19話
ガンッ!
カンッ!
ガンッ!
剣と剣のぶつかり合う音が闘技場の鳴り響く。音は響き、広がり、そして消えていく。だが音が消えるたびに連続して鳴っていることで、剣同士が衝突する音が完全に消えることはなかった。
「はぁ、はぁ……」
「ふぅ……」
観覧席にいた者たちは初めのほうは好き勝手に何か野次を飛ばしたりして見ていたが、今では言葉を発することなく、黙って眺めていた。
皆言葉を失っていたのだ。
その戦いの光景に。
「はぁッッ!」
アロガンスは己を鼓舞するかのような声と共に駆けだした。その加速はこの舞台の広さでは完全に加速しきることはないが、それでも十分すぎるほどの速度であった。
その姿を完全にとらえることができている1年生が何人いるだろうか。
しかし、
「……せぇい!」
速度など関係ない。
速さと魔力を乗せた剣など関係ない。
ウイとアロガンスの間には完全なる実力差が存在している。
よってその一撃がウイの体に入ることはなかった。
ガンッ!
木の鈍い音がまた鳴り響いた。そしてアロガンスの剣はウイによって容易に受け止められた。
アロガンスは受け止められてなお剣に力を入れ、押し込もうとする。だがそれは敵わず、腕がプルプルと震えるだけ。剣は受け止められた位置よりも前へ進むことはなく、停止している。
ギリギリとアロガンスが歯を食いしばるような音も聴こえてくる。
だが、剣が進むことはない。
「⁉︎」
そして剣を押し込もうとしていたアロガンスが宙に浮いた。
アロガンスは何も抵抗なく宙を舞う。そこへウイの回し蹴りが入った。するとアロガンスは口から透明な粒を吐き出しつつ、地面を転がっていった。
「う……うがぁッ……」
「アロガンス様‼︎」
「……」
その光景に舞台の下――アロガンスが入ってきたところから決闘の様子を見守っていたフェルゼンが声を上げる。
その横ではビエンフーも心配そうに見守っていた。
「……煩いッ‼︎ 黙っていろッ‼︎」
「⁉︎」
「⁉︎」
アロガンスは二人に向かってそう叫ぶとゆっくりと剣を支えにしながら立ち上がった。
「さぁ。まだまだ‼︎」
ウイとアロガンスの決闘。それが開始されてからおよそ30分経過していた。
その間ずっとこれの繰り返し。
アロガンスが仕掛け、ウイが防いで吹き飛ばす。
アロガンスが仕掛ける。
ウイが防いで吹き飛ばす。
アロガンスが仕掛ける。
ウイが防いで吹き飛ばす。
30分ずっとその繰り返しであった。
あまりにも一方的な戦い。
その光景に観覧している生徒たちは声も出せなかった。
* * *
はぁ……。
何だこりゃ?
決闘が始まって30分くらいかな〜。本当にアロガンスのヤツ、一体何考えているんだ?
何度も攻撃を仕掛けてはきているけど、どれもこれも私にとっては甘いモノばかり。防ぐのも余裕、躱すのも余裕。そんな攻撃ばかり。
私はそんなアロガンスの攻撃に対処しては吹き飛ばすってのを何度もやっていた。
はぁ……。本当にため息が出る。
何が策でもあると思えば特になし。
最初は打たれ強くなった、諦めが悪いってちょっと面白そうだと思った。なんせそういう感じの奴って、漫画とか的には思わぬ反撃を仕掛けてくるかもっていう楽しみがあるからだ。
しかしそんなことはなく、がむしゃら特攻、それ一本。予定調和な展開。あまりにも予想通りな展開に私の上がりそうだった熱はすっかり冷めてしまった。おかげで私のほうから攻撃を仕掛ける気すらさっぱり湧かない。
本音言うともうさっさと降参して欲しい気分だ。
「はぁ……はぁ……」
「……ねぇ、アロガンス様」
私は剣を下ろし、肩で息をするアロガンスに話しかけた。
「いい加減降参してくれません? 実力差はもうハッキリでしょ。元々私にとっては理由もわからん意味不明な決闘ですし……はっきり言ってもう終わりたいな〜て気分ですよ」
「……はぁ、はぁ」
アロガンスは何も答えず、肩で息をしているだけ。
そして若干息が整うと、再び剣を構えた。私はそれを呆れるようにして眺めている。
「なんです? もしかして私のイメージダウンとかが目的ですか? こうやって私にアロガンス様をボコボコにさせて、私のことをこんなにも酷い奴だ、とでも?」
「……はぁ、はぁ……違う‼︎」
「じゃあ何ですか? こっちは理由もよくわからないのに付き合っているんですよ。状況的にそれ以外の理由でも?」
私は少し口調を強くしてそう言った。
アロガンスは何か言おうとして、だが途中でそれを飲み込み、何も言わなかった。私に聴こえてくるのはアロガンスの荒い息のみだ。
流石に面倒すぎる。
入学当初以上の面倒臭さだ。
もうアロガンスのことを力一杯吹っ飛ばして場外にしてやろうか? てかそうするか。そのほうがどう考えても早い。
私はそう考え、アロガンスのほうへ歩いていく。
「はあ!」
アロガンスは焦ったようにして踏み込んできた。
私はそれを体を横に逸らして回避。脇を通り抜けるアロガンスに向かって剣を振り抜いた。
ガンッ‼︎
「ありゃ⁉︎」
アロガンスを場外にしようと振った剣であったが、それはアロガンスの腹ではなく、剣へと当たり、辛うじて受け止められていた。
「うぐぅ……」
地面に膝を付けながらも、アロガンスは剣を受け止めている。口からは低いうめき声が聞こえる。
うん、これはちょっと予想外。本当にちょっとではあるが予想外であった。
これで終わりかな〜という一撃が見事に防がれたのはショックではあったが、予想外ということで面白い。
私は思わず口角を上げてしまった。
そしてそのとき、
「……はあ、はぁ……―――」
「? 何ですか?」
アロガンスの口から何か言葉が聞こえた。私はそれに対して耳を傾けた。
「何でだ……」
「何で?」
「何で俺を助けたッ‼︎ あのとき、俺が殺されそうになったとき……何で俺を助けた‼︎」
アロガンスはそう叫んだ。
あのときって……またその話……?
「助けたって……。はぁ。あのときも言いましたけど、私、別に助けたわけでは「知ってる‼︎」……はぁ?」
「黒髪が俺のことを助けたわけではないのは知ってる‼︎」
知ってるなら何で尋ねた?
ほんと意味不明にも程がある。
「それに、何で本当のことを言わない‼︎ あの襲撃の本当の原因か が俺だって何で言わない‼︎」
アロガンスは続けてそう叫ぶ。その姿にはいつもの王子オーラというものは一切なかった。
今度は私周りのことかよ。話一気に変わったなぁ。脈絡がなさすぎでしょ。……てか急な爆弾発言に観覧席の皆さん、驚いているよ。
まぁ、言わないのは情報統制されているから~てなだけな話なんだけど。
情報統制されているんだから、それに関してはあまり広めるなってことだろ。ならそう言うことは話さないってのが常識でしょうが。
「何でだ‼︎」
「うぉ⁉︎」
叫び声と共にアロガンスの剣に込められる力が増した。私は考え込んでいたせいで対処が遅れてしまい、剣を押しのけられ、アロガンスを下がらせてしまった。
「俺にはお前が分からん‼︎」
アロガンスは下がったそばから踏みこんでくる。
私はそれを避ける。
「俺にはどうするべきなのか分からん‼︎」
通り過ぎ際にアロガンスは急転換、私に向かって剣を横に振る。
私は剣を打ち付け、アロガンスの攻撃を逸らした。
「だから答えろ‼︎ ウイッ‼︎」
転びそうになりながらそう叫んでいるアロガンスの姿は、まるで答えを求めて泣き叫ぶ幼子のようであった。
う~ん、マジでどうするか……?




