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第4話 — 骨の逃走と甘い作戦

「確かなのは、失敗するってことだけ。あとは全部、即興だ。」



村を出ようとしたその時、ユズキのローブを小さな手がぎゅっと掴んだ。 彼女は驚いて立ち止まり、視線を下に落とす。


くしゃくしゃの髪に好奇心いっぱいの瞳をした子供が、期待の眼差しで見上げていた。


「ねえねえ、お姉ちゃん、インプたんはどこ?」

細くて希望に満ちた声が響く。


ユズキは優しく微笑んだ。


「探してくるね、約束だよ。」


子供は少し迷ってから、空を見上げた。


「ばあちゃん、帰ってくる?」


ユズキは胸に手を当て、しゃがんで子供の目線に合わせる。

そっと頭に手を置き、優しく言った。


「帰ってくるよ。私と骨っこレンで迎えに行くから。」

少し間を置いてから続けた。

「今日、何か見た?」


子供は首を横に振った。


「ううん…インプたんと遊びたかったけど、ママに止められたの。」


ユズキは微笑みを保とうとしながら頷いた。


「わかった。帰ってきたら、お菓子持ってくるね。インプたんも一緒に遊ばせるから、いい?」


子供はぱっと笑顔になり、元気よく手を振って家へと駆けていった。


ユズキはゆっくり立ち上がり、まだ少女の家の扉を見つめていた。


「森を通ろう。」

彼女はレンの方へ向き直りながら言った。

「アクマちゃん、よくここで薬草を採ってた。師匠がいつも命じてたの。」


レンは頷き、二人は歪んだ小道を通って森へと向かった。


彼はユズキの顔を見つめた。いつもより真剣な表情だったが、何も言わなかった。


「その悪魔の名前、アクマちゃんって言うの?皮肉だな。」


ユズキは目をそらし、木々を見つめた。




「師匠が家に連れてきたの、私がまだ小さい頃。名前は私がつけたの。笑わないで、かわいいでしょ?」


レンは我慢できずに吹き出した。


「ちっちゃい悪魔ちゃん…おいで〜!羽付きネズミ〜!骨あるぞ、かじるか?」


ユズキは腕を組んで、むすっとした顔になった。


「アクマちゃんって呼ぶの!」


彼女は深く息を吸い込み、叫ぶ準備をした。


「アク──」


言い終える前に、何かがジグザグに飛んできた。まるで混乱のポーションでも飲んだかのような動きで、地面にドサッと転がりながら着地し、土と葉っぱを巻き上げた。


レンは一歩後退した。


「これが…アクマちゃん?」


ユズキは彼に睨みをきかせた。


「あなたの悪口のせいで来たのよ。見て、ほら。」


アクマちゃんは立ち上がり、羽をバサバサと振ってから、魔法のくしゃみを一発。地面からぽんっと花が咲いた。


ユズキは膝をつき、彼にそっと話しかける。まるで、いつも必要な時に現れる古い友人と再会したかのように。


レンは腕を組んだ──いや、いつものように組もうとして失敗しながら──じっと見ていた。


「羽付きネズミが言うこと聞くなんて…初めて見た。」


アクマちゃんは必死にジェスチャーを繰り返す。まるで早送りの無声劇を演じているようだった。ユズキは魔法の方言でも翻訳しているかのような集中力で、ひとつひとつ頷いていく。


レンは、鼻水を垂らすインプに驚くこともなく、ただ見守っていた。


「バカバカしいな。羽付きネズミがドラマチックなジェスチャー劇って。次は何だ?オペラを歌うキノコか?」


ユズキはその言葉を無視し、インプのジェスチャーが終わると、レンの方へ向き直った。


「師匠が彼に隠れるように言ったって。何が起こるかは教えてくれなかったけど…何かが起こるって、もう分かってたみたい。」


アクマちゃんはユズキの肩に乗り、またくしゃみを一発。今度はローブの袖から花が咲いた。


レンはため息をついた。


「つまり、計画されてたってことか。」

少し間を置いてから続けた。

「その…ブライトヘイヴンって街、遠いのか?ツキコが手紙で言ってた友人って誰か分かる?それとも、家々を回って『怪しい実験してる魔女、知ってます?』って聞いて回るしかないのか?」




ユズキはしばらく空を見上げていた。木々の隙間から覗く空を見つめながら、記憶をたどる。


「小さい頃、師匠に連れられて行ったことがある…ような気がする。でも、その友達が誰だったかは覚えてない。探すしかないね。」


レンは、もはや世界に論理を期待していないような声で頷いた。


「なるほど。ツキコは行方不明。友達は謎。街の記憶はぼんやり。あと何が足りない?自動で爆発する地図か、謎かけしか話さない観光ガイドか?」


ユズキは小声でレンを罵り始めた。魔法の言葉と創造的な悪口を混ぜながら。


その間、アクマちゃんはユズキの髪を引っ張りながら、木々の間の一点を必死に指差していた。


「今度は何よ?」

ユズキが顔を向けた瞬間だった。


森の奥から、空気を裂くような咆哮が響いた。


そして、悪夢から飛び出してきたような異形の怪物が、歪んだジャンプで姿を現した。 巨大な狼の体に、人間の腕と脚が背中にくっついている。黒い瘴気を放ち、周囲の葉を枯らしていく。


ユズキとレンは声を揃えて叫んだ。


「うわああああ!モンスター!」


レンはユズキの腕を掴み、走り出した。


「もう一度死にたくない!俺は不死の骸骨だけど、痛みは感じるんだ!噛まれるのはゴメンだ!」


「道を通ろう!」

ユズキが右へ引っ張ろうとする。


「バカか!道ならすぐ追いつかれるぞ!」

レンは、足元の根っこを避けながら叫んだ。それはまるで彼らを転ばせようとしているかのようだった。


「うまくいくか分かんないけど、作戦がある!手伝って、骨っこレン!」


レンはユズキを見て、次に迫ってくる狼を見て、そして自分の存在を見つめた。


「…分かった。選択肢はない。うまくいってくれ。じゃなきゃ…俺は餌だ。」


二人は木々の間へと消えていった。アクマちゃんも後を追い、魔法のくしゃみを連発しながら、必死に飛び続けていた。

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