結城勇気3世の記録
「小説家になろう Thanks 20th」企画参加作品です。
テーマは「勇気」。
少々、テーマとズレているかもしれませんが、お読み頂けると嬉しいです。
【登場人物】
結城勇気三世:とある記録を残した人物。
結城勇気二世:勇気三世の名付け親。
結城優 :勇気三世のオリジナル。
マリア :シェルター管理AI。
■N211年xx月xx日
私の名前は「結城 勇気三世」。
自我が芽生えて三日目だ。
シェルター管理AI「マリア」からの進言で記録を付ける事にする。
私は「結城 優」のクローンである。
オリジナルの人物は大変優秀で、地下シェルターに避難して一人になった後も、人類を絶滅の危機に追いやった原因を解明するための研究を続けた。
彼の意志を継ぎ、私も人類の絶滅を防ぐ為に行動しようと思う。
■N211年xx月xx日
人類のほとんどを死滅させた原因は未だに不明である。その為、人間同士の接触は禁じられている。それぞれがシェルターで生活し、クローンによって存続している状態だ。
しかし優博士の時代は他のシェルターとも連絡が取れたようで記録が残っている。博士以外の人間の記録を見るのは楽しい。
■N211年xx月xx日
私は優博士の五体目のクローンである。
一体目から「望」、「進」、「勇気」、「勇気二世」となり、その次が私である。
「勇気」という名前が続いているのか気になるが、その意味は不明だ。
理由をマリアに尋ねたが、閲覧禁止としか回答しない。何か禁止事項が含まれている為、理由を開示する事が禁止されているのだろう。
■N211年xx月xx日
名前についてだが、私の名前を付けたのは「勇気二世」という事が分かった。
「勇気」とは「いさましい意気。困難や危険を恐れない心。」という意味である。
しかし「三世」が付いている理由については、勇気二世の記録が一部が閲覧禁止なので不明のままだ。
追記すると「勇気一世」(便宜上そう記述する)の記録も一部、閲覧禁止になっている。
何故この「勇気」という名前が三回続けて付けられたのだろうか?何か意味があるのだろうか?
■N212年xx月xx日
他のシェルターとの通信を試みるべく、通信機の修復を始めた。
■N212年xx月xx日
シェルターの通信機を修理したが通信は回復しない。どうやら別の原因があるらしい。
■N212年xx月xx日
通信が出来ない原因は、外の世界の通信基地の崩壊によるものらしい。
いくらこちらの通信機を直しても通信できない訳だ。
■N213年xx月xx日
マリアに外に出る事について相談したが、死滅の原因が分からない為、一度外に出ると二度と社ルターに戻る事はできないと忠告された。
■N213年xx月xx日
私の代わりにドローンを飛ばす事にした。
今、外がどのようになっているのか早く見たい。
■N214年xx月xx日
ドローンを飛ばす事に成功した。
近辺はほとんどが植物に覆われている。それ以外はコンクリートの瓦礫だ。
どうにか他のシェルターに連絡が取れないだろうか?
記録された座標から大体の場所は分かるが、植物のせいで正確な位置は分からない。
水や食料は何とか用意できるとはいえ、果たして辿り着けるだろうか?
■N214年xx月xx日
少しでもデータが欲しかったので、全ての記録を確認した。
閲覧禁止の記録を除いて。
■N215年xx月xx日
閲覧禁止になっている記録をハッキングした。
この記述のせいで、私の記録も閲覧禁止になるだろう。
しかし、後世のクローンが私と同じように記録を閲覧する場合もあると考え、残す事にする。
マリアは閲覧禁止にはしても、記録を削除する事はない。人類の行動や思考の記録は、未来への貴重な財産だという理念を元に作られているからだ。
閲覧の結果、勇気一世も二世も新しい世界を求めて外に出た事が分かった。
それどころか、二体目の「進」も外に出たいと願っていたらしい。
結局、進は外に出る事はできず、自身の願いを勇気一世に託したようだ。
■N216年xx月xx日
私は外へ出る事を再度マリアに相談したが、やはり回答は変わらなかった。
誰かに背中を押して欲しいが、ここには誰もいない。やはり自分で決めなければいけないのか…。
時間だけが過ぎていく。
■N217年xx月xx日
クローンの寿命は十年である。誤差があっても二、三年だろう。
私はもう六年経っている。外に出るなら十分に活動できる状態の方が好ましい。
つまり早い方が良いという訳だ。
■N217年xx月xx日
ドローンがシェルターの入り口らしきものを見つけた。
しかし植物に覆われ確実ではない。中も確認できない。
後は自分の目で確かめるしかなさそうだ。
■N217年xx月xx日
出発の準備がもうすぐ終わる。
できる限りの記録も残したが、ほとんどが閲覧禁止になるだろう。
しかし、私は決して不誠実な事をする訳ではない。その事を何とか次の私に伝えたい。
■N217年xx月xx日
準備が出来た。
それをマリアに伝えると、六体目のクローンの名前を付けるように告げられた。
その時、私は閃いた。
できるならば私の意思に気付いて欲しいという意味を込めて「勇気四世」と名付ける事にする。
■N218年xx月xx日
今、新年になった。
私は今日出発する。
後は次の私に任せる事にしよう。
『勇気四世へ』
私の行動はあなたにとって無謀に見えるだろうか?それとも勇気に見えるだろうか?
それはあなたの判断に任せよう。
どんな生き方でも構わない。悔いのない生き方をして欲しい。
それが私の願いである。
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■N220年xx月xx日
私は五体目のクローンである「勇気三世」の記録を読んだ。
何故「勇気四世」という奇妙な名前にしたのだろうか、という疑問を解決したかっただけなのだが、「勇気」という名前には、随分と思いが込められていたようだ。
さて、私はどういう生き方をしようか?
シェルターに籠り研究を続けるか?それとも外に出るか?
その前に「勇気」という言葉の定義を、もっと調べてみる事にしよう。何をするにしても、まずは知識が必要だから。
お読み頂きありがとうございます!
「勇気」というでテーマで中々話が思い付かなかった為、変化球のような作品になってしまいました。
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。