17話
休日を終えた次の日。
午前の授業を終えた私はお面の絵柄についてレオナと話しながら食堂へと向かっていた。ちなみに姉様は一緒ではない。普通に先生たちの仕事のお手伝いをしている。
私とレオナは廊下のど真ん中をあれやこれやと話しながら歩いている。声のボリュームは一応周りに配慮して、若干落とし気味である。
「なるべく今の絵柄は維持の方がなぁ~」
「えー! だけどアレはちょっと……ダサくない?」
「そうなんだけど……やっぱりね……」
兄様が頑張って描いてくれたものだし……それを完全に潰してしまってのは……やっぱりなんだか申し訳ない。
レオナは私のそんな気持ちを察したのか急に元気そうな声を上げた。
「ん~まぁだけど、出来ないことはないかな」
「本当?」
「う~ん……うん、うん。大丈夫。なんとなく頭の中で出来た」
私たちはそうやって話しながら周りの視線も陰口も、そう言ったモノは完全に無視して進んでいると、正面からアロガンス・フェルゼン・ビエンフーの面倒三が歩いてきた。
アロガンスを先頭にフェルゼンとビエンフーがその後を追いかけているという形だ。アロガンスは表情を変えることなく、黙々と歩いてきた。
そして横に逸れようとした私の正面で立ち止まった。
なんだか久しぶりな光景な気がする。
「……」
「何ですか? 邪魔なんですけど」
私は進路を塞ぎ、立ち止まったまま何も喋らないアロガンスにそう言った。
「なっ、貴様! アロガンス様になん「黒髪」」
私の言葉に対してフェルゼンが文句を言ったとき。それに被さるように、さっきまで黙っていたアロガンスが口を開いた。
「…………黒髪。貴様に決闘を申し込む」
「はぁ?」
決闘?
急に何言ってんだこの面倒は。ここ最近はなんか絡んで来ることはなく暗い変な感じだったけど急に真剣そうな顔つきになったと思ったら決闘って……。脈絡がなさすぎる。本当に訳がわからん。
「「「⁉」」」
近くにいた人たちもアロガンスの突然の発言には驚きの声を上げている。
「なっ⁉」
「アロガンス様⁉」
後ろについているフェルゼンとビエンフーもアロガンスの発言に驚いているようだ。
いや知らなかったのかよ。いつも一緒の面倒三なんだから主人の内心ぐらい少しは把握してろよ。
「……急に決闘って意味がわからないんですけど」
「意味不明な申し出だということはわかっている。どうしてこんな発想になったのかも俺自身わかってない。……だがこれが一番だと思った。答えを出すにはこれが一番だと」
「いやいや。さらに意味がわかんないんですけど。決闘とか答えとか。何ですか、今度はそういう意味不明な方向での嫌がらせですかね。
本当面倒なだけなんですけど」
「いや、そういう訳ではない。
これは俺のアマツカエ嫌いとは関係ない。俺の心の問題だ」
いや~これは困った。本当に困ったぞ。会話できているはずなのに会話できている気が全くしない。これなら入学当初の絡んできていたときのほうがまだ会話できた。
私は呆れ、心の中でため息を吐きながらアロガンスを見た。
アロガンスの表情は真剣そのものであり、前までの私に対して敵対心むき出しなものではなく、そしてこの前までの何か悩んでいるようないつもと違う違和感満載な態度でもない。そのどちらでもない、何かを決心したかのような、少しだけマシな顔つきであった。
「……」
「どうだ。受けてくれないか?」
う~ん……別に受ける理由はないしなぁ。だけど逆に受けない理由というのも特別ない。強いて言うならまだ私はドクターストップをかけられているってことぐらいだ。それにそれもあと三日で終わる。ドクターストップが解ければ刀を振り回したって、走り回ったって大丈夫だ。
……。
……。
「……」
「……」
アロガンスはジッと私を見つめている。
その瞳には私への敵対心を感じはするものの、それ以上に別の何かを感じる。それは私に対する、負の感情という感じではない。
「……はぁ」
私は思わずため息を吐いた。
なんだろうな。こういう理由もわからないのに急に真剣な感じにされると場の空気って奴が一気に重くなるような気がする。
ほれ周りを見てみろ。
みんな私とアロガンスに注目を向けてはいるが、近づこうとすることは一切ない。
この空気から逃れようと距離をとろうと少し下がってるくらいだ。まぁ話の内容が気になるのか、声をギリ聞き取れるぐらいな距離感ではある。
私の隣にいるレオナだけはそんな空気をものともせず――てか感じていない様子で聞いている。
「合同練習のとき、私に負けましたよね」
「あぁ……負けた」
「逃げましたよね」
「……ああ、逃げた」
「……なのに決闘するんですか。たかだか二週間近く剣振っていないだけで私の実力が落ちに落ちてると思っているんですか?」
「思っていない。
……それに仮に落ちてたとしても貴様の方が強いだろう……」
「はぁ……? 余計わかりませんね。決闘するのが意味不明な上、自分の方が弱いと思っている。どういう魂胆ですか? もしかして私にアロガンス様をボコボコにさせて、それで私の周りからの心象をさらに悪くしようという魂胆だったり?」
「違う」
「じゃあ何ですか?」
本当にじゃあ何だよ。こっちはどうにか姉様がこっちにいるうちに私周りの面倒の解決をしようと考えている最中なんだよ。そんな最中にこうも絡んでくるとか面倒以外の何物でもないぞコラ。
「すまない。俺自身言語化が難しいのだ。……だが貴様と決闘できれば何か……言葉にできる……そんな気がするのだ」
「ふ~ん。そうですか」
「もし私が断るって言ったらどうするんですか?」
「そのときは……」
アロガンスは少し悩んだ様子をしてから言った。
「……自分で答えを出す」
う~ん、なんか微妙にずれた答えである。完全にアロガンスの中でほとんど完結してるよ。
だけどまぁ、第一王子としての力を使うとか言い出さないのはちょっと意外……いや意外でもないか。なんやかんやアロガンスは真面目なのかそういう力とかは直接的に使おうとするアホ王子の類ではない。まぁ“力がある”ということを利用はしていたけど。
……にしても本当にどうするか。
断るか?
受けるか?
どっちも別にデカい損はない。あるとしても心象をさらに悪くされるくらいである。今更ちょっとやそっと悪くなるくらいは誤差だろし、ないも同然。
……。
……。
よし。
「じゃあ受けますよ」
「⁉ 本当か⁉」
アロガンスは予想以上に驚きの声を上げた。ちょっとビックリである。
私はそんなアロガンスを落ち着かせるようにゆっくりと話しかけた。
「そんな驚かないでくださいよ。別に損とかあるわけではないですから」
私も剣振ってなくて、流石にちょっとは鈍っていると思うし、良い感じな練習にはちょうどいいだろうし。
「ただしその決闘をするのは三日後まで待ってもらえますか? 私、今ドクターストップかけられているので」
「わかった。ならば……五日後でどうだ?」
「はい。それでいいですよ」
私は気持ち的には全くもって燃え上がんないが、そういわけで五日後にアロガンスと決闘することとなった。




