Re:吸血姫幼女と送る、愉しい軟禁生活③
基本的に彼女の仕事は炊事洗濯掃除などなど……家事全般がメインとなっているようだ。言葉の通りに、エリザの身の回りの世話をするのが主な役割といったところだろうか。
けど、お世話役といってもただ単にエリザの生活面をサポートするだけじゃない。九十九にはもっと他に役割がある。どっちかと言えば、秘書みたいな立ち位置なのかもしれない。
俺が聞いた限りの話だと、まずはエリザが持っている資産の運用。なんか資産的には元からけっこうな額を持っていたらしいけど、それを元手に株やら投資やらをやって、更に稼いでいるらしい。
……えっと、エリザって凄くお金持ちなんですね。社畜の俺とは大違いですわ。資産運用とか、株やら投資だなんて、一番縁の遠い言葉だし。
もし、俺がそんなものに手を出そうものなら……おそらくFXとかやって、金を溶かす未来しか見えないだろう。投資の知識ゼロだからな。手も足も出ずに粉砕玉砕大喝采って感じになると思う。
次に所有している物件管理の仕事。つまり、大家だ。なんていうか、その……実はこのエリザの家。というか、住んでいる賃貸マンション。まさかの一棟丸ごとエリザの所有物件だったりするんだよね。嘘だろって思うけど、本当の話なんですよ。
ただ、あのぽわぽわした感じのエリザがそれを管理できる訳も無いし、そもそも興味も無ければ、まず戸籍を持っていなかったので、表立って所有することが不可能なのである。
で、そこに関わってくるのが九十九。というか、九十九の一族。なんでも、彼女の家系は先祖代々、古くからエリザに仕えてきた一族らしく、主従関係を結んでいるとのこと。つまり、簡単に言えば従者の家系だな。
その一族の中に不動産経営をしている家があって、そこの人にエリザの持っていた土地にマンションを建ててもらい、そして表向きの所有者として、九十九が代わりに立ち入って色々とやっているようだ。
……いや、もうね。ツッコミどころが多すぎなんですけど。俺には冗談にしか聞こえないんですが? という風に思えるほどにありえない展開ばかりなんだよな。
てか、なんだよ先祖代々って。古くからってなに? どれだけ昔からエリザに仕えてるのさ。そもそも、どんな縁があって吸血鬼に仕えるだなんて話になったんだろうか。不思議すぎて仕方ないぞ。
あと、その話が本当だった場合……それだとエリザの年齢って、かなり上ってことになるじゃん。今いくつだよ。もしかして、100歳を超えてるとか?
あんな可愛らしい幼女の見た目だったから、絶対に年下だと思ってたのに……あんな見た目で人生の先輩だったとは。これまでの中で一番の驚きだわ。
……と、そんな感じで。俺の中でエリザが銀髪ロリ吸血鬼から銀髪ロリババア吸血鬼にレベルアップ? を果たしたところで、話を元に戻そうか。
とりあえず纏めると……九十九はエリザに代わっていろいろなことを任されているって感じだな。全権委任と言うか、丸投げされてる感じだけど。
それと余談だけど、彼女は護身術や武芸にも長けている。さっき俺の背後にスッと現れたのも、そういった技術を用いたものだったりする。気配を殺して一瞬で距離を詰めてきて、そのまま首元にナイフを突き付けてきたわけだ。
そんな彼女を相手に抵抗なんてしようものなら、九十九の宣言通りに俺は命の危機を迎えることになるだろう。この女、マジで容赦のない一撃を放ってきそうだからな。末恐ろしいわ。
……ただ、吸血鬼の主に対して、どこでそんな戦闘スキルが役に立つのかという話なんだが……もしかすると、俗に言うヴァンパイアハンターなるものがいるのかもしれないな。知らんけど。
以上、説明終わりっと。
「で、お前。いつまで床の上で寝てるつもりだ?」
「いや、俺だって好きで寝転んでいるわけじゃないんだが……?」
腕組みをしながら睨んでくる九十九に向けて、お前が原因だぞと視線を向けながらそう言ってみる。すると、彼女は小さく舌打ちをした。
「つべこべ言わず、さっさと立て。それともなにか。少し痛い目を見ないと、分からないのか?」
「いえ、何でもないです」
威嚇するように拳を握りしめる仕草を見せる相手九十九に対し、俺は即座に立ち上がり直立不動の姿勢を取る。それから逆らう意思はないですよ、という意味を込めて敬礼してみる。
そんな情けない姿を見てか、彼女は哀れむような視線を……いや、違うな。あれは侮蔑するような目だ。ゴミを見るような目でこちらを見ているような気がする。そういう需要がある人にとっては、垂涎ものの表情だろうけど。俺には全くと言っていいほど無いですね、はい。
「まったく。毎度毎度、手のかかる男だな」
そして九十九は俺の顔を見ながらため息を吐いた後、くるりと背を向ける。
「いいから行くぞ。これ以上、お前ごときの為に時間を浪費したくないからな」
それだけ言い残すとスタスタと歩き始める九十九。その後を追いかけるようにして俺も歩き出す。向かう先については、なんとなく分かってはいる。この時間なら、あそこしかないからな。
「ところでさ、九十九。一つ、聞いてもいいか?」
「断る」
「いや、まだ何も聞いてないんだけど……」
「どうせお前のことだ。くだらん質問に決まってる」
振り向きもせずにバッサリと切り捨てられて、俺は苦笑いを浮かべることしか出来ない。そういう決めつけ、良くないよ? それと俺じゃなかったら、普通に傷ついてるところだからね?
しかし、この女……もう少し俺に対して、優しさというものを見せてくれてもいいと思うよな、本当に。まっ、こういった理不尽さには慣れてるからさ。主に上司や先輩社員どもに鍛えられてるからね。あまり誇りたくはないけど。
そういう訳で、聞きたくはないとこいつはいうけれども、勝手に聞かせてもらうとしよう。会話のキャッチボールが成り立たないのなら、相手の顔面に向かって投げることで、無理矢理にでも会話を成立させるまでだ。
「お前ってさ、今いくつなの?」
「……」
「ねえ、聞いてる? ちゃんと聞こえてる? それとも、耳にクソが溜まり過ぎて、聞こえてないの?」
「………」
「おーい、聞いてくださいよ。ねえ」
「…………」
……ダメだ、こいつ。まったく取り合う気がないな。完全に無視を決め込んでやがる。冷徹っていうか、鉄仮面っぷりが半端じゃない。ふはは、怖かろう、って感じ。質量を持った残像で対応しなくちゃ。
「……24だ」
「へ?」
「年齢は24歳。これで満足か?」
九十九がゆっくりとこちらに振り返りつつ、心底不愉快そうな表情のまま、不機嫌そうに言い放った。そして再び前を向いて歩き出す九十九。そういった彼女の対応ぶりに、俺は頭を掻いてからため息を零す。
てか、なるほど。24ってことは、俺よりも年下ってことね。俺、26歳だし。けど、年下だったのならさぁ、もう少し年上の人に対する態度というものがあると思うんだけどね。うん。
我、人生の先輩ぞ? もっと敬ってくれても良いんじゃないか? ……まぁ、ろくな経験を積んではいないのだけれども。むしろ、向こうの方が豊富な経験積んでそうだけどもさ。
そうして九十九とのろくに成立していない、会話とは言えないやり取りを続けているうちに目的地へと辿り着いた。
そこはこの家のリビングに該当する場所だ。無駄に広く、今まで上限二人でしか扱ってこなかったことを考えると、非常にもったいない使い方をしていると思う。
ただ、置かれている調度品はどれもこれも高級感溢れるものばかりであり、とてもじゃないけど庶民派の俺からしてみれば、落ち着かない空間になっているのは間違いない。
ここに住むようになってしばらく経つけど、未だにこの雰囲気に慣れることができていないんだよな。なんというか、場違い感が凄いんだよ。貧乏人には辛い環境だ。