8話
私たちはあの後も何度か休憩を取ったりしながら合宿場へと馬車を走らせていった。
先へ、先へと進んでいくほど建物などの人工物は減っていき、だんだんと木々が増えていく。そして今では完全に木で覆われたような場所もあったりするため、夏が近くなってきた季節にもかかわらず、若干涼しく感じたりもする。
まぁ寒いという感じではなく、気持ち良い涼しさという感じであるので特に体温調整の魔法を使ったりはしなかった。
うん。こういう良い具合の気温はやっぱり気持ちが良い。
これから行く合宿場というのもこういう感じに適度な気温になっていればいいのだが。……まぁそこら辺、わざわざこう合宿というのを開催するのだからそこの環境は絶好の鍛錬場所になるような所だろう。
逆にそうでないと言うならある意味凄いと言える。ちなみにこれは言わずもがな“悪い意味”で、ということである。
そう言えば今更ではあるが、なんで馬車移動なのか? そう思った人もいるかもしれない。
何せこの世界は魔法のある世界。
そんな世界なら転移魔法の一つや二つ存在しているだろう。なのにどうしてそれを使わず、馬車で移動しているのかと。
まぁ結論というかちょっと前に見た光景ではあるが、この世界にはしっかり転移魔法も存在している。
しかしこの世界に存在している転移魔法というのはクソ面倒な上、糞大変なのである。
体力&気力&魔力。
その全てを消費してやっと行使できるという代物なのだ。
なので転移魔法を使える人間がいるとすれば、そういう人はこんな合宿場への移動なんかみたいな仕事はせず、もっと金払いの良い貴族からの仕事を受けたりしているだろう。もしくは国お抱えだったりするかもしれない。
そう言うレベルの魔法なのである。
ちなみにだが姉様も一応は転移魔法を使うことはできるらしい。
ただし、使うのが大変で、走ったほうが楽ということで使ったことはないそうだ。
だけどあの姉様が大変と言うのだから、転移魔法がどれだけ大変な魔法なのかが良くわかる。
……。
……。
う~ん……? こう転移魔法のことを考えてみると、あのトートって奴がどれだけ凄い奴だったてのがわかるな……。探知に転移。それを両方同時に行うなんてなぁ。
ふむ……戦ってみたらどれだけ強かったのかな?
あのときはずっとドローガの後ろにいたからな。もしかしたらアロガンスたちとは戦ったのかもしれないけど、私はそれを見てないからな~。ひとまず魔法の腕は凄く高いってことぐらいしかわからん。
出来れば戦ってみたかったな……。
いや、まぁドローガ相手にボロボロになってただろって話ではあるが、それを踏まえても戦ってみたかった。
あの全身を覆い隠した存在から、一体どんな魔法が飛んでくるのだろうか……。
ちょっとそれを受けて、そして捌ききってみせたいという欲望が溢れてくる。
いっそのことトートのほうにも斬りかかって、ドローガとトートの2人同時と無理やり戦ってみれば良かったかな? いや……だけど多分、そんなことしたら普通に死んでただろうしなぁ……。
はぁ……もっともっと強くなって、強い奴と戦えるようにならないとだなぁ~。
う~ん。よしっ!
合宿のやる気が増々湧いてきたぞ!
「あ、あっ……あの、見えてきましたよ!」
私がそんな風なことを考えていると、窓から外を眺めていたティミッドがそう言った。
その言葉に釣られて外を見ると、さっきまでは木々に覆われたところを走っていたところから一変、かなり広い草原のような場所となった。
既に陽は沈み始め、暗くなり始めてしまっているが、これがもし日中なのであれば、陽の光がこれでもかというほどにこの好き放題に生い茂る草たちに降り注ぐのだろうということは容易に想像できる空間であった。
そしてその草原のど真ん中には建物――恐らく……木造の建物が見えた。
そこの周りにはいくつかの木が生え、それは等間隔で生えていることから人間の手が加えられていることがわかる。しかしそれは切りそろえられている感じはなく、むしろ好き勝手に枝を伸ばしている。
明らかに人間の手が加えられているはずなのに中途半端に人間の手が加えられていない。
そのアンバランスさに私は何だか歯に食べ物が詰まっているような違和感を感じた。
「ひ、広い……ですね」
「うん。結構広いね~。まぁ草がかなり伸びてるけど」
確かに中々な広さだ。この一番大きいものだと私の頭ぐらいまでなら簡単に隠してしまいそうなほど伸びている草もあったりする。
こういう所で雨に打たれながら斬り合ったりするのはカッコよさそうではあるが、鍛錬とかをするとなるとちょっと不向きではないだろうか……。
「本当にここ? 休憩とかだったりしない?」
「え、だけど、時間的には……もう到着だよ……」
「え~。じゃあ本当にここ?」
「多分……そう、だね」
「そっか~」
う~ん。まぁ妄想とかをしながらならばメンタル的にはいつまでも剣を振ってられないこともないかなぁ?
いやだけどなぁ~。良い感じな環境を期待していたからか、なんだかちょっと残念な思いが若干……あったりする。
「?」
そんな私の顔を見てティミッドは不思議そうにして首をコテンっと傾けた。
「お二人さん。着きましたよ」
やがてそう時間も経たないうちに馬車が止まり、御者の人がそう声をかけて扉を開けた。
「あ、……はい! ありがとうございました!」
「いえいえ。仕事ですので」
私は肩を落としつつ、ティミッドに続いて馬車から降りた。そして乗る際に渡したカバンを御者の人から受け取るとお礼を言って、建物のほうへ歩き出した。
「え、えっと……? 大丈夫? もしかして、酔っちゃった?」
「え? あぁ……ううん。大丈夫、酔ってはいないよ」
「じゃあ……ど、どうしたんですか?」
「ん~……ちょと想像していた感じではなかったから。その落差」
「?」
ティミッドは良くわからないという感じの顔をした。
私はそれを見て軽く笑ってギューと背伸びした。
「まぁ良し! 場所なんか気にしてないで頑張るぞ!」
そして肩を回しながらそう言った。
「えっ? ……あっ、はい?」
隣ではティミッドが増々よくわからないという風にしていた。
「よっし。ティミッドも一緒に頑張ろう!」
私はそんなティミッドの空いている手を握り、そう言いながら空へ伸ばした。
「あ……は、はい……。がん、ばりましょう」
「オ~‼」
「お、オ~?」
私とティミッドの声が草原に響いた。そしてそのときちょうどいいタイミングで風が吹いたため、まるで草たちがまるで私たちの声によって揺れたかのようであった。
「じゃあ行きましょか」
「え、えっと、はい」
そして私たちは草をかき分けながら馬車から降りた他のみんなたちも向かっている建物へと向かっていった。
* * *
「皆さん。長時間の移動、ご苦労様でした。
こちらが4泊5日の合宿に使う、合宿場となっています」
全員が建物の前に到達するとピストリィは下がった眼鏡を上げながらそう話し始めた。
「見ての通り、草が生い茂った場所ですが、こちらに関しては化け物避け用なので、勝手に抜いたりしてしまわないようにお願いします。また深夜などは化け物が寄ってくることもあるので、建物の外を出歩いたりしないようにお願いします」
生い茂った草の理由になるほど~と感じつつ、てことは鍛錬は建物の中でやるのかなと思っているうちに、ピストリィは口早に建物の使用ルールを説明していく。
火は厳禁であったり、建物内の破壊は禁止などのごくごく当たり前のものだ。
そしてその説明が終わると今度は合宿の内容が説明された。
それに関しては事前に渡されたプリントにも書いてあったので、覚えている内容と照らし合わせつつ聞いた。
1日目は各自自由。
これは長時間の移動で疲れただろうからと明日に備えてということだ。
2日目と3日目は基礎訓練や実践式の稽古。
これは学校の授業で行っていることを更に過密した感じの内容だ。上級生の人たちともやれるということなので楽しみである。
4日目は特別メニュー。
これに関しては全く情報なし。
ひとまず当日の朝に内容は知らせるそうだ。
最後に5日目は化け物狩りの実習。
これが今回の一番の楽しみみたいなものである。初めての相手、というか生物との戦い。さらにもっと絶対に強くなれる良いきっかけになるはずだ。それに化け物の討伐数で三校祭出場の最終決定材料となるらしいから、本当に頑張らなきゃだ。
以上が4泊5日の合宿の大まかな内容である。
全ての説明を聞き終えた私たちはそのまま荷物を持って建物の中へ入っていき、指定された部屋に行った。ちなみにこれは全員1人部屋である。
「さてと……どうするかなぁ……」
簡単に荷物を開けた私は一息吐きながら部屋に備えられたベッドに座った。
外はすでに真っ暗であり、不気味な雰囲気がする。
私は外に外に出てみたいな~という好奇心を抑えつつ、持ってきた剣を構えて振り始めた。
「ふぅ。ふぅ。ふぅ」
ひとまず今日は寝る前にちょっとだけ剣を振って、そのまま明日に備えてすぐ寝ることにする。
慣れない長時間移動のせいか、朝早かったせいか、凄く眠たい。目を瞑れば一瞬で寝れる自信があるくらいだ。
「ふぅ。ふぅ。ふぅ~~~~。
……よし寝るか」
そういうわけで合宿1日目はこれで終わりである。




