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元気になってほしいな


「…ひっく…っう…」


少女は体を抱え込むようにして、俯いて座っていた。


「闇の精霊オブシディアン、行きまきすよ。」


女神様はシアを立ち上がらせようとする。


「あの、女神様。少しだけ、この子と話してもいいですか?」


「…分かりました。ワタシがいると、意地を張りそうですし、ワタシはあの世界にいます。


話が終われば、あの世界に来てください。


人差し指で円を書き、その中心を押すと、あの世界に出入りできます。」


女神は、そう言うと、紺色の空間を通ってあの世界へ行った。



私は、少女の横に座り込んだ。


少女は、ビクリと体を震わせた。


「大丈夫。何にもしないから」


私は、彼女の背中に優しく腕を回して抱きしめた。


警戒してる人間に対して、いきなり心を開いてくれるとは、思わない。


だから、根気強く、一緒に寄り添うのが、唯一できることだと思う。




暫くして、彼女は口を開いた。


「…なんで…」


小さな言葉だった。


「放っとけなかったから。」



また暫く、彼女は口を閉じた。



「ねぇ…」


「なに?」


「…何がしたいの?」


「元気になって欲しいな」


「…なんで?」


「悲しそうに見えたから。


もしよからったら、力になれないかもだけど、理由、教えてくれない?」


また、暫く沈黙が続いた。



「…妹、が……いて。

守ろうとしたけど、守れなかった。


僕が、弱いから…」


「うん」


「僕。僕のせいだ。

僕がもっと良い子だったら、妹は守れた。


僕が、僕が……」


少女はまた、嗚咽を漏らしながら、涙をポロポロと零す。



私は、少女を優しく抱きしめた。

でも、この子のせいではない。


守られる立場にある、小さな少女が、更に小さな妹を守ろうとしたんだ。


この子は、正しく優しい子だ。

きっと、偽善まみれの私なんかよりもずっと。


私は、この正しく優しい少女に言う言葉が見つからなかった。




少女は暫くして泣きやんだ。



「大丈夫?」


「…うん」


「じゃ、行こうか」


私は、女神様に言われたとおりに宙をなぞると、指先から紺色の渦巻くが広がった。


私は少女の手を繋ぎ、一緒に飛び込んだ。



「来ましたか。では、闇の精霊オブシディアン。


風は、彼にやって貰いましたので、水を想像してください。」


彼、と言われて私は一瞬認識し遅れた。


そういえば、シアにも、彼と言っていたっけ。


「目を閉じた方がやりやすいよ」


「…うん」


シアは私の手を握りしめ、瞳をギュッと閉じた。


母性が騒ぐ。とっても可愛いい。


シアは、長いストレートの黒髪に、よく見れば右耳の辺りに頭頂部から、かけて金のメッシュがある。


閉じられてい瞳を縁取るのは、長くくりっとしたまつ毛だ。


肌の色は、健康的な小麦色より少し濃いくらいの褐色だ。


私は、シアに握られた手に少し違和感を感じていた。


元の私の手よりも、幾分かスラリとしていて、大きく感じる。


そして、その手は白粉でも塗ったかのような、白さだ。


「大丈夫ですよ。次は、闇を想像してください。」


目の前を見ると、辺り1面は海原になっていた。


「うわっ!!」


「!」


シアよりも、私の方が驚いてしまった。


もう一度、シアは瞳を閉じて創造しだす。


シアは、だんだんと手を強く握り締める。少し、震えている様にも感じた。


しかし、それを気にする暇もなく、目の前は急激に色彩を失っていく。



暗く、昏く、闇く、辺りは闇に侵食されていく。


シアの自責の念が、実際に目に見えているようで、私はシアの手を握りしめた。


それでも、ずっとずっと暗くなると、女神様もいよいよ焦りだす。


「もう、大丈夫です!やめなさい、オブシディアン!」


「大丈夫。大丈夫だから」


私はシアをギュッと抱きしめる。


それでもシアは止まらない。足元まで闇の波が迫ってきた。



闇が私たちを襲おうとしたその時



「シア!」



耳元で大声で叫んだせいか、シアはビクリと身を震わせて、ゆっくりと闇色の瞳を開いた。


闇の波は元々無かったように、消滅し、

闇は薄らぎ、青白い三日月が顔をだす。



「ふぅ……ふぅ……」


シアは、荒い息を整えようとしていた。

私は、無言で背中をさすった。


暫くすると、シアは呼吸が整い、口を開いた。


「ねぇ。シアって?」


「…あ。その、オブシディアンって長いから、勝手に略してたの」


「それがいい」


「え?」


「シアって呼んで?」


「うん。シアね」


「なんて、呼んだらいい?」


「私?私は、ベリルでいいよ」


「愛称は、いらない?」


「うん。私はこのままでいいと思うな」


「ベリル。」


「なぁに?」


「ありがと。手」


「ふふっ。そのくらい、お安い御用ね」


「ワタシも、ベリルとシアと呼んだ方がいいでしょうか?」


「あ、お願いします。」


「……」


「シア、返事は?」


「…うん」


「シアには、嫌われてしまいましたね。


では、帰りましょうか。」



女神様は、紺色の入り口を開いて入る。そこへ、私たちも続いた。


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