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1章 あの担当職員、絶対に許さん!

ワシはゆっくり目を開けた。


遠くまで広がる白い雲と草原…

そして『天国転生相談センター』という建物があった。

ワシは少し疑問に思いつつもその建物に入った。

「あまくに転生相談センターにようこそ!」

受付らしき者がこう言った。

あぁそうか…天国と書いて「あまくに」なのか…。

一瞬戸惑ったが改めて聞いた。

「ワシは死んでここにいるのか?」

「その通りです。ここに来る方は自分がまだ死んだって分かっていない方もいらっしゃるのでその辺りを理解されているととても助かります。」

受付はにこやかに返した。

「ワシはこれからどうなるんだ?」

尋ねると受付はペラペラと名簿らしきものをめくり、

「えぇと、身分証明をしますのでお待ち下さい。」

そう言ってワシのおでこに手をかざした。

すると5秒程で

「はい。確認出来ました。」

にこやかな表情を崩すことなく

「あなたの生前ランクはBランクになりますね。」と続けた。

生前ランク?何やら聞き慣れない言葉だ。

「生前ランクとはあなたが現世を生きてきた中で人の為の奉仕や困難の多さなどを加味して天国行きなのか地獄行きなのか現世に返すのかを判断するランク付けの事です。」

受付は後ろの方に目を向け

「Bランクの方はあちらになりますね。」

と、舗装された通路を指差した。

隣に見えるCランクは砂利の道、その隣に見えるDランクはゴツゴツとした岩があり、更にその隣に見えたEランクからは悲鳴と怒鳴り声が響いていた。

どうやらワシはまともな通路を通れる様だ。

「通路を通られた先に転生担当課がありますのでそちらに向かって下さい。」

そういうと、受付は一つ頭を下げた。

ワシは受付を後にして通路へと向かった。


暫く歩いた先に大きく「転生担当」と書かれた看板があった。

どうやらここで間違いないようだ。

「転生担当はここか?」

ワシは向かいにいる担当に声をかけた。

「はぃ。ここですぅ。」

なんだ、この頭の悪そうな喋り方は?

ワシは少し不安になりながらも聞いた。

「ワシは天国にいけるんじゃろ?」

「そう言われましてもぉ、私だけの判断ではないんですぅ。」

若干、コイツの喋り方にイラつきながらも

「ワシは悪い事、一切してないし他人に対して迷惑はかけとらん!独りで精一杯生きてきたんじゃ!天国に行った所で問題無かろう!」

そう詰め寄ると

「そんな怖い顔しないで下さいよぉ。今からあなたの事を会議にかけるのでぇ、そこで判断されますからぁ。」

これだからお役所仕事は。ワシは現世でも役所に詰め寄った事を思い出し、ここでも同じかと苛立ちを覚えていた。


しばらくしてワシは大きな部屋に呼ばれた。

どうやら会議が始まるようだ。

目の前にはワシをグルリと囲うように10人程の人間らしき者が居た。

その中でひときわ大きい者がワシにこう言った。

「貴様、名前は?」

ワシは自分の名前を答えると

「その名に偽りはないな?」

「そうじゃ、それがワシの名じゃ。」

それを聞いた途端、

「このたわけ者がぁ!」

ものすごい剣幕で広い部屋に怒号が飛んだ。

「貴様は現世に置いてありとあらゆる悪行を行い、人の迷惑を顧みず、己の保身と欲求だけで悪行三昧の数々。挙げ句の果てに生前ランクを偽装しFランクの所をBランクで渡ってくる所業。断じて許しがたい!」

「はぁ!何かの間違いじゃ!ワシは、そんなことした覚えはないぞ!偏屈ジジィと呼ばれようともワシは言い返さんかったし、保身と欲求で動いた事なぞないわ!それにランク偽装なぞどうやってするんじゃ!ワシには無理じゃろう!」

「えぇい!黙れっ!貴様の所業は明白!よって現世に送り返し、もう一度やり直すがよい!」

「なんじゃと!もう一回調べなおせ!頼む!現世だけには戻りたくないんじゃ!」

「ならば人以外にしてやろう!もう一度やり直して来るがよいっ!」

そういうと、目の前の人間達は一斉に両手を挙げた。

瞬間、雷に打たれた様な衝撃が全身を走っていったのを感じた。

次いで上から落ちる感覚。恐らくここから現世へ戻されているのだろう。

人と違う生き物か。いっその事、誰かに愛される様な動物にでもなってみるか。

そうだな。昔、上野で見たパンダとかどうだろう。

いや、アイツは大きくなると故郷に返される。

ワシ、日本語しか喋れん。

猫や犬だと人に接する機会があるから嫌だ。

いっその事、羽の生えた鳥。コンドルなんてのはどうだ。

カラスは頭は良いが、ゴミ漁りはしたくないから無理だな。

落ちていく感覚はそれだけの事を考えさせてくれた。


か、しかし・・・。


気がつくとワシの目線は地面スレスレにあった。

地面が近い・・・。

感覚でいうと腹這いで頭を上げた状態に思えた。

周りを見ると、どうやら卵の様な物が辺り一面に敷き詰められていた。

どうやら産まれたてなのだろう。

しばらくゴソゴソと動いていると、運良くガラスの破片が落ちていた。

これは好都合とワシは自分の姿を写してみた。


「な・・・なんじゃこれはぁ!」


そこに映っていたのは一匹のゴキブリ・・・。


そう、ワシは全人類に嫌われ見つかれば排除される、あのゴキブリに転生してしまったのである…。

呆然としていると、突然上からヒラヒラと紙が落ちてきた。

そこには「お詫び」と表題があり、続けて文章を読むと、

「この度、弊社の担当職員のミスにより貴方様に対し多大なご迷惑をお掛けしました。誠に申し訳ありませんでした。弊社と致しましては、今回の事に対する補償を行いたいと思いますので、下記の場所までお越し下さい。」

と書いてあった。


・・・何だと!?

つまり、あのバカ担当職員のせいでワシはゴキブリに転生したってわけか!ふざけんじゃねぇ!しかもここまで来いだと!?この体でどれだけかかると思ってんだ!お前が来いよ!何処までも役所仕事しやがって!絶対許さん!


ワシは怒りを露わにした・・・が、冷静に考えてみるとここに行けばワシへの誤解は解け晴れて自由になれるやもしれん。

そう思い返し

「待っとれよ!転生担当っ!」

慣れない体でワシは思いの丈を叫んだ。








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