5話
正面門のほうに到着するとすでに何人か人が集まっていた。結構早めに来たつもりであったが、同じように考えたりする人はそこそこいるのだなと思いつつ、私は歩いていった。
「ふぅ~ん」
そこにいる人たちの中には見覚えのある顔はあまりない。
見覚えがある人がいても、同学年とかではなく、ホントにただ見覚えがある程度である上級生の人たちだ。
そういうわけでいわゆる初対面な人だらけである。
別に私はコミュ障とかではない。だが、かと言ってコミュニケーション能力が高いというわけでもない。普通に初対面の人が相手だと緊張とかする。何話せばいいのか以前に、特に話すことないのに初対面で急に話しかけてくるとか私的にはちょっと怖い。
「……」
なので私は特に誰かに話しかけようともせずに、カバンを足元に置いて、脇のほうで突っ立ていた。
陽は少しづつ昇り始め、辺りは明るくなってきた。寮のほうからは音が少し響き始めた。
私はそんな変化を楽しみつつ、ボ~っとしていた。
時折私のほうを見る人たちがいたりしたが、特に話しかけてくるわけもなく、ちょっと気になって見たという感じである。何かめんどくさい感じの感情は込められて感覚はなく、あまり気にならなかった。
少し周りを見渡してみると、生徒会長とかはいなかった。そして移動用の馬車とかもまだ来ていない。
予定だともう馬車は来ているはずではあるが……もしかしたら何か遅れたりしているのかなとか思いつつ、私は大きく欠伸を漏らした。
う~ん……まだ眠いな……。
ちょっとだけ仮眠でもするか……。
そうして私は近くの木に寄りかかって目を瞑り、仮眠を始めた。
少し経つと、馬の歩く音と車輪の転がる音が聞こえてきた。そしてそれに合わせて人の歩く音や話し声も増えてきた。
そろそろ動きますかなぁ……。
そう考え始めた、そのとき。
「?」
私の目の前。
眼前とも言うべきぐらいの至近距離。
そこに何か気配を感じた。
私は驚いて目を見開いた。
「⁉」
そこに広がっていたのはピンク。
ピンク。ピンク。ピンク。ピンク。ピンク。ピンク。ピンク。ピンク。ピンク。ピンク。ピンク。ピンク。ピンク。ピンク。ピンク。ピンク。ピンク。ピンク。ピンク。ピンク。ピンク。
サラサラとした感じの薄いピンクの髪。
良い匂いがしそうな雰囲気の髪の毛であった。
集まってきている人や馬車。そんな光景は一切広がっていない。
広がっているのは全面ピンクの髪である。
そしてその髪の隙間に、
「え……」
私を覗く瞳があった。
「うわっ⁉ 痛っ⁉」
私は驚きのあまり、思わずそんな声を漏らして寄りかかっていた木に勢いよく頭をぶつけた。
「あっ……すみません。だ、大丈夫ですか。」
そう言いながら私に尋ねてきたは目元に髪がかかった女子生徒。さっきまで私の視界をピンクで満たしていた張本人であった。
「本当……脅かしてすみません……」
「ぅうん。大丈夫。ちょっと驚いただけだから」
「そ、そうですか……。本当、急に現れてすみません……」
彼女が私と同じく合宿メンバーに選ばれた隣のクラスの子だ。
名前に関しては聞き忘れたので知らない。
私は頭をさすりつつ、ビクビクとした感じで手元をソワソワさせているその子に話しかけた。
「え~と。それで何か用かな?」
「あっ……えっと……特に用はないんですけど……えっと、知ってる顔があったから……」
「ああ、そういうこと」
「……えっと……迷惑……でしたか?」
「ん? いや、別にそんなことはないよ」
「あ……良かったです」
そう言うとその子は嬉しそうな表情になって私の隣に立った。
なんだかホワホワ?みたいなそんな感じの空気を発していて、見ていて何だかかわいい。いわゆる小動物……チワワとかハムスターとかを見ているときみたいな、である。ホントにかわいい。
「あっ。そう言えば」
「?」
「あなたの名前って」
私は聞き忘れた名前を聞こうとそう尋ねた。
するとその子は何だか驚いた……というか絶望したかのような表情になった。
「も、もしかして……言ってませんでした……?」
彼女は恐る恐るといった感じでそう聞き返した。
「うん。言ってなかった」
「あ⁉ 本当にすみません‼ えっと、私、ティミッド‼ ティミッド・アーディーって言います‼」
目元にかかった髪をバッサバッサと揺らしながら彼女――ティミッドは叫んだ。
静かだった正面門前にティミッドの声が響く。
そして集まっていた人たちの視線が一気にティミッドへと集まる。あまりの声に馬でさえもこっちのほうを見ている始末である。
しかしティミッドはそんなことに気が付いていないと言わんばかりに声量を保ちながら話し続けた。
「えっと、えっと……す、好きなことは読書です‼ 好きな食べ物はイチゴです‼ えっと……えっと‼」
「あっ、ちょ」
「い、良い天気ですね‼」
うん。いや良い天気ではあるけど、その前に。
「ちょっと。ちょっと落ち「ウイさんは何が好きですか‼」うにゃ⁉」
ティミッドは私のほうを向くとそのまま最初みたいに眼前まで顔を接近させた。それにより私の言葉は途中で強制停止。ティミッドを止めることはできず、ティミッドの壊れたマシンガンみたいなトークが加速していく。
「あ、あんなに強いんですし戦いですか‼ それとも剣とかですか‼ ……えっとそれとも他にあったりするんですか‼ ……あっ答えにくかったらすいません…………。あっ、その……あ、好きな食べ物とかはなんですか‼」
私は途中口を挟もうとするが、物理的な押しの強さで挟むことができない。
ここまで押しが強い人は前世でも今世でも初めてである。
「私はイチゴが好きです‼ えっと、えっと……えっと……今読んでいる本は教科書です‼ ウイさんも読んでますか‼ あっ……えっと…………えっと……」
イチゴはさっき言ってたよ!
てか読んでる本が教科書って……どういうことだよ! そこはなんか小説とかでしょ!
私は思わず心の中でそうツッコんだ。
「えっと、えっと……えっと‼」
「ちょ~と落ち着いて‼」
私はそう言ってティミッドの頬を両手で押さえた。
「ふぇ⁉」
「ほら、ティミッド。周りの人たち驚いてるから。ちょっとだけ落ち着いて」
「あっ」
そこでようやくティミッドも周りの視線に気が付いた。
「……本当にすみません‼」
そしてそう叫びながらしゃがみ込んだ。
「ふぅ」
私はようやくティミッドを落ち着かせることができ、肩をなで下ろした。
そうしてからティミッドのほうを見てみると、ティミッドは顔を真っ赤に染め上げていた。
「ぅぅ……」
「……」
そしてティミッドは申し訳なさそうにしながら、頭を抱えていた。その姿をなんだかこっちも申し訳ない感じになってくる。
「私の好きなことは『雨の中でカッコよく刀を振るうこと』」
「!」
「それと好きな食べ物は……う~ん、そうだね~肉料理かな」
「に、肉料理ですか!」
「うん。いつも剣振ってばかりしてるからお腹が空きまくって」
「なるほど……わ、私がイチゴを好きなのは……酸っぱくて甘いからです! えっと……イチゴの酸味と甘みがすごく好きなんです」
「ふ~ん。そうなんだ。じゃあブドウとかは好きなの? ほらあれも酸っぱ甘かったりするじゃん」
「えっと……えっと、イチゴは生えているのを一個一個……ちょうどいい量を食べれるから好きなんです。……ブドウは一個じゃなくて……一房じゃないですか。えっと、それだとちょっと多かったりするので……」
「あぁ、なるほど」
ティミッドはさっきよりは落ち着いた様子でそう話していく。
私はそれに対してゆっくり返答しながら、話していった。
そして私はその後しばらく――馬車が全部到着するまでの間、ティミッドとそうやって話していた。
* * *
「早いな黒髪」
ティミッドと話しているとアロガンスの声が聞こえた。
「⁉」
「ああアロガンス様ですか。どうも」
私はそう言葉を返すと驚いたような表情を浮かべているティミッドのほうへ顔を戻した。
「おいなんだそれは。アロガンス様に失礼だろ!」
「⁉⁉」
するとフェルゼンが言葉を荒げてそう言ってきた。だがそこには本気で怒っているような様子はない。
この流れみたいなのはある意味、定番化みたいな感じになっているからだ。
アロガンスたちは自分たちが私より弱い、だから下に見られてもしょうがない。面倒だって思われてもしょうがない。そんな風に考え、この流れがあるうちは自分たちが弱いんだぞと戒めるような思いで、定番化させていた。
まぁ私としてはあからさまにぞんざいに対処して良いとのことなので楽である。
「私はお前と同じく合宿メンバーとなった! そしてこの合宿でもっと強くなってお前に勝ってみせるぞ! そうなったらお前もそんな態度などできなくしてやる!」
「そうです。その意気ですよアロガンス様!
首を洗って待ってろよ黒髪‼ アロガンス様が必ず貴様より強くなるからな‼」
「あ~頑張ってくださ~い」
「「言われなくても‼」」
息ぴったりだな~。
そんな風に内心感心していたが、私は何か物足りなさを感じた。何だろうか……いつもと違う……この前みたいな感じではなく、まるで何かあるはずのものがないような。
そうだ。ビエンフーだ。いつものあのやる気のないような声が全然響いていないから、物足りなく感じたんだ。
「ビエンフーはどうしたんですか?」
「ん? ビエンフーか? あいつは合宿メンバーに選ばれなかったぞ」
あっ選ばれなかったの。
「あいつはヒョロヒョロと気を抜いてるからな」
「ですね。もう少し頑張れば選ばれたかもしれないのですがね」
「ああ。だが選ばれなかったあいつのためにも俺たちは頑張るぞ」
「はい!」
アロガンスたちは二人でそう話すと、私とティミッドを置いてけぼり状態のままなんか満足した様子になると「ではまた後で」と言い残して離れていった。
「それでティミッド」
「……」
そうティミッドに話しかけたが何の反応もなかった。
私は首を傾げながらティミッドのほうを見ると、
「……」
「あれっ? ティミッド? ちょっ、大丈夫⁉」
魂が抜けた様子で完全停止状態となっていた。
私はティミッドの肩を何度も揺らして正気に戻した。




