2話
セオス王立学校生徒会長、モーリェ・アイルーロス。
橙色の髪色をしており、身長は私と同じくらい……いや私よりもちょっと低いぐらいである。制服のサイズもなんか合っていないのか、若干ダレていた。
「ようこそ、新入生諸君。私はここセオス王立学校2年、生徒会長を務めているモーリェ・アイルーロスだ」
だが生徒会長の発した言葉は若干頼りなさそうな姿とは相反して、良く透き通った力強い声であった。
「君たちは今まで何不自由なく暮らしていたか? それとも不自由だらけの中で暮らしていたか? どのような暮らしをしていたかは私は知らない。ただ一つ言えることは、今日この瞬間……君たちが入学したこの瞬間をもって、暮らしは一変する。
この学校には様々な刺激を与えてくれる要素が存在する。その中で暮らすということは嫌でも君たちを以前とは違う暮らしへと誘うということだ」
その言葉はどこか引き付けられるような、聞き入らせるような雰囲気があり、私を含めた入学生のみんなは生徒会長の話を聞き入っていた。
「この学校で暮らす三年間。そこで君たちが数多の刺激を受け、より良い方向に変化することを私は期待している」
私が生徒会長に会った――というより、見たのはその入学式のときだ。
そして生徒会長を見たのはそれが始めで、そしてそれ以来見たことはなかった。なぜ見たことがなかったかというと、この学校では入学したばかりの頃は1年生と上級生の交流はなるべくしないように、となっているからだ。
そういうわけで私は生徒会長としっかりと会ったことはない。会ったことはないが……入学式のとき確かに生徒会長――モーリェ・アイルーロスを見た。あのときちゃんと寝ぼけたりせずにその姿を見ていたはずだ。
なのに今目の前にいる先輩は何と言ったのだ?
生徒会長……?
この子猫が?
……。
……。
……うん! やっぱりわけわからん!
第一この世界に獣人とかいないはずだし、ましては猫(動物)が学校に在籍しているなんて話聞いたことがない。もし本当にそうならちょっとは私の耳に入ったりしているはずだ。
仮に猫(リアル動物)が在籍してたとしても、この子猫とあのとき見たモーリェ・アイルーロスの姿とは似ても似つかない。てか種族自体が全くの別もんだし。
私の頭の中はこんがらがりまくって大混乱。
思考はできている。
現実も正しく理解できている……と思う。
だがしかし、さっきの先輩の発言はやっぱり理解できなかった。
もう聞き間違いだと言われたほうが納得できるというくらいである。
「????」
隣ではレオナもわけわからんという感じで混乱状態である。
私は正面に立つ、「生徒会長」発言をした眼鏡の先輩に説明を求めるように強く眼差しを送った。
「?」
「ニャ~」
だけどその思いは全く伝わっておらず、「どうしたの?」という感じで頭を傾けているだけだ。
返ってくるのは先輩に抱かれた橙色の毛並みを持った子猫の鳴き声だけだ。……ん? 橙色……。あれっ……? 生徒会長の髪って確か……橙色…………。えっ、だけど種族とか全く……?
「あ、あの~先輩? もしかしてその子猫が会長……この学校の生徒会長なんですか?」
「? 何言ってるのよ」
あっもしかして違ったのか!
あ~なるほど、たまたま橙色の毛並みを持った子猫にこの先輩が生徒会長って名前を名付けたの――
「当たり前じゃない」
「ふぁ……?」
先輩の口から続いたその言葉で思わず変な声が漏れた。
「これが生徒会長なんて当り前じゃない」
「「……」」
私とレオナは無言になって見つめ合った。
猫が生徒会長。
当たり前。
……。
……。
いやどう考えても……
「「当たり前じゃないでしょ⁉」」
私とレオナの叫び声が裏庭に響いた
* * *
「あ~あなた達1年生だったのね。それなら知らないのもしょうがないか」
私とレオナが叫び声を上げた後、私たちは先輩に落ち着かされて、裏庭にあるベンチに座らされていた。そして先輩は私たちの胸にある校章の色を見ると納得したような表情になってそう言った。
「……しょうがないというと?」
「ん。このアホのこれ。1年生は多分まだ見てなかったりしてる子が大半だからよ。まぁ、2,3年はみんな知ってると思うけど」
先輩はそう言いながら気持ちよさそうにしている子猫、改め生徒会長?の頬を抓った。そのときの先輩の表情はどこか恐ろしいような雰囲気があった。
なので私は恐る恐るといった感じで先輩に話しかけた。
「……それで生徒会長というのは? 生徒会長って普通に人間でしたよね」
「うん。まぁ~人間ではあるのよ。ただちょっと野生過ぎるというか……本能的過ぎるというか……欲望に忠実……」
「「?」」
「……。会長はね……猫になりたい願望が凄く高いのよ」
「へ?」
「この学校に入学したのも自分が猫になれる魔法を開発するためらしくね。そしてその魔法が2年生の時に完成しちゃって、それからというもの時折猫になっては野生に帰ってるのよ。しかも長いときは一ヶ月近くどこかに行ってるし……」
ん……?
う~ん。
全くもって意味が分からん。どゆこと?
「はぁ……意味わからないでしょ。そんな意味わからないのに能力だけはあるから生徒会長になっちゃってるし……。おかげでそれを補佐する私はヘトヘトなのよ‼」
先輩は急に声を荒げたかと思うとそう叫びながら抱えていた生徒会長?を高く投げた。
「ミャ~~~⁉⁉」
生徒会長?は驚いたように鳴き声を上げながら宙を舞った。そしてゆっくりと地面に落下。錯覚とかではなく、現実にゆっくりとなって、スローモーションな動きで落下していった。
そして地面に着地したかと思うと、
「にゃっ!」
その姿は子猫から人へと変わっていた。
着地によりフワッと舞った橙色の髪がサイズが合っていなくてダレた様子の制服の肩に乗っかっている。そしてその少女は不満そうな表情を浮かべながら眼鏡の先輩のほうを振り向いた。
「私を投げるとはどういう要件にぁ~!」
語尾に取ってつけたような「にゃ」を付ける少女はまごうことなく、生徒会長であるモーリェ・アイルーロスであった。……ただしその頭には入学式のときとは違い、猫耳のようなものが生えていた。……めっちゃ触ってみたい。
「どういう要件? そう言いましたか?」
「うん。言ったにゃ。せっかく気持ちよくしていたのに、それを邪魔するとは何ていうやつだにゃ」
「ほ~。じゃあ私のほうからも言いますけど、臨時会議中に勝手に抜け出して猫になってるとはそういう要件ですか?」
「にゃ⁉ そ、それはだにゃ……ちょっと天気が良かったから……」
「天気が良かった⁉ そんな理由で勝手に抜け出したんですか⁉」
そう言いながらものすごい表情を浮かべて眼鏡の先輩は猫耳生徒会長に駆け寄っていくと、その頭をゴシゴシと力任せに擦り始めた。
すると生徒会長に生えていた猫耳が見る見るうちに崩れていった。
「あっ、ちょっ、壊さないで! 猫耳壊さないで⁉」
生徒会長は抵抗しようと手を振るが、それは身長差のせいで無駄な抵抗であった。
「あっ髪の毛を固めているのか」
その様子を私と一緒に呆然と見ていたレオナが納得したようにそう言った。
「あぁそういうこと……」
固めてるのか……。じゃあ柔らかくは……ないよなぁ~。
はぁ……。
私はレオナのその言葉に若干気を落とした。
そして数秒後、生徒会長の頭に生えていた猫耳はなくなっていた。
「うぅ~ひどいにゃ……ピストちゃんは酷い奴だにゃ。動物虐待にゃ……」
わずかに猫耳を構成していた髪が崩れきれずに残っているが、そんな残骸からさっきまで猫耳があったとは想像もつかないような有様となっている。
「会長は猫ではなく人間なので動物虐待ではありません」
「にゃ~……」
悲しそうな「にゃ~」音が響き渡る。
そしてその様子に満足したかのように眼鏡の先輩は再び私たちのほうを向いた。
「ふぅ……。このようにこの留年アホ猫好き野生動物はこの学校の生徒会長です」
「……みたいですね」
そう答えるしかなかった。
てか入学式のときと別人過ぎるだろ。
「入学式のときと別人過ぎない……?」
レオナも私と同じように思っていたようでそう言葉を漏らしていた。
「ああ。あのときはマタタビを餌に私が書いた原稿を読ませてたからね」
「私が書いた?」
「えぇ。あっ、そう言えば自己紹介がまだだったね。私は2年のピストリィ・ツァイドよ。まぁ……不本意ながらこれのお守り兼副会長をやっているわ」
下がってしまった眼鏡を上げながらピストリィはそう自己紹介をした。それを聞いた私とレオナは副会長の言葉に続くようにして自分たちの自己紹介をした。
「私は1年アマツカエ・ウイです」
「えっと、同じく1年のレオナ・ビンチ」
「アマツカエ……あぁ、あなたが」
そう言うと副会長は背後で頭を抱えていた生徒会長を蹴り上げた。
「にゃ⁉⁉ 急に何するにゃ⁉」
会長は文句を口にしていたが、副会長はそれらを無視。自分の言葉をそのまま続けた。
「ほれアホ猫。ちょうど仕事ができるぞ。会議かってに抜けたんだから、これくらいはヤレ」
冷たい口調でそういいながら副会長が会長へ差し出したのは一枚の書類であった。
「ほれヤレ。さっさとヤレ」
「わ、わかったにゃ」
……にしても生徒会長の扱い酷すぎないか?
そんな風に考えていると、尻を叩かれながら立ち上がった会長が副会長にびくびくしながら私にさっき渡された書類を渡してきた。
「これは?」
「え~と、アマツカエ・ウイさん。貴方は三校祭に向けた合宿メンバーの一人に選ばれました。おめでとうだにゃ」




