出会い
それから、私は教室に戻って授業を済ませた。
だけど。今日はなんだか校内がやけに静かだ。
なんというか、みんな囁いている気がする。
休憩中にトイレに行って、教室に戻り、席に座り込むと体操服…ケツに何かがべっちゃりついたような感覚がして立ち上がった。
「…」
椅子には、大量の、乾ききれていない茶色の絵の具が塗られていた。
体操服が茶色ならまだよかったが…この学校の体操服は明るい青色だ。
だから、遠くでもわかる。
私は周りを見回して、笑いをこらえてそうなヤツを見つけようとした。
すると、すぐ廊下に女三人ほどが――
でも、私の視線に気が付いてすぐにどっか行った。
私は体操服の上からスカートだけは履いて茶色を隠した。
くっそ。死ね、死ね死ね死ね死ね―――
咄嗟に絵の具でぐちゃぐちゃの椅子をつかんで持ち上げて廊下に走る、三人が背中を向いて歩いているのを見つけるとその椅子をクソビッチどもに投げつけた。
左の女に当たってそのまま地面に落ちると、もう二人が私の方を向いた。
「あんたイカれてんの?」
そういわれてさらに腹が立った。
ふざけるな。ふざけるなよ、私に手を出していいのと思ってるのかこの糞アマ。
ぶっ殺してやる。
静かに近づいて左の女の髪をつかみ上げてから引っ張って地面に女ごと投げ捨ててから一発腹に蹴りを入れた。
真ん中の女は逃げて行った。
「弱虫め…」
私はそう言い捨てた。
「てめぇら、先生になんか言ったら次はないと思え。廊下でもなんでも見かけたらぶっ殺すからな。私の椅子にもう小細工するのはやめておくんだな」
そういってもう一発だけ女の腹を蹴って歩き去ろうとしたその時、廊下の角で知らない男とぶつかった。
私は何歩か後ろに下がってから、男を見た。
くそぉ、さっさと”事故”現場から離れたいのに。
「臭い」
これで離れてくれるか!? 本当に卵臭いんだよ!
男は私より背がずいぶん高くて、長い…パーマで……?
あれ、見たことある上に、聞いたことあるぞ。
まさか、松本…
やばい。こいつはマズい人だ、近寄ったら旧校舎のやつらに――
「どいてくれませんか」
私はとっさに声を出した。
「どこかで会いました?」
無視するな! 無視するな私のことを!
すでにイライラしてる上に服の洗濯をしなきゃならないんだお願いだからどいてくれよぉ…
「いいえ、多分いいえ」
変な答え方しちゃった。
「いいや、絶対いいや」
変な返事をされちゃった。
「確か、コンビニで一度会ったよね…?」
パーマの男、多分松本勇気は私に指を指してそういった。
仕方なく、私は彼と少し話したくなった。
「…随分としゃべり方も、雰囲気も変わりましたね。前はあんなに冷たい人だったのに」
敬語で、できるだけいい人を装って…
でも、本当に人が変わったようだ。
なんだろう、優しくなったようで、孤独になったようで…
彼を見ていると、彼のことが少しわかる。
例えば、左手の中指にこぶができている。
この人はよく絵を描くんだろう、それかよく勉強するんだろう…
髪の毛も、前に比べて雑にセット…いや、セットはされてないが、乾燥しているように見える。
濡れて、そのまま乾かしたような。
制服の上から着ているジャケットも、背中がボロボロで泥だらけだったり、卵の臭いがしたり…
この人、本当になんなんだろう。
どういう人なんだろう。
なんでこんなに…興味が…
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しかし、エリナの家の裏庭。
倉庫の下右端の鉄がさびていて、ネズミが入れるくらいの穴があった。
そこに、約二日前からシャベルが叩かれ、穴はエリナの見えないところで大きくなっていた。
昼のうちに、倉庫の穴は完全に子供一人が通れるような大きさになっていた。
「へへへ、へ」
倉庫に閉じ込められていた汗だくの羽田家は、大声で笑って、さらにシャベルで鉄をたたきはじめた。
「ああああぁぁぁぁ!!!」
「人が、生きている間。すべては二択なんだ。簡単な、二択なんだ」
「きみが、たった今ここで人を殺したとする。死体を隠す? それとも、そのままにする? 死体を隠せば、警察にバレない。だったらそれでいい、でも、隠さなかったら警察にバレる。警察にバレれば、あなたはまた二択に迫られる。あなたは、罪を告白する? それとも、嘘をつく? 嘘をつけば、殺したことがばれない。だったらそれでいい、でも、罪を告白すればあなたは刑務所に連れていかれる。ここで、また二択に迫られる。あなたは、逃げる? それとも運命を受け入れる? …その繰り返しなんだ。つまらない二択ばかりのつまらない人生なんだ」
「エリナちゃん。あなたは、二択の中で、うちから逃げることを選んだの。でもね、うち…あなたを逃がさないことにしたから」
「大丈夫だよ、エリナちゃん。今度はしっかり。扉を閉めて、あなたに会いに行くから」




