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十七本の赤い薔薇  作者: 西村系
第二章 出会うまで

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二択

「有をここに連れ戻せ」


 一時間ほど歩いて――

 汗でずぶ濡れのまま羽田家が旧校舎内に足を踏み入れた。


「羽田家さんッ! 有さんならもう黒高に――」


「なら連れ戻せッ! 今すぐにあいつをここに連れ戻せッ! 夏帆も彼と一緒にだ。もう無計画じゃない、これからは意地を見せてやる」


「…ッ! ハイッ!」

―――――――――――――――――――――――――――――――

 結局、エリナという後輩と僕は同じところに向かっていた。


 エリナは、少し遠回りをしていただけだった。なぜなのかというと、あの廊下を見ればすぐに分かった。

 二人の女性が倒れて泣き崩れていたのだ。

 これほど乱暴な女子に、僕は会ったことがなかったが…多分面白い人なんだとおもう。

 知らないけど…


 三人。僕と、エリナと、保健室の浜松先生と一緒に保健室にいた。

 保健室はストーブが効いていて、暖かく、なんとも心地が良かった。


 他にも、ベッド以外にいろいろ家具もある。

 長年使われたような黄緑色のソファーだったり、大量の小説や、何らかの身体的障害や心の病気について語る本などが置かれた棚も壁沿いに置かれていた。


 エリナはベッドのカーテンに隠れて、多分着替えている。

 先生はそれを待って何かの書類に筆を動かしている。


「先生、僕のジャケットも洗ってくれますよね」

「もちろん。でも、田中さんのズボンが先になるかな。君のは臭いし泥だらけだし一緒に洗うとちょっと駄目だから」

「…わかりました」


 この保健室は別に病人の臭いはしなかった。どちらかというと、腐り気味のソファーの臭いだったが、何となくその臭いも掃除用のやつ匂いで隠れている。


 …いい匂いなのか、悪い臭いなのか…あまり自分では判断できない。


 すると短パンとスカートを着たエリナがカーテンの裏から出てきた。

「浜松先生、お願いします」

「…あそこにあるから自分で入れてやって」


 仕事から一切目を離さず、先生は左を指さして窓際にあった洗濯機をエリナに見せた。

「はい」

 彼女は一言だけ言って洗濯機に近づいて中に、ケツ部分が茶色になったズボンを入れた…


 ん? 茶色? 漏らしたのかこの人? それなら手洗いのほうがいいが…


「…違うから」

「え?」

 急に話しかけてきた。


「絵具だから」

 僕の視線を感じて言い訳をしてきた。

 確かに…漏らした臭いはしない。


「うん…」

 笑いをこらえて返事をした。


 彼女はそのまま洗濯機のボタンをポチポチ押してソファーに座った。

 体重がソファーに乗ると彼女は一気に沈んだ。 やっぱりこのソファー古い。

「授業行かないのか?」

 僕は立ったまま彼女に聞く。


「調子が悪い、少し頭が痛い」

「じゃ熱はかろっか」


 浜松先生が急にしゃべって、デスクの上にあった電子体温計を手に持って立ち上がり、エリナに手渡した。


「松本君は? 何か用なの? ないならジャケット脱いで後で戻ってきて」

「いや、僕は……僕も頭が痛いっす」

「……はい、体温計」


 僕を少しにらみこんでから先生が体温計を渡してきた。

 もちろん、嘘をついた。


 僕もソファーに座った。エリナの隣で体温計を脇の下に入れて待っていた。

 話しかけようとも思ったが、彼女はずっと黙って壁を見ているだけだ。

 …僕に話しかけてみようという気持ちすらないのかこの人。


「僕――」

 ガシャガシャガシャァァーー!!


 さっきの洗濯機が急にうるさく動き始めた。

 くっそぉ…


「あのぉ、さっき、名前言ってなかったよね僕!!」

 少し叫んで、彼女に言った。

「松本勇気! 今二年生なんだ!」


 すると、彼女はすぐに立ち上がって先生に体温計を見せた。

「うん、熱ですね」

 浜松先生はそう言って体温計を手に取り、デスクの上にあったアルコールをかけてから振って乾かし、大量の体温計があったコップに戻した。


「帰る? それとも休憩しておく?」

「ん、休憩しておきます」


 エリナがそう答えると先生は頭を振ってまた仕事に専念した。

 僕は、というともちろん熱はない。

 …


「先生、そういえば南先生が体育館の方で呼んでましたよ、アルコールが足りてないとか。届けに行った方がいいと思いますけど」

 先生は少し考えこんでから、頭を上下に振って僕の方を向いた。

「勇気君に頼んでいいかな」

「僕は風邪だと人にうつすかもですよ」

「確かに。 体温はかってて、今行ってくるから」


 浜松先生はそう言って立ち上がり、大量のアルコールが入った瓶を手に取り保健室から出て行った。

 先生が出ていくのを確認してから僕は必死に体温計を暖房の前で温めた。


「熱ッ! 熱熱熱ッッ!!」


 もう大丈夫だろうと思い体温計を暖房の前から出すとエラーが表示されていた。


「…親指と人さし指ではかる部分を強く握るとできるよ。でも、暖かい水をかけたほうが早くできる」


 カーテンの裏、ベッドの方から声が聞こえた。

 エリナが、僕を助けてくれた。


「へ、へへ」

 僕は笑って、水道まで駆け寄り暖かい水が出るまで待って体温計をかざした。

「なんでそんなに私といたいの?」

 また、彼女がしゃべった。


「…君と、話してみたい」

 僕は正直に伝えた。

「努力してるのは、正直尊敬するけど…」

「尊敬以上に、返事をしてくれよ」

「そんなに話したいなら話してあげる。浜松先生は、授業中は職員室で仕事するから、その間だったら」

「マジで?」

「マジで」

「マジで?」

「さっさとして」

「…おん」


 僕は返事をしてから、ピーピー鳴る体温計を水から出した。

「38度ちょうどだ」

「よかったじゃん」


 すると、先生が帰ってきた。

「あのさ、松本君。南先生生校長室でなにか話をしてたみたいだからあまり首を突っ込んでないけど、一応体育館のアルコールも見てきた」

 

 ヤバイ、ここでバレるのか。

 嘘が。

 ヤバイ。


「一応、確かに減ってたから入れたけどさ、気になるのはシゲイチ君だよね。友達でしょ、松本君と」

「あ、一応、はい」


 ”一応”…先生のしゃべり方が一瞬うつってしまった。

 ていうか、シゲイチ? シゲイチが校長室にいた? 何が起きてるんだ、確かにシゲイチは一限目の授業にいなかったけど…

 校長室? あいつ、そんな悪いことするようなやつだったっけ。

「シゲイチっすか? 僕知らないっすよ指導されてたなんて。なにかあったんすか」

「? 廊下がガラスと血だらけになったの見てないの? シゲイチ君と晴臣君が学校のお客さんに暴行をしたらしいの。多分、退学処分になるけど。パイプとか持ってきてたし、ガラスも割ったし、叫び声が学校中に広がったのよ? 聞いてないわけ?」


「い、いや…まったく」

 それなら、話が違ってくる。

 シゲイチと話さなきゃ、晴臣の味方をしなきゃ。

 何かが起きたんなら、ここでじっとしてられない。


 …血だらけ。

 まさか、シゲイチの血じゃあ…

「松本君。校長室行かないほうがいいよ、友達でも」

「は? でも」

「体温計見せて」

「…」

 僕は体温計を手渡すと、偽物の体温を見てからアルコールをかけてコップに体温計を戻した。

「熱だよ。出ないほうがいい」

「でも、シゲイチが」

「帰る? それとも休憩する?」


 今ここで帰れば、シゲイチのところまで走って会いに行けるかもしれない。

 でも、ここで休憩すれば、次の授業が始まって先生は職員室に戻る。

 そして僕は…エリナと、話ができる。


 二択。

 二択に、迫られてしまった。

 カーテン越しから、エリナが深呼吸してるのが聞こえる。


「努力してるのは、尊敬する」


 やっと、やっと彼女と話ができると思ったのに。

 …

 

 シゲイチは、僕が小学のころからの親友だ。

 彼は、明るくて、大きくて、僕とは真反対で…

 でも、いつもお互いを見捨てなかった。


 彼はいつも僕を信じて行動して、前に僕が自殺をしようとして道路で寝ていた時も、彼が、彼が助けてくれた。

 お父さんと、お母さんが喧嘩をしていた時、いつも彼が家に泊めてくれていた。

 シゲイチは、家族以上に、僕にとって大切な人だ。


 なのに、なのにこうやって一人の女性と、一生の親友を比べて立ち止まってる。

 かっこ悪い。

 こんな友達かっこ悪いよ…


「エリナ、僕帰るわ。放課後よかったら十字通りのコンビニの隣にあるコインランドリーきて」

「帰るんだね。親に連絡するよじゃあ」

 先生はそう言ってデスクに座って電話を手に取るが、僕はそれを止めた。

「親父も、お母さんも仕事なので電話は受け取れないです。大丈夫ですよ、家近いので。ありがとうございます、独りでも帰れるんで」

 先生は手に握っていた電話をそっとデスクの上に置いた。


「……校長室に入るなら、かっこいい入り方しなよ」

「放課後ね」


 先生と、エリナが僕にそういうと

 僕は扉を開けて、保健室の外の冷たい風を身に浴びて校内を歩き始めた。


 目的地は、もちろん。もちろん唯一頼れる親友の場所だ。


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