た途端先ほどの恐怖をなくしたようだったが、笑わず、まるで怒られているように下を向いているだけだった。


「なんだお前ッ! 何年生だ、教室に戻れッ」


 勇気は、それを聞いてパイプをぶら下げ

 緑色のカーペットに先っぽだけを置いて、部屋をゆっくり、一歩ずつ回り始めた。

「二年」

 見えない目からは、異常なほどの視線を感じた。

 パイプが、カーペットに擦られて音を鳴らすごとに秋山有は震えた。


 部屋を回る生徒は言った。

「俺は二年。この学校にいる」

 手元は白く、冷たく見えた。生徒の名前を、教頭はまだ知らない。


「二年生かッ! 名前を言ってみろ」

 大人は、つばを飲み込んで生徒に質問をした。

「俺の名前を知らないのは、お前だけだ」


「お前ッ――」

 教頭が怒鳴ろうとするとブレーキがまた落ちた。


 部屋は、一気に暗くなると、教頭は何が起きているのかを確かめようとして窓際まで走り込みカーテンを開けようとしたが


 大人は、生徒の胸にぶつかった。

 パイプは一向、強く握られた。


「あぁ、ああ」

 教頭は目を閉じて、パイプが飛んでくるのを待った。

 でも結局飛んでくるのは、冷たい視線だけだった。

 大人は震えあがり、何歩か後ろに下がった。


「何も見えない、何も、何も――」


「叫んでみろ」

「あぁッ!」

 

 勇気は男の耳にささやいた、振り払おうとして男は後ろを向いた。しかし、何も、そこには、いなかった。

「誰だッ、だれなんだ」

 

 教頭は立ち尽くして、カーテンにさえもう近づこうとしない。

 彼は、殴られるのを恐れている。

 

 そんな教頭に似て、秋山有は身を丸めて震えがっていた。

 冷や汗が背中を伝い、暗闇の中で身体が縮こまった。


 シゲイチは、ひそかに恐怖する秋山有の声を聞いて、彼が唯一恐怖するものが分かった。


 部屋の中は、生徒一人の足音だけが、全ての音だった。

 それ以外は、何も聞こえないほどの静けさだった。


 教頭が一歩前に踏み込むと、何か割れるような音がした。

 彼は、割れたガラスに足を踏み入れていたのだ。


「これは何だと思う」


 教頭は過呼吸になりつつあった。

 逃げ場なんてなかった。

 男は、独りで周りをどれだけ見回しても何もわからなかった、何も見えなかった。

 もう男は、その場を逃げ出したいと思うほど不快な気分になっていた。


「なん、はあ、なんだ…」


「廊下の、割れたガラスだ。誰かが、俺の友達を傷つけるために使ったガラス」


 すると、パイプがガラスにぶつかるような強い音が部屋の中に響き渡ると、教頭先生の脚にガラスが飛び上がり、男の脚を傷つけた。


「ああああッ!! くっそ、クソ、退学だぁ。てめぇら全員退学だ。高卒の糞ガキどもが人生を捨てたなゴミッ! ゴミだ、ごみなん――――」


「晴臣の頬に刺さったのは、これと同じガラスだ」

 そういって、誰かが教頭の背中、服と、皮膚の間に大量のガラスの破片を入れた。


 男は、動くごとに激痛に出会い。

 そして、暗闇の中で絶叫しながら膝から崩れ落ちると膝に、破片が刺さった。


「地面はお前の逃げ場じゃない」


「どこも逃げ場なんてない」


「お前は自分の居場所も知らない」


「お前は独りだ」


「独りだ」


 それを聞くと、秋山有はとっさに立ち上がり扉の方向へ走っていくとドアノブに手をかざしたが、触れた瞬間手のひらが切れた。


「あああああああああああああああ!!!!!!」


 松本勇気は、部屋のそこら中にガラスの破片を仕込んでいた。


 秋山有は痛みに絶叫して扉から急いで離れて背中を壁に預けるが、コート越しに尖っている物を背中に感じた。

 壁にも、破片がノリでくっつかれていた。

 

 秋山有は声をなくし、呼吸に集中して痛みを消そうとしたが、手元が震え、涙があふれる。

 背中に何が刺さっているか、その冷たく、尖った感覚でしかわからない。


 教頭は背中を動かせないまま悶絶して、背中からスーツを遠ざけ破片を地面に落とそうとするが、すでに破片一つ一つが男の背中の血と、汗のせいで落ちなかった。

 そこに手を入れると、一つ一つが刺さっているのが指と指の間に入った破片からわかる。


 一本ずつ、抜くしかない。

 教頭はそう実感した。


 膝も、片手も地面についたまま教頭は右手を背中まで伸ばし、皮膚に深く刺さったガラスの破片をゆっくり慎重に抜くと、分散していた肉がまた戻るようなとてつもない激しい苦痛に襲われると

 自然に口元が開き、唾液すら飲み込めないほど集中した。


「俺はお前らに触れていない。でも、触れていないからこそ痛いだろ」


「俺に喧嘩を売るな。”秋山有”お前の顔はたった今ここでバレた。」


「これはただの挨拶だと思っておけ」


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