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神は見通し 〜もしも生まれ変われるなら〜

作者: 千代 龍太郎

「あれ、私……」

 気がつけば、天子はポツンと漆黒の中にいた。さっきまで神殿で輝と話したり、笑ったりしてたのは憶えている。でもその先は? 思い出そうと努力するが、まるで記憶が無い。

 自分は今どこにいるのだろうか。戦いは終わったのだろうか。他のみんなは無事なのだろうか。そして輝は……。

 神力を探ろうにも誰ひとりとして何も感じない。なにか嫌な予感がする。天子は無意識に自分の胸に手を充てようと、体に這わせた時に違和感を感じた。

「何これ!?」

 ぽっかりと窪む腹。少し思い出しました。輝に襲いかかる詔の攻撃を庇って負傷したこの傷。なのに痛みや体の不快感が無い事に何故気が付かなかったのだろうか。そして何故、この負傷で今こうして平然と立っていられるのか。

「待って……」

 なんとなく。なんとなくだが、ここがどこなのか。そして自分がどうなってしまったのか分かってきたかもしれない。

「私……もしかして……私……!!」

 動悸と呼吸の乱れが天子を襲う。目眩と吐き気で右も左も分からず、泣き出しそうな時、ふわっと後ろから自分を包み込む暖かくて柔らかいものを感じた。

「やっと見つけた」

 聞き馴染みのある声。その声を聞くと、不思議と安心感に満たされる。天子は背後にいる彼の名前を呼んでみた。

「輝……?」

 落ち着きを取り戻した天子は後ろから回された、がっしりとした腕にそっと触れると彼の正体を確認する為、ゆっくりと振り返った。

「当たり」

 やはり輝だった。屈託のない笑みを浮かべる彼に会えた事が嬉しいと思った反面、この空間に輝がいる事に疑問を感じた。

「輝! なんでここに!?」

「僕も天子と同じだよ。大丈夫。あっちの世界はちゃんと守ってきたから」

「そんな……あなたまで……」

 まるで他人事のように話す彼を他所に天子は泣き崩れた。

「泣かないで」

「泣くに決まってるじゃない。あなたは人間なんだよ? 神の事情に巻き込まれて死んじゃうなんて……。友達がいて、ご両親もいるのに……」

 そう、輝は被害者。たまたま貧乏神が憑いてしまっただけのごく普通の人間。本来なら戦いに身を投じる必要だってないし、ましてやこんな事で命を落とす事もなかったのだ。

 神々のエゴによって狂わされた彼の人生の終わりに天子は涙が止まらなかった。

「世界を守れた。友達と両親、そして家族を守れた。でも君を守る事ができなかった……。本当にごめん」

「いいよ、そんなの……。……みんな、無事なの?」

「怪我はしてるけどね。ひいちゃんに水玖ちゃん、地佳さんに雷夢さん。紗奈恵と真は無事だよ。だから安心して行こう」

 輝の言葉の後、彼は指差す先に光が差した。漆黒の空間を照らすその光は、まさに雨が止んで雲の切れ間から差す、温かな太陽の光のよう。その光は舞台のスポットライトのようにまっすぐ道を照らしていき、その先に漆塗りのように艶々に輝く黒い門があった。

「ダメだよ。私は何人も殺した。輝が生まれる前から神引きをいっぱいした。きっと地獄に行くから輝とは一緒には行けない」

「心配いらない。僕も地獄行きだ。狛犬と詔を殺したんだからね」

「それは世界を救おうとした故の結果でしょ?」

「その理論なら天子だって、理由はどうあれ、人類全てを低級神にする事を防いでたじゃない?」

 返す言葉がなくなった。

「一緒に償おう。そして罪が赦されて、生まれ変われる事ができたなら、その時はまた僕の恋人になってほしい」

 輝はスッと右手を差し出した。まるでプロポーズのようなシチュエーションに天子は先ほどとは違う涙が溢れ、真っ直ぐ見つめる彼の目を見る。

「私の方が長生きだったから、輝の方が早く贖罪するかもよ?」

「待つさ。何十年、何百年だろうと」

 まったく、この人には敵わない。涙を拭い、天子は彼の手を握る。

「ありがとう。来世でもよろしくお願いします」

 そっと口づけを交わし、二人は黒い門に向かってまるでバージンロードを歩くみたいにゆっくりと歩き始めた。

 もう恐いものは何もない、彼と一緒なら。生前の、彼と一緒に過ごしたたくさんの思い出を振り返り、天子は柔らかな表情で初めて愛した男性と門の中に入ったのだった。

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