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21話



 一瞬、全ての音が消えたような気がした。実際には消えていない。だがそう錯覚するほど私は集中していた。

 そして、


「はあぁぁぁぁ‼」


 アロガンスは掛け声を上げて踏み込んできた。


 アロガンスの使う剣術は今までの戦い方からもわかるように、アズマ流とは真逆の攻撃的な剣術――セオス王国式実戦剣術である。

 そのためこのセオス式のかなりな使い手であるサムシ先生とよく授業でやっている私にとってアロガンスの剣はまだまだ足りないというものである。よって、万一でも負けるという可能性はほぼない。ここで言うほぼというのは、もしかしたら何かアロガンスが予想外の攻撃を仕掛けてくる……そう例えばだ――


「火炎よ!」


 ――魔法とか。


 今回の決闘、魔法の使用はありである。

 もし私とアロガンスの間に剣の実力差を埋めれるようなものがあるとすれば身体強化以外の魔法である。


「……ニッヒ」


 アロガンスの体を強化していた魔力がその仕事から一転。火炎へと姿を変えて私の四方を覆い尽くさんとしてきた。

 肌はジリジリと焼けるような熱を感じる。だが魔力で強化されているため、実際に焼かれるということはない。


「アハハッ!」


 私は笑みを零しながらその火炎の中で、層が一番薄いところから外へと飛び出した。

 そしてそこには予想通りアロガンスが待ち構えていた。


 振り下ろされる剣に私は自身の剣を合わせなかった。


「⁉」


 その代わりに私は左足の膝を地面に落とした。

 それにより体は斜めに落ちる。

 アロガンスの剣は私の肩と並走するようにして地面へと振り落とされた。一方私は多少体勢が悪くなってはしまったものの、攻撃を外して無防備となったアロガンスの体へ縦に一閃を加えた。


「⁉ うぐぅ……⁉」


 アロガンスは股間の痛みに悶絶し、後ろへ倒れそうになるが、なんとか踏み止まった。


「ぅぐ……はぁッ‼」


 そして地面を持ち上げるかのようにして剣を振り上げた。

 私は後ろへ飛び退き、空ぶった剣の下へすぐに突撃。ここまでの至近距離となると剣を振るよりも拳のほうが早い。


「せいッ!」


 アロガンスは焦ったようにして防御姿勢を取ろうとしたが、その数秒速く私の拳はアロガンスの腹へと放たれた。


「うがぁ⁉」


 流石に片手で、その上踏み込みも甘い一撃だったので、アロガンスの体を一気に場外へ吹っ飛ばすなんて言う威力にはならなかった。


「……は、はは…………まだまだッ‼」


 数歩後ろへ下がったアロガンスの雄叫びが轟く。


「火炎よ!」


 再び火炎が私に襲いかかってくる。

 今度の火炎は私の視界全てを覆うような巨大なものであった。層の薄そうなところは一切ない。しかしそんな見た目とは違い、その熱量はさっきほどではなく、肌を焼くような感覚はない。……ならばこれは目くらまし。本命ではない。


「ふぅ…………ふひひひぃ……」


 火炎の迫る音に紛れて地面を駆ける音が聞こえる。

 ギリギリまで静かに、そして早く駆けているその音がするのは私の背後。


「本当に……」


 私は目の前の火炎を無視。

 後ろを振り返りながら剣を横へと振った。


 ガンッ‼


 目に映ったのは悔しそうな表情を浮かべているアロガンスであった。


「面白いなぁ‼」


 私は背中を火炎が襲っているのを感じながらアロガンスを一気に押し飛ばした。私が陰になったことでアロガンスは火炎に襲われることはなく、襲われたのは私だけだ。だがこんな見た目だけの目くらましなら、ちょっと制服が焼ける程度で大したダメージではない。


 転がっていくアロガンスへ私は正確に突いていく。しかしアロガンスもそれを食らわないように転がりながら下がっていく。


「チッ……」


 やがてアロガンスは舞台の端まで転がっていた。


「これで終わりですかッ!」

「いや、まだだっ‼」


 そう言いながらアロガンスは火炎を私――ではなく、地面へと放った。すると放出された火炎の威力によってアロガンスの体は地面と反発し、高く打ち出された。そして高く飛び上がりながら私の頭上に到達。

 そこから小さな火炎をいくつも私へ放ってくる。

 ジャンプしようと踏み込んでた私の足元に着弾。それにより足場が悪くなり、上手くジャンプできず、アロガンスの元には届かずに地面へ着地。


 ドンッ。ゴロン、ゴロン……。


「ぐぅ……。はぁ、はぁ……」


 私から少し離れた位置に音を立てながら転がり落ちたアロガンスは荒い息を吐きながらすぐに立ち上がった。


 一方の私はと言うと、着地した場所にはすでにいなかった。


「なっ……⁉」

「これで終わりです」


 ノーモーションの高速移動をして真横に立った私は静かにそう宣言した。


 そしてその言葉をアロガンスが理解するよりも早く、その体に衝撃が襲いかかった。


「……⁉」


 声もなく。悲鳴もなく。ただただ驚愕の表情を浮かべながらアロガンスは回避も防御姿勢も取れずに吹っ飛ばされていく。地面すれすれの低空飛行。そうやって吹っ飛ばされていって、アロガンスは壁にぶつかった。


 つまりは場外になっていた。


「アロガンス様!」

「アロガンス様~!」

「……」


 フェルゼンとビエンフーは呆気にとられた様子で壁に寄りかかっているアロガンスの元へ駆け寄っていった。二人が何か声をかけてはいるが、それに答えることなく、なんかスッキリした表情になっていた。


「な、なんだ黒髪! まさかアロガンス様を痛めつ」

「しませんよ。めんどくさいですし」


 私は立ち塞がったフェルゼンを押し退けながらアロガンスの正面に立った。


「アロガンス様、あなたの負けです」

「……みたいだな。分かり切っていたことだが……悔しいな……」

「そうですか。

 てかそもそもこの決闘って意味ありました? あの問答がしたいだけなら別に戦う必要とかなかったですよね」


 本当ガチ目に何の意味があったんだって話なのである。私側に完全にメリットとかほぼなし、気まぐれで受けたみたいな決闘なのだ。


「確かにな……。だが俺にとっては必要だったんだ……」

「はぁ?」

「……俺はお前に負けて……しかしそれを認められずに逃げた。だから正しく自分の負けを認めたかったんだ」


 ですか。

 ……うん。やっぱ決闘じゃなくてもよくね。合同授業がまたあったときとかでよくねって話だ。


 アロガンスは私の思いも知らずに語り続ける。


「それに戦ったおかげで、お前との差が分かった。……そして俺が何をするべきなのかを」


 アロガンスはそう言うと顔を上げ、私を見つめてきた。

 やっぱこうして見るとムカつくほどイケメンだなぁ。制服がちょっと燃えたお返しにちょっと殴ってもいいかな。

 そんな風に考えているとアロガンスは真剣そうに口を開いた。


「俺は、貴様らアマツカエは嫌いだ。よそ者の貴様らがこの国の重要な存在となって、そしてなっているにも関わらず身内で醜い争いをしたり、自分のことしか考えていないのが嫌いだ。嫌いだが……それでも今のこの国には必要なんだろう」


 そこまで言って、アロガンスは大きく息を吐いた。


「だから俺はアマツカエの必要ない国にする。正しく、アマツカエがいなくても成立するセオス王国にする」


 そしてそう宣言した。

 疲労によって小さな声であったが、それでも力強さを感じる声でそう宣言した。


「ふ~ん。そうですか。まぁ、頑張ってください」


 私はそう呟いて半回転。そのまま歩を踏み出した。


 やっと話終わったよ。さてと保健室寄って、帰りますか。

 ……にしても制服新品だったんだけどなぁ。また買わないとか。まぁお金とかは別に気にしなくても良いんだけど。


「だから‼」


 そのとき突然アロガンスの声が響いた。

 私はそれに思わず足を止めた。


「ん?」

「だからその前にはお前に勝たなければならない。アマツカエ・ウイ‼ 俺がお前に勝つことさえできなければ、アマツカエが不要なセオス王国などできはしない‼

 俺はお前に正しく勝つ。孤立などなんだの、そんな安っぽいことではなく正しく実力で上回ってやる‼」


 そのセリフはちょっとだけ期待できそうであった。

 思わずちょっとだけ熱くなってしまいそうなほどに。


「へぇ~。なら頑張ってくださいよ~。まだまだ弱弱なんですから。

 次は私が昂れるように強くね」


 私はにやけ顔を浮かべながら振り返らずにそう答えて闘技場を後にした。



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― 新着の感想 ―
[良い点] アロガンス様が正しく男の子しているところ。 でも最強はうちのウイちゃんなんだぜ。 [一言] アマツカエの内輪揉めは突っ込まれるとそうだね……ってなります。 これはこっちが悪い。
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