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14話



 少しの間待っていると、思ったよりも時間がかからない内に料理が運ばれてきた。


 私の目の前に置かれたのは目玉焼き付きのハンバーグ。

 ハンバーグにかけられたデミグラスソースが鉄板に流れ、ジューと美味しそうな音を立てており、食欲を煽ってくる。目玉焼きは程よい焼き加減であり、黄身の部分は固まっておらず、フォークを突き刺せばとろりと黄身たちが流れてきそうである。

 とても美味しそうな一品である。

 ……。

 ……。

 ……一品ではあるのだ。

 だがそれよりもだ。

 美味しそうではあるが、それ以上に……


「「デカっ……!」」


 そのあまりのボリュームに私とレオナの口からそんな言葉が零れた。


 私の目の前に置かれたのはハンバーグ。

 そのサイズは私の頭ぐらい……いやもしかしたら私の頭よりもデカいかもしれない。そのぐらいデカい。乗っかっている目玉焼きは一つではなく、三つ。しかしそれでもハンバーグの表面は目玉焼きには覆われておらず、まだ少しスペースが残っている。


 レオナの方に置かれたオムライスは、オムライスというよりも山。ちょっとした模型の山と思うぐらいであり、だいたい縦に拳二つぐらいのサイズだ。流石に上半身を隠す、というぐらいのあほみたいなサイズではないが、それでもデカい。


 あまりのサイズに声を漏らしてしまっていた私とレオナであったが、姉様はと言うと特に驚いた様子もなく目の前に置かれたホットサンドを見ていた。

 三角に切られたホットサンドが四個、細長い皿に乗せられており、端のほうには少量のサラダも付随している。

 言葉にするとなんとなく普通な感じであるが、実際はそうではない。

 まずホットサンド本体の方は拳一つとちょっとぐらいのサイズ。それが四個もだ。その上、さっきは少量の皿だと言ったが、それはホットサンドに比べたらという話だ。普通に一食分くらいの量である。


「美味しそうね~」

「うん。まぁ……確かに」


 デカい。

 デカすぎるが、確かに美味しそうである。香りはお腹が空いた私の体を刺激し、早く食べたい早く食べたいと訴えさせている。


「じゃあ……いただきます」


 私はそう言って、フォークとナイフを持った。


 まずは端の方――目玉焼きが乗っかっていないスペースにフォークを突き刺した。フォークは抵抗なく刺さり、ハンバーグの柔らかさが容易に伝わってくる。

 私は続いてナイフを切り入れていった。すると中から熱々の湯気と肉汁が溢れてきた。それには思わず口も緩まってしまう。私は気を取り直して切り分けたやつにしっかりとソースを付けて、口に入れた。


「あ、ふぁっ……ふぅっ……ふぅ‼」


 その瞬間、口の中に広がったのは熱々の肉汁。思った以上の熱さにより、私は空気を求め、吸い込もうとする。だがそんな中でも熱と共に広がっていたのが肉の旨味、そしてそこに絡み合うデミグラスソースの味。


 美味しい。


 思わずそんな感想出ていた。


 噛むとハンバーグは簡単に崩れ、さらに濃厚な肉汁がソースと絡み合いながら、口いっぱいに広がっていく。

 ご飯が欲しい。

 米が欲しい。

 ライスプリーズ。

 そんなことを言いたくなるぐらいである。


 多分今の私の表情はかなり幸せそうな感じであろう。

 人間は肉を食うと幸福感が得られるとかあったが、本当である。こういう美味しい肉料理を食べるとより一層そのことが身に染みてくる。


 今度は目玉焼きの一つにフォークを刺した。すると中の黄身がトロ~リと流れ出てくる。褐色のソースの上に黄身が静かに広がっていく。

 私は白身と一緒にハンバーグを切り分け、ソースと黄身をたっぷりと付けて口に入れた。

 黄身の味がハンバーグやソースの味をさらに引き立てており、これまた美味い。

 久しぶりのとびっきり美味しい料理に私の腕は止まらなくなる。どんどん切っては口に入れ、切っては口に入れていく。

 そして私の頭よりデカかったハンバーグはあっという間に消え去っていた。


「ふぅ~。美味しかった」


 最初はデカいと驚いてしまったが、よく考えてみれば私、学校では普通に何食も食べたりしている。いつも食べている量に比べると一皿の量は多いが、総合の量で考えるとちょっと少ないぐらいである。


「ウイはもう食べ終わったの……」

「うん終わったよ。いや~本当に美味しいね」

「うん。まぁ……美味しいよ。美味しいけど……ちょっと多くない⁉」


 レオナはそう言いながらオムライスの山を切り崩していた。その中からは何か肉の塊みたいなのが出てきている。


「デカいのは知ってたけどさぁ……。なんで中に肉入ってるのよ……」


 呆れた様子でそう言うレオナはすでに結構疲れた様子であった。


 まぁ確かに。デカいのは良いとして、中に肉が仕込まれているのは意味がわかんないよね~。どこの大食い番組だって話だね~。


「ちょっとだけウイも手伝ってよ~」

「いや~。私はこの後本命のパフェがあるからね。手伝うなら……姉様にお願いしてね」


 姉様も結構な量であったが、私同様ペロリと完食していた。

 レオナは肉をほじくり出し、小皿に乗せると姉様に話しかけた。


「う~……。

 お姉さん手伝ってください。ちょっとだけ。肉だけでいいので」

「まあ良いのだけど……その前に」


 姉様はそう言うとレオナの耳元に顔を近づけて何か話し出した。


『例の件。追加20枚』

『20枚……! う~ん、ちょっと待ってください……えっと。う~ん』

『お金はこっちで出すから』

『ぅう~ん。……わかった。追加20枚』


 ゴニョゴニョと小さな声なので私には聞き取れなかった。ちょっと気になったので耳を強化して、じっくりと聞いてみようと思ったが、そのタイミングで甘~い香りがした。


「⁉」

「お待たせしました。特製パフェです」


 ドンという音と共に机に置かれたのは座っている私の首のあたりまで届く、巨大なパフェであった。

 頂上にはアイスクリーム。周りにイチゴやベリーなどのフルーツ、それに生クリームや棒型のチョコが添えられている。下の方は何段にも層になっており、シリアルやバナナ、生クリーム。アイスに再びイチゴ。キウイに果物のソース。何種類もの甘いものがある。

 広告に誇張ナシ。

 表示詐欺ナシ。

 正に外で見たパフェの絵通りの実物であった。


「いっただきまーす⁉」


 私は長いスプーンを手に、パフェを食べ始めた。

 まずはソフトクリームを一掬い。口に入れると優しい甘みと共にひんやりとした感覚がジワ~と広がってくる。さっきまで熱々のハンバーグを食べていたというのもあり、その冷たい感覚はなんとも心地よかった。


 私は棒のチョコにたっぷりとクリームを付けながら口へと。

 イチゴはアイスを一緒に一口。

 ベリーと生クリームは一塊で食べた。

 口に甘いが広がる。私は夢中で食べながらも、上層の全部を食べきる前に一旦スプーンを止めた。そして止めたスプーンをパフェの中へ深く突き刺した。シリアルの砕ける音を感じながら私はパフェを底の方から混ぜ始めた。

 量が多いので、間違っても零したりはしてしまわないように慎重に混ぜていく。

そうやって混ぜながら、私は肉に噛り付いていた姉様に言った。


「そういえば姉様。姉様はいつまでこっちのほうにいるんですか?」

「えっ……」


 すると姉様は衝撃を受けたようになって固まってしまった。

 あれっ、どうしたのだろうか。なんか不味いことを言ってしまったのか?


「その言い方は……」

「えっ? なんか不味かった?」


 レオナはあちゃ~といった感じで私にそう言ったが、どういうことだ。全然わからん。

 私が良くわからんとなっている間にも姉様の表情はどんどん暗くなっていった。


「あ、姉様……? どうし「ウイ……」」

 なんでしょう?」

「ウイ……。も、もしかして……。もしかして、お姉ちゃんがこっちにいるの嫌だった……?」


 姉様はこの世の終わりだと言わんばかりの表情になってそう言った。


 あっ!

 そういうこと。

 もしかしてそういうことか‼


「違いますよ姉様‼ 姉様がいるのが嫌なわけないじゃないですか‼ 私は姉様が大好きですから‼ 嫌うはずがないでしょう‼」

「ほんとう?」

「本当ですよ。ただ姉様がいつまでこっちにいられるのかなぁ~て気になっただけです。ほらっ、姉様、私のことを心配で勝手に戻って来ちゃったんですよね。だからちょっと気になって」


 私は慌てながら、口早になってそう言った。

 それにより思わずパフェを混ぜる速度も上がって、若干クリームが零れてしまった。


「本当に?」

「本当です。本当ですから!

 元気出してください。ほらパフェ食べます?」

「……うん食べる……食べさせて」

「はいどうぞ」


 私はかき混ぜているスプーンを持ち上げ、姉様の口に入れた。


「ぅぐ、もぐ…………良かった……本当に良かった……」


 姉様はすぐに安心した様子――むしろ幸せそうな様子になった。甘いモノはやっぱり人を幸せにするのだなと思いながら、私は再びスプーンでパフェをかき混ぜ始めた。……私的な一番の幸せはやっぱり雨の中で刀を振るうことだけどね!


「ぅぐ。ぅぐ。ぅんぐ……」


 姉様はパフェの味をしっかりと、入念に味わってから飲みこんだ。すっかり回復。完全復活したようである。

 それから姉様は少し考える素振をしてから口を開いた。


「……もう少しこっちにはいるかな。私もちょっと色々やっておかないといけないし」

「やっておかないと?」

「そう。まぁ、ウイは気にしなくていいわよ。

 ほらほら、私と話なんてしているとアイスが溶けちゃうわよ」

「あっ」


 ヤバッ。混ぜすぎてドロドロだ。


「レオナも、例の件よろしくね」

「了解です」


 姉様とレオナが何か言ったような気がしたが、そんなことどうでも良い。

 それよりパフェだ。

 私はスプーンを回すのを止めて、パフェを掬っていく。

 そして次々に口へ入れていく。若干溶けすぎた感はあるが、それでも味は変わらない。ひんやりとした感覚やふにゃりとして柔らかくなったシリアルの触感。フルーツやアイスなどの甘みを楽しみながら、私はパフェをかきこんでいった。


 うん。甘い。美味しい!



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