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7話

 ニャ〜。


「えー本当に? ありがとう、猫ちゃん。よしよ〜し」


 学校への道中で出会った野良猫とマニルが戯れている。

 ジャムは天敵から逃げるようにして、嫌っている俺の胸ポケットへと珍しく避難していた。


「本当に動物が好きだな」

「うん、動物は裏表がないから話してて楽しいよ!」

「裏表?」

「そう。何ていうかね、動物と話す時って心に話しかけているようなニュアンスなんだよね。だから、思った事がそのまま私に伝わってくるの」

「なるほど。じゃあ、ペットと心が通じている人っていうのも同じような感じなのか?」

「んー、近いと思うけど、言語を介して直接色々な話が出来るのは多分私くらいだと思うよ?それに動物の意識を、一時的に私とリンクさせることも出来るしね! すごいでしょ?」


 正直、羨ましい。マニルの能力なら日常生活を送るうえで不便なことはないし、周りにバレることもない。使い道も剣よりは多そうだ。


「まぁ……。じゃあ、その猫は何て言ってるんだ?」

「えっとね『お前はすごく可愛い、どう考えても隣の男とは釣り合ってない』ってさ。ふふっ! 面白いでしょ?」

「俺、これからは断固犬派として生きていくわ」

「落ち込まないで。種じゃなくて、個の感想だからね♪」


 腕を組んできて、ウインクを決めてくるマニル。


「おい、そこの剣を持ってるお前」


 マニルの腕を振り解こうとした時、後ろから声をかけられる。


「あ、僕ですか?」

「お前が、あの勇者か?」


 そこには同じ学校の制服を着た、俺より遥かに上背のある柄の悪い男がいた。

 不良の上級生。そうか……この時期がやってきたか。


「勇者というか、世間では勇者くんですけど。何か用ですか?」

「ちょっと面貸せ」


 僕の顔は濡れたら交換しなければいけないような、ストックがあるタイプではないので貸すことは出来ません。

 とか言ってやりたいが、後ろにマニルがいるのでやめておこう。


「マニル、ここは俺に任せて先に行け」


 決まった。一度は言ってみたかった台詞。


「俺に任せてって、最初から誘われてるのは剛だけでしょ? じゃあ、遅刻しないようにね〜!」


 マニルはくすくす笑いながら、俺のポケットからジャムを救出し、学校へと走って行った。

 少しは俺の身を心配してくれてもいいだろ……。


「こっちへ来い」


 体育館裏にでも連れて行くつもりなのだろうか。ベタだな。


「はいはい」

「あ?」

「……はい」


 不良との仲にも礼儀あり。




 桜が舞い散る正門を多くの生徒が談笑しながら通っていく中、俺は日の当たらない裏門の手前に立っていた。

 壁ドンをされた状態で。


「お前が剣賀で間違いないな?」

「はい、一年の剣賀です」

「世間で騒がれて、人気者みたいだな?」

「人気者ではないですけど、知名度はあると思います」


 件の不良に絡まれている俺は素直に受け答えをしている。

 入学シーズンになると、上級生の不良からこうやって呼び出しをくらう。

 昔から不良に絡まれることには慣れている。こういうタイプの人種は、相手が有名人だと分かると執拗に絡んでくる。こちらが問題を起こせないのをいいことに、失礼な態度や言動をして反抗出来ないのを楽しむのだ。

 感情をゼロにして、大人な対応をすることに尽きる。


「その剣どこで手に入れたんだよ?」

「メディアでご存知の通り、生まれた時から持っているので、強いて言うなら胎内ですかね」 

「あ? ふざけてんのか? なめてんのか?」

「ふざけてないです、なめてないです」


 この通り、自分の理解できないことを言われると自らの理解力の乏しさを棚に上げて、ふざけてんのか、なめてんのか、の二種類で相槌を打ってくる。


「お前、剣士だろ?」

「違います」

「変態剣士って学校で呼ばれてるらしいじゃねぇか」 

「え?」


 それは初耳だ。登校二日目にして、はやくも俺に新たな呼び名がつけられているとは。パンツ晒しただけで、変態剣士はひどくないか……。後でエゴサーチして確認しないとな。


「まぁいい。とにかく、その剣を俺によこせ」


 おい、正気か? この剣が欲しいのか? 剣のカツアゲにあうのは初めての経験だ。

 不良から見たら、剣は喧嘩に使う金属バットやバタフライナイフと同じなのだろうか。

 だが残念。

 渡したいのは山々だが、その場合は剣と一緒に俺ごと差し上げる事になる。

 それは御免だ。そんな形で不良との同居生活が始まるなんて誰得なんだよ。


「すみません。お断りします」

「そうか、なら力づくで奪ってやろう! うらっ!」 


 不良は想像よりも数倍速い左フックを俺の顔めがけて繰り出してきた。


「おっと──」


 すかさず右手の剣で、左フックをいなす。

 日頃から大した運動はしていないが、動体視力と反射神経はなぜかアスリート並みにある。

 ゲームセンターにあった測定機で計測したから本当だ。

 俺はこうやって誰に絡まれても、危害を被ることも与えることもなく、ひたすらガードと回避で今までしのいできた。


「ふん、やるな。なら俺も本気を……えーっくしゅ!」


 くしゃみ?


「ばーっくしゅ! 鼻水が急に……あーっくしゅ! な、お前、俺に何をした! へぇっくしゅん!」


 不良のくしゃみは絶え間なく続いている。そうか……あいつだ。俺には心当たりがある。


「風邪気味だったんで、俺のがうつったのかもしれないですね」


 とりあえず、俺の仕業だということにしておこう。

 こんな短時間で風邪がうつることは勿論ないが、この不良なら信じるだろう。


「くっ、しゅん! ちっ! 今日は、このへんでっくしゅ!」


 体調不良の不良は、苦しそうにして立ち去った。

 さてと、


「おい、出てこいよ……。どうせ、お前の仕業なんだろ?」


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