episode:高峰ヤマネ
どうも、えっと……あ、そうです。初めまして、私は高峰ヤマネです。高天原の高に、峰打ちの峰で高峰で、カタカナのヤマネで高峰ヤマネです。
あはは、初めて話聞かせて欲しいって言われた時はびっくりしましたよ、斎藤に何かあったんですか? ああ、すみません。いま雑誌の記者崩れのことやってて、なんでも聞いちゃうんですよ。
飲み物、頼んでもいいですか? 葛西さん、何にします?
いいじゃないですか、一人で飲むの味気ないんで。すいませーん! アイスカフェラテと、アイスコーヒーお願いします。はい、砂糖入ってて大丈夫です。
この喫茶店のコーヒー美味しいって聞くんですよね。記者をするからには色々なところにアンテナを巡らせないといけないんですけど、私そういうの下手くそで……多分向いてないんですよね。
あ、すみません。斎藤の話を聞きたいって言われてたのに。
でも、私は話せること全然無いですよ、同じ学校に通ってたのなんて、小学校まででしたし、斎藤なんて同じクラスの根暗な奴くらいの印象だったから。
そうなんですよ、すごく根暗で……いや、先生が根暗って言ってただけで、もしかしたらそうじゃなかったかもしれないんですけど。
私が小学校の頃の担任の名前、カネタニって言うんですけど、この人は気に入らない生徒のこと徹底的に虐めてたんですよ。当時斎藤はカネタニ先生に気に入られてなくて……少し不思議な子供だったからかもしれないです、彼が。
四六時中本を読んでいて、学校に来たら教室には来ずに図書室に登校するような子でした。
卒業までには全ての本を読み尽くす勢いだったと思います。
斎藤は……体育にも参加してませんでした。大抵の子供が好きな図画工作とかにも参加しなくて、本当にただひたすら本だけを読み続けるような子で、だからこそカネタニ先生も斎藤のことが気に入らなかったのかな。自分の思い通りにならない、変な子供だったから。
斎藤とは小学校の間、二度同じクラスになりました。三年生の時と、五年生の時。カネタニ先生が担任だったのは三年生の時です。私たちが一年生、二年生だった頃の一年一組と二年一組の担任もカネタニ先生で、確か斎藤はそのどっちも一組だったはずです。
斎藤は、最初のうちは授業に参加してたらしいんですよね。
ああいえ、これも当時の友達……と言えるか分からないんですけど、休憩時間に外で毎日一緒にドッヂボールをしてた浜中に聞いただけで、本当かは分からないんですけど。
斎藤、相当陰湿なイジメを受けてたみたいで……。むしろ毎日図書室登校だとしても小学校に来てただけ偉いと思いますよ。
小学生って、残酷なところがあるじゃないですか。先生がすることって、子供たちみんなしていいと思うんですよ。
子供たちの前で叱咤されて、馬鹿にされて、アレは虐めてもいいモノだって先生が示すんです。そしたら、子供はそれを鵜呑みにして次々に斎藤を虐めるんですよ、総攻撃ですよね。
あ、ありがとうございます。アイスカフェラテは私で……あ、そうです。すみません、ちょっと喉乾いちゃって、一口いただきます。
あ、美味しい。カフェラテに入ってるのがクラッシュアイスっていうところが、分かってるなーって感じですよね。中々無くて、こういうお店。
ああ、すみません。斎藤が虐められてる場面を、私は一度だけ見たことがあります。「斎藤菌」って呼ばれて、彼が触れたもの全て「ばっちい」「汚い」って笑われて、当時缶の筆箱流行ってたの知ってます? こう、蓋がカパって開く。
そうそう、なんか可愛い絵が描かれた。クラスのゴトウくんって子が「斎藤、缶の筆箱って持ってる?」って聞いて、彼が首を振ったら、翌日みーんな缶の筆箱で……でも斎藤、缶の筆箱持ってきてたんです。
あれ、そういえばあの時、なんで斎藤、図書室登校じゃなくて教室に来てたんだろう。頑なに図書室登校してたのに。
すみません、ちょっと記憶があやふやで。どうしても子供の頃の話なんで。
斎藤は、からかわれても引き攣った笑顔で場に溶け込もうとしてました。その笑顔が、子供ながらにあまりにも痛々しくて、……そこから私は斎藤のことを見なくなりました。
給食の時間も、掃除の時間も、斎藤はずっといないものとして扱われてました。給食では、斎藤の分は飛ばされて、掃除では斎藤が集めたゴミは放置される。
普段掃除に厳しかったカネタニ先生も、斎藤が集めたゴミを放置した子供たちを褒めたんです。
自己意識、歪みますよね。
あ、そういえば……小学校の時、五年生の時点で転校してきた中本くんっていう生徒が、斎藤と仲良かった覚えがありますよ。
虐められてた斎藤の傍にずっといて、話していた覚えがあります。
それまで誰も近くにいなかった時間を取り返すみたいに、斎藤はずーっと中本くんと一緒にいました。
私の小学生の頃の記憶はそれくらいですね。結局、私中学校は別のところに行ったので、それ以降の斎藤のこと、知らなくて。
これくらいしか話せなくてすみません。カフェラテ、ご馳走様でした。
失礼します。




