第1話 — アイスクリームトラックに轢かれて死亡、手違いで蘇生
俺の名前はレン。
ただの「機能してる大人」だった。人生のチュートリアルモードで、起きて、働いて、「大丈夫そうな顔」をして、繰り返すだけ。
そんな俺の物語に、アイスクリームトラックが甘くて悲惨な終止符を打った。 文字通り、甘くて悲惨。
子供を助けようとして死んだ。 その結果、骸骨の体を手に入れた。不死身のスキルもついた(痛みは感じるけど)。そして、看板ですら微妙なユーモアを持ってる魔法世界に放り込まれた。
今の俺は、ギシギシ鳴る骨だけの元人間。説明書なし。肉なし。 そして、俺をマスコットだと思ってる魔法初心者のネクロマンサーと一緒にいる。
これが転生なら……誰か、申請書を間違えたな。
俺の新しい人生へようこそ。
肉はないけど、皮肉はある。
「人生は甘い。アイスクリームトラックに轢かれるまでは。」
目覚ましが鳴った。まるで「お前は死んだ」と言ってるみたいだった。妙にしっくりきた。
起き上がる。床は冷たくて、部屋はラーメンと絶望の匂いがした。鏡を見た。映った自分は人生を辞めたがってるようだった。
「おはよう、レン。まだ死んでないみたいだね。おめでとう?」
昨日のシャツを着た。いや、先週も着てた気がする。食パンをかじった。硬かった。賞味期限を見た。「3日前に切れてます」。俺のやる気と同じだな、と思った。
家を出た。空は灰色だった。でもアニメの切ない灰色じゃない。請求書が積もった月曜の灰色だ。
電車の中、みんなNPCみたいな顔。男がスマホでパズルゲームを鬼のようにプレイしてる。隣の女性は「幸せになる10の方法」って本を読んでた。俺はただ窓を見つめてた。現実がバグって、異世界に飛ばしてくれないかと願いながら。
職場に着いた。受付は俺を無視。上司は壊れたプリンターを見るような目で俺を見た。席に座って、PCを起動。システムを開いたら、エラー404。
笑った。今日初めて、何かがしっくりきた。
「今日死んでも、誰も気づかないだろうな」 小声で言った。隣のインターンが「ん?」とだけ返した。
無視して、天井を見た。神様って、今俺を見てたりするのかな?
――ネタバレすると、見てた。でもコーヒーのマグカップ選びに夢中だった。
仕事を終えて外に出た。世界が俺を拒絶してるような気がした。太陽はもう諦めてた。風はわざとホコリをぶつけてくるみたいだった。
角を曲がったところで、小さな子供が道路を渡ろうとしてた。リュックは体より大きくて、車をドラゴンみたいに見てた。
向こう側で母親が叫んでた。「ユイ!待って!」 でもユイは待たなかった。ユイは走った。
そして俺も……走った。
なぜかは分からない。反射?本能?人生で初めて何かまともなことをしたかったのか?
ただ、走った。叫んだ。腕を伸ばした。
そして、つまずいた。
足が歩道の穴に引っかかり、体はアイスクリームトラックのバンパーにぶつかった。
そう。アイスクリームだ。側面には「最後まで甘く」と書かれていた。
世界が回った。音はノイズになり、時間はゆっくりになった。俺の死がどれだけ情けないかを見せつけるために。
子供?道路の手前で止まった。無事だった。
俺?ニュースになった。
「若者、英雄的行動で死亡。現場に溶けたアイスあり」
意識が途切れる直前の最後の思考:
「せめてゴミ収集車じゃなくてよかった」
そして……沈黙。
でも綺麗な沈黙じゃない。こっちを嘲笑うような沈黙。
最初に気づいたのは、呼吸してないこと。 次に気づいたのは、それを気にしてない自分。
「……ああ、死んだか」 声が出るか試してみた。出た。けど、響きが……空っぽだった。
文字通り。
視線を下げる。大腿骨が二本。俺のだ。肉も筋肉もない。真っ白。 俺は歩く骸骨だった。解剖学の教科書のマスコットみたいな。でも笑顔はなかった。
周囲を見渡す。光のトンネルなんてない。あるのは古びたソファ、パンくずの散らばったテーブル、そしてコーヒーを飲む神様。
そのマグカップにはこう書かれていた:
「マルチバース最高の神(母談)」
神はアストラル新聞を読んでいた。地獄界の天気予報:炎90%、悲鳴10%。
叫ぼうとした。出たのは、調子外れのマラカスみたいな音。
「お、来たか」 神は新聞から目を離さずに言った。 「ちょっと待って、週刊アポカリプス予報の最後のページだから……」
立ち上がった。手で体を隠そうとした。無意味だった。骨に羞恥心はない。元人間にはあるけど。
「えっと……神様……?」
神は俺を見た。 「うわ、思ったよりひどいな。転生、荒れたなあ」
指を鳴らすと、空中にスクリーンが現れた。俺の葬式が映っていた。
泣き声。花。叔母が「まだ若かったのに…」と呟く。 いとこは「フルーツスマッシュサーガ2」を鬼のようにプレイしていた。
俺たちは黙ってそれを見ていた。まるで出来の悪い昼ドラの最終回みたいだった。
「戻れる?」と聞いた。
「カルマのキャッシュバックでも無理だよ、坊や」 神はコーヒーを一口飲んだ。 「それに……残念だけど、君の元の体が見つからなかった。盗まれたんだ」
「盗……なにィ!?」
「そういうこと。だからそのまま、骨のままで生きてもらうしかない。文字通りね」
もう一つのスクリーンが現れた:
【あなたは獲得しました:パッシブスキル – 不滅の骨格】 効果:死なない。でも、痛みは感じる。
俺はため息をついた。いや、つこうとした。
「これは地獄だな」
神が指を鳴らした。ポン。
俺は新しい世界に放り込まれた―― 安っぽい棺の中から這い出る形で。周囲は廃れた墓地。墓石にはこんな名前が並んでいた:
「ここに眠る、人生にAlt+F4を試みた者」
俺はそこにいた。骨だけの存在。新しい世界。マニュアルなし。肉なし。あるのは皮肉と不安定な鎖骨だけ。
棺から出た俺の姿は、階段から投げ落とされた骨袋そのものだった。文字通り。
空は紫。木々は炭でできてるみたいだった。空気はカビた本と後悔の匂い。
周囲を見渡す。墓石にはこんな言葉が刻まれていた:
「ここに眠る、現実でチートを使おうとした者」 「羞恥心で死んだ者」 「安らかに眠れ、でもほどほどに」
倒れた看板にはこう書かれていた:
「注意:周辺に見習いネクロマンサーの痕跡あり」
「最悪だな……」俺は呟いた。 「死んだ上に、魔法初心者のチュートリアルになったのかよ」
歩こうとした。骨がぶつかり合う音は、悲しげなマラカスと落ち込んだカスタネットの合奏だった。
一歩踏み出すたびに、世界が俺を笑ってるような気がした。
手を見た。指骨だけ。肉も指紋も、身分証明もない。
「これって異世界転生?それとも俺専用の罰ゲーム?」
突然、三つ目のフクロウが墓石に降り立った。俺をじっと見て、「ブー!」と叫んで飛び去った。
「なるほど。この世界、ユーモアはあるらしい。最低だけどな」
墓地の出口まで歩いた。錆びた門にはこう書かれていた:
「ここを出たなら、おめでとう。地獄の本番はこれからです」
ため息をついた。いや、つこうとした。
「新しい世界、新しい体、説明書なし」 遠くを見た。空に浮かぶ山々、逆流する川、そして酔っ払いが設計したような街の建物。
「また地獄だな」
歩き始めた。骨の音が俺に付き添ってくる。悲劇的で、滑稽で、予想通り。
墓地を出た俺には、失うものが何もなかった。文字通り。皮膚も、尊厳も、計画も。
地面は生きた石でできていて、踏むたびにうめき声を上げた。空は紫と緑が交互に点滅していて、色の決断ができないみたいだった。
道らしきものを進む。誰かが「道ってこうだろ?」って適当に作ったような感じだった。
途中、浮かぶ看板が現れた:
「チュートリアル:最初の5分で死なない方法」 【エラー:ファイルが見つかりません】
「だろうな」
少し進むと、声が聞こえた。冒険者たちだ。三人。輝く鎧、魔法の剣、そして「俺が主人公だぜ」って顔。
俺を見て、固まった。
「モンスターだ!」弓使いが叫んだ。
「逃げろ!」戦士が叫んだ。
「待って、笑ってる?」魔法使いが言った。
「顔の筋肉ないんだよ」俺は答えた。 「ただの頭蓋骨だ」
彼らは叫んで、逃げて、消えた。
「なるほど。俺、モンスターにも嫌われる顔か」
その時、「やったー!」という声が茂みから聞こえた。
一人の少女が飛び出してきた。マントにつまずきながら走ってくる。髪はボサボサ、目はキラキラ。手には、セール品みたいなグリモワールを握っていた。
「成功した!やったー!」 俺を指差して、感激のあまり転びそうになっていた。
「えっと……こんにちは?」
「あなた!あなたは私の初めての成功した召喚よ!」 彼女はくるくる回っていた。 「やっぱり式は合ってたんだ!ちょっと時間かかったけど……三日くらい?でも成功した!」
「お嬢さん……俺、召喚されたんじゃない。死んだんだ」 間。 「しかも、かなり情けない死に方で」
彼女は止まった。俺を見た。グリモワールを見た。空を見た。
「じゃあ……あなたは私の魔法骸骨じゃないの?」
「骸骨だよ」 間。 「魔法っぽいかもしれない。でも君のじゃない」
彼女は考えた。そして笑った。
「じゃあ、魔法の失敗作ってことね!それってもっと面白いじゃない!」 グリモワールを開いて、何かを書き込んだ。 「あなたの名前は……ホネちゃん!」
「俺の名前はレンだ」
「ホネちゃん・レン!」
ため息をついた。いや、つこうとした。
「これは地獄になるな」
彼女が背中をポンと叩いた。骨が二本、落ちた。
「ごめん!直し方、勉強するから!」 彼女は骨をトロフィーみたいに持ち上げた。
そして、俺たちは歩き始めた。彼女は魔法について語り、俺は背骨を保つのに必死だった。
俺の骨の音には、今や仲間がいた。 ――やる気だけはあるけど、常識はない見習いネクロマンサー。
エピローグ – レンより(たぶん)
まあ、第1話を乗り越えた。 「乗り越えた」って言っても、技術的な意味でだけどな。
ここまで読んでくれた君、おめでとう。 君は俺の上司よりも忍耐強くて、コーヒー神よりも共感力があって、たぶんあのネクロマンサーよりも判断力がない。
今回の教訓? 衝動で道路を渡るな。 可愛いスローガンのトラックを信用するな。 そして「あなたは死にました」ってアラームで目覚めたら……その日は布団から出ない方がいい。
今の俺は、正式に死んでて、不死身で、健康保険もない。 残された道はただ一つ。前に進むこと。
ギシギシ鳴る骨、鋭い皮肉、そして俺をマスコットだと思ってる魔法初心者の少女。
これが異世界転生なら……ジャンルそのものが迷走してる。
次回でまた会おう。 それまでに骨がもう少し減ってなければいいけどな。