第2話 — アンブラ村へようこそ(爆発はご遠慮ください)
「魔法って、自己肯定感みたいなもの。
不安定で、予測不能で、すぐに燃え上がる。」
森の中の小道は、まるで地図と落書きを間違えた誰かが作ったようだった。 枝は顔を叩こうとし、根っこは足を引っかけて転ばせようとする。 そして、名前未定のネクロマンサー——でも発電所並みのエネルギーを持つ彼女——は、止まることなく喋り続けていた。
「それでね、逆召喚の呪文ってのがあって、理論上は魔法の鏡と六本足の猫が必要なんだけど、私はバスルームの鏡と翼のあるネズミで代用したの。ほぼ成功だったよ。ネズミは煙になって、鏡はポータルになった。隣人のトイレに。」
「すごいな…」 俺は、俺を裁くような目つきの木を避けながら呟いた。
空は紫と緑の間で点滅していて、黙示録かレイヴか決めかねているようだった。 そして、歪んだ木々と、憂鬱なネオンのように光るキノコの間から、村が現れた。
傾いた塔、浮かぶ家、無表情なゴーレムが巡回している。 ゾンビたちは歩道を掃除していて、魔法使いの帽子をかぶったカラスが「偽物め!」と通行人全員に叫んでいた。
「ようこそ、アンブラ村へ!」 彼女はテーマパークの案内人のように両腕を広げた。 「大陸最高の魔法使い、ネクロマンサー、召喚士たちの故郷!そして…私の故郷でもあるの。」
魔法使いの一団とすれ違った。 一人が彼女を見て何かを囁き、もう一人が笑い、三人目は社会的拒絶の呪文のようなジェスチャーをした。
「…みんな、私のこと好きじゃないの」 彼女は笑おうとした。 「でも大丈夫!最近は成長してる!今週はまだ何も爆発させてないし!」
「まだ火曜日だぞ」 俺はぼそっと言った。
見習いの集団が通り過ぎる。 一人が俺を指差した。
「見て!彼女、ちゃんと機能するスケルトンを召喚できたんだ!奇跡だ!」
「俺は召喚されたんじゃない」 俺は答えた。 「アイスクリームトラックに轢かれただけだ。」
沈黙。 一人が咳払いし、もう一人は聞こえなかったふりをした。 ネクロマンサーは、気まずそうに笑った。
「オッシーノ・レンは特別なの」 彼女は言った。 「話せるし、考えるし、皮肉のレベルが高いの!」
「俺の最大の力さ」 俺は言った。 「現実を鼻で笑うこと。」
さらに進むと、村の中心に着いた。 魔法市場は、ポーションや禁断の素材で賑わっていて、 「セール!呪い一つで魂三つ!」と叫ぶ商人もいた。
俺は視線を感じた。 囁き声。 彼女から距離を取る人々——まるで爆発寸前の存在かのように。
「みんな、君を避けてるな」 俺は言った。 「どうしてだ?」
彼女は立ち止まった。 頭を下げ、肩も落ちた。 目の輝きが、一瞬だけ消えた。
「…私、あまり上手くないの。まだね。師匠は、私には才能があるって言ってくれる。でも…誰も信じてくれない。私…」 声が震えた。 彼女は、苦いポーションを飲み込むように、涙を飲み込んだ。
沈黙。
「この空、色盲のタコが描いた絵みたいだな」 俺は空を見上げながら言った。
彼女は瞬きをしてから、笑った。 「ほんとだ!ピンクに泡が浮かぶ日もあるし!一度は羽根が降ってきた!しかも…燃えてる羽根!」
彼女のテンションは戻った。 気候の呪文について語り始め、雪を降らせようとして紙吹雪の嵐を作った話もした。 そして、村の忘れられた一角にたどり着いた。
廃屋。 静寂。 カビと古い魔法の匂い。 そして、遠くに見える一軒の歪んだ家——屋根はまるで眉間にしわを寄せているようだった。
「そこだよ!」 彼女は指をさした。 「私の師匠の家!きっとレンのこと気に入るよ!機能する骸骨に魂が宿ってるなんて、ずっと見たがってたの!しかもユーモアのセンスまである!超レアだよ!」
彼女は駆け出した。転びそうになりながら。 俺は後を追った。俺の骨が、悲しげなカスタネットのように鳴っていた。
その家は、まるで呼吸しているようだった。 窓は瞬きをし、風もないのに扉は軋んでいた。
玄関の数歩手前で立ち止まった。 彼女を見た。興奮で震えていた。
「きっとすごいことになるよ!」 彼女は言った。
「もしくは大惨事だな」 俺は呟いた。
「両方かも!」 彼女は笑った。
扉が、疲れたため息のような音を立てて開いた。 ネクロマンサーは先に入った。 自分で巻きつこうとしている絨毯につまずきそうになりながら。
「師匠ー!帰りましたー!」 彼女の声はキラキラしていた。
部屋の奥では、一人の人物が瓶や大鍋をいじっていた。 髪はぐちゃぐちゃのお団子、ローブはポーションの染みだらけ。 肩には小さなインプが乗っていて、曲がった眼鏡をかけ、鼻水を垂らしながら震える巻物を持っていた。
「来たのね」 師匠は振り向かずに言った。 「憂鬱なカエルのエッセンスの瓶を取って。エントの涙の壺の後ろよ。」
「はい、師匠!」 ネクロマンサーは、生きているような棚に駆け寄った。
インプがくしゃみをした。 鼻水のジェットが瓶に命中。 液体の色が変わった。 師匠はまったく動じない。
「爆発したら記録して。役に立つかもしれないから。」
レンが部屋に入った。 骨の音が部屋に響く。
師匠が振り向いた。 レンを見て、叫んだ。
「幽霊!呪われた歩く災厄!地獄の骨!」
インプは肩から落ち、空中で一回転し、鍋に頭から突っ込んだ。 紫の泡が立ち上る。
レンは部屋を見回した。 そして師匠を見た。
「おはようございます。俺はただの骸骨です。呪いなし。地獄なし。あるのは皮肉と慢性的な痛みだけ。」
師匠は瞬きをした。 そして少女を見た。
「これ、あなたが召喚したの?」
「違います!というか…はい!というか…正確には違います!彼は現れたんです!空から!いや…棺から!」
「棺から?」 師匠は眉をひそめた。 「それは新しいわね。」
彼女は近づいた。 レンをじっと見て、肋骨をつついた。 レンは退屈そうな顔をした。
「それ、感じる?」
「残念ながら。」
「興味深いわね。」 師匠は瓶を取り出し、緑色の液体をレンにかけた。 レンは奇妙な光に包まれた。 その光は煙になり、煙は小さな『ふーん』になった。
「今の、テストですか?」
「浄化の試みよ。耐えたのね。珍しいわ。」
「俺は不死身です。でも全部感じる。今のポーションも。腐ったキャベツの味がした。」
師匠は、まだ鍋から出ようとしているインプを見た。 「記録して:『高感度の不死骸骨。次元的異常の可能性あり。宇宙的エラーの可能性あり。新しいマスコット候補の可能性あり。』」
レンは腕を組もうとした。 …が、骨が協力してくれなかった。
「俺はマスコットでもエラーでもない。ただ、情けない死に方をして、さらに情けない生き方をしてるだけの男だ。」
少女は笑った。 「すごいよね、彼!」
ツキコは彼女を見た。 次にレン。 そして、ようやく鍋から出てきたインプを見た。インプの額にはキノコがくっついていた。
「これは…面倒になりそうね。」
レンはため息をついた。 …つもりだった。
「クラブへようこそ。」
ツキコは、空から間違って落ちてきた禁断のアーティファクトでも見るような目で、まだレンを観察していた。
「私はツキコ」 ようやく彼女は言った。 「高等ネクロマンシー、不安定な錬金術、そして家庭用魔法爆発からの生還術の師匠よ。」
レンはネクロマンサーを見た。 彼女は今、風の魔法でインプの鼻水を吹き飛ばそうとしていたが、むしろ部屋中に拡散していた。
「で、そっちは?俺をうっかり召喚したと思ってて、マスコットみたいな名前までつけたハイテンションな見習い?」
少女は動きを止め、瞬きをして、目を見開いた。
「えっ…自己紹介してなかった!?」 彼女はツキコを見て、次にレン、そして泡を吐いて咳き込むインプを見た。 「興奮しすぎて…その…!」
「よくあることだ」 レンは言った。 「テンション高い人とか、脳と口の間にフィルターがない人とか。」
彼女はうつむいた。少し落ち込んだ様子で。 「ごめんなさい…私、ユズキです。ネクロマンシーの見習いで…時々…ちょっとドジです。」
「“ちょっと”は優しすぎるな」 レンはぼそっと言った。
ツキコは、まるで生きているかのようにうねる巻物に記録を取っていた。 巻物は、書かれるたびに身をよじっていた。
「それで…どうやってここに来たか、分からないのね?」
「分かってるのは、アイスクリームトラックに轢かれたこと。 その後、ソファの前でコーヒーを飲んでる神様の隣に立ってた。 で、今ここ。骨だけ。文字通り。」
「興味深いわね。」 ツキコは猛烈なスピードで書き込んでいた。 「それで、何か能力は発現した?」
「顔だけで冒険者三人を追い払った。あと、召喚された存在と間違われた。それって能力に入るか?」
「入るわ。“外見による副作用”として。」 彼女はインプを見た。 「それ、記録して。」
インプは書こうとしたが、鼻水が巻物に垂れていた。 ツキコはため息をついた。 「…自分で書くわ。」
こうして、テストが始まった。
ポーション、呪文、魔法陣、そして「魂の匂いは感じる?」「植物に触れると泣く?」などの意味不明な質問。 レンはすべて同じトーンで答えた。
「知らん。」 「たぶん。」 「そうじゃないことを願う。」 「それ、侮辱か?」
ユズキはついていこうとしたが、最終的にキッチンの椅子で寝落ちした。 膝の上には開いたグリモワール。 口からはよだれの糸。
ツキコはレンを見た。 「寝てもいいわよ。私は記録を続けるから。二階に部屋がある。シンプルだけど…機能的よ。」
レンは階段を上がった。 廊下は、引退したドラゴンの背骨みたいだった。 部屋には歪んだ木のベッド、勝手に動くカーテン付きの窓、そして「アンデッドとの共存法」や「迷える魂のための自己啓発」などの本が並ぶ本棚があった。
彼はベッドに倒れ込んだ。 木が悲鳴のような音を立てた。
「最高だな。俺より文句言うベッド。」
天井を見た。 そこには目の絵が描かれていた。 目が、瞬きをした。
「だよな。安眠なんて、望む方が間違いか。」
目を閉じようとした。 …まぶたがなかった。
「寝るだけでも地獄かよ。」
横向きになった。 枕は魔法の羽根でできていて、囁いてきた。
「あなたは十分です。」 「きっと、うまくいきます。」
「これは…感情的拷問だな。」
ため息をついた。 …つもりだった。
「おやすみ、魔法の世界。俺の存在より軽い悪夢でありますように。」
そして彼はそこにいた。 骨のまま。 ベッドの上。 静かに自分を笑っているような部屋の中で。
レンは呪文、魔法診断、そして励ましてくる枕を乗り越えた。 ユズキは興奮で爆発寸前(物理的にも)。 ツキコは、誰にも理解されない部分まで記録した。
そして最後に——骸骨は部屋と名前、そして…居場所を手に入れた。 たとえその部屋が、静かに彼を笑っていたとしても。
次回まで。魂より骨が文句を言いませんように。