世界滅亡
「仕方ありません。光の精霊ベリル。先に行きましょう」
「ほっといて、いいんですか?」
「はい。彼には時間が必要です」
「そっか…」
女神が、右手の人差し指で空中に丸を書き、中心を押す仕草をすると、
丸の大きさの紺色の渦巻く穴ができて、急速に一人通れる程の大きさへ広がった。
「わあ!すご!」
「ふふっ。では、行きましょう」
私は、女神様が穴に飛び込むに続いて、穴に飛び込む直前。
チラリと、横目でオブシディアンを見ると、まだ泣いていた。
それが、私の、歳の離れた幼い甥に重なった。
甥の名前は……何だったっけ?
まぁ、いいか。
初めて会ったとき、母からは、ちゃんとお世話してあげなさい。
と言われた。
彼はとても可愛くて、幼いため、目が話せなかった。
ガラガラは舐めるし、積み木も舐める。カーペットや床だってヨダレを垂らす。
ご飯も好き嫌いするし、食べさせれば確実に零すため、口を拭ってあげる。
でも、彼がにっこり私に笑いかけてくれる時は、やっぱり可愛くて、嬉しくて。
彼が、少し大きくなってからも、一緒にヒーローごっこ(殆ど適役)をしたり、
お菓子を作ってあげたり、
喧嘩だってしたけど、やっぱり面倒を見るのが好きだった。
やっぱり、私は子供が好きなんだと思う。
後で、慰めてあげよう。
私はそう思った。
「では、始めましょうか」
女神様は、広大な荒れ地を目の前に私に告げた。
「炎をイメージしてください。何にも消せない大きな大きな火を。」
「わかりました」
私は、瞳を開けたまましようとしたが、途中でやりにくいことに気づき、瞳を閉じた。
炎、何にも消せない、火災、焚き火、溶岩、爆発?、花火?う〜ん。
世界をつくるなら、溶岩をイメージするのがいいかも。
富士、山脈、ボコボコ、火山灰、噴火。
「そう。いい感じです。火と土を同時にイメージしたのですね。では、次は風です」
目の前には、大きな火山がポツポツ、小さな火山もたくさんあって驚いた。
「わ、はい!」
風、かまいたち、台風、竜巻、トルネード。
季節により、温かい、冷たい、生ぬるい、カラカラとした、いろんな風。
高気圧、低気圧。
嵐!
「そこまでで、結構ですよ。」
目を開けると、あちこちで赤黒い竜巻が上がっていた。
竜巻が溶岩を巻き込んで、渦を巻いているのだ。
「なんか…世界滅亡みたいなの光景」
「全てが交われば、いずれ落ち着きます。次は、光を想像してください。」
「はい。」
光と言えば、太陽。月?、花火。雷。電球。
ジリジリと肌を焼く真夏の太陽、汗ばむ肌。
太陽の光にキラキラと反射する青い海。
白い砂場。
夕方けならば、太陽は海に半分ほど沈みとても大きく見える。
海は茜色に染まり、恋人たちの憩いの場となる。
恋というなら、月が綺麗ですね、と言う文豪の言葉がある。
月は、太陽の光を反射しているからこそ、輝いているけど、子供の頃は月自体が発光していると思っていた。
だって、月と太陽はあんなにも違うのに。
唯一月が太陽と同じだと認識できるのは、皆既月食の時だけだ。
ブラッドムーンとも言う。
まぁ、でも、私は黄色の月より青白い三日月が一番好きかな。
何となく、神秘的な気がするから。
昔の人は、満月を愛でていたけど、私は青白い三日月を愛でるべきだと思う。
それに、私からすれば月の形の移り変わりも風流には思わない。
だってそれば、月が太陽から光を受けて形を変えている証拠でしょ?
だから、私は青白い三日月がずっと続けばいいと思う。
きっと、月の輝きは星々の光を飲み込んで、ただただそこに有るべきものとして輝くんだ。
「…聞いてるのです!?」
「…え?」
「ごほん。もう、大丈夫ですよ。ほら、光星ができました。」
「……え?月?」
上を見上げると、青白い三日月が浮かんでいた。
また、竜巻もなくなり穏やかな風が吹いていて、溶岩も冷え固まっている。
「月と言うのですか?」
「でも、辺りは明るいし…なんで月が太陽の代わりに浮かんでるの?」
「ベリルが、強く月をイメージしたからでしょう」
「あ、あーー…」
「では、帰りましょう」
女神様は、さっきと同じ様に、右手の人差指で円を書き、真ん中を押すと、紺色の渦巻く穴が、現れ急速に広がった。