13話
1時間ぐらいだろうか。そのぐらいの時間がいつの間にか経っていた。
私たちはジャミールを後にして、今度こそパンド食堂へと向かっていた。
「ふふふふ~」
「ふへへぇ~」
私の両脇を歩く姉様とレオナは二人して変な笑い声を漏らしていた。
そのせいでさっきからずっと周りからの視線が若干可哀そうなものを見るような感じである。あっ。今「見ちゃダメ」してる親子もいた。
本当にああいうのはあるのかと思いつつ、いい加減二人には正気に戻って欲しいものだ。
「ふふん。ふふ~ん」
姉様はなんとも幸せそうな様子鼻歌をしている。そしてその細い腕にはアルバムが入った紙袋と服が詰め込まれた紙袋を抱えていた。
服が詰め込まれた紙袋には、私が試着した服――十着全て、そしてそれに加えて、姉様が選んだ普段着用の服を二着が入っていた。普段着用に選んでくれたのは、余計なスカートは短めだがその分動きやすそうな感じの服であった。全体的にデザインはかなり好みの部類だった。ナイス姉様である。
……なぜかサイズを測ってもらった記憶がないのに完璧に合っていたのは謎であるが。まぁ多分店員さんに聞いたのだろう。うん。そうだろう。
てなわけでこの話はここまで。
「ふぇ~。ふぇ~。ふへへへぇ~」
奇妙な鳴き声を発しているレオナはと言うと。スケッチブックを大事そうに抱えながら、そこへ細かく何かを描きこんでいた。
横から覗き込んでみると、私が着ていた服たちの細かいデザインを仕上げているようであった。
うん……。描くのは良いけど、流石にちょっと落ち着こう。そう言いたくなってしまいそうであった。
「ふふふん。ふ~ん。ふふっ。ふふっ」
「ふにゅ~にゅ、にゅ~。ふへぇ~ふにゅ~」
「はぁ……」
まぁそんな感じでまともな人間は私一人という状態ではあった。私はほぼ使い物にならない二人を連れて、パンド食堂への道筋を何とか思い出しながら向かっていった。
そして幸運にも道中特に何か起きることなく、私たちはパンド食堂にたどりつくことができた。
今度は正真正銘パンド食堂である。
あの日匂ったおいしそうな香りはちゃんとするし。
壁にはどデカいパフェの絵もしっかりと貼られている。
何よりここまでは私が思い出しながら来たのだ。間違うはずは……あるかもしれないが……今回はなかった!
そして到着した、その頃には姉様とレオナはすっかり正気に戻っていた。
「あれ? パンド食堂だ」
「ホントね。ウイ、いつの間に着いたの?」
「いつの間にって……」
本当にこの二人は……である。
片や重度のシスコン姉様。
片や絵を描きたい、私描きたい。絵描き星人。
あれ? もしかしてまともな人間ってガチで私だけなのか……?
「ウイ~。扉の前で立ち止まってどうしたの?」
「ん。なんでもないですよ、姉様。さぁ、早く行きましょう」
私はそう言って駆け早に扉を開いた。
「いらっしゃいませ! お好きな席をどうぞ!」
扉を開けると、私たちを待っていたのは元気な声のそんな挨拶だった。
席は大きな机が10個……12個ぐらいあり、小さな机の席が窓際の方に何個かある。その席は全部埋まってはおらず、大きな方も小さな方も、どちらもいくつかの空きがあった。
エプロンを付けた店員たちはあまり忙しくなさそうな様子で、大仕事の後の一息といった感じの雰囲気であった。
姉様の言っていた通り、多分ジャミールに行かず、そのままここに来ていたら、並んで待っていたかもしれない。そんな風に私は思った。
私たちは小さな机の四人席のところに向かい、そこへ座った。姉様の持っていた大荷物たちは誰も座っていない四つ目の椅子に置かれた。
「パフェっ! パフェっ!」
私はそんな感じに歌いながら、机に置かれていたメニュー表を開いた。
おおっ!
メニューを開いた瞬間、私はそんな風に感嘆の声を心の中で上げた。
私の目の前に広がるメニュー。そこには私が食べていたいと思っていたパフェの他にもたくさんのメニューが書かれていた。
ハンバーグ。
照り焼きチキン。
スパゲッティ。
ホットサンド。
ショートケーキ。
チーズケーキ。
その数はかなり多く、メニュー表にはそれらがびっしりと書かれている。そしてなによりメニュー表の下にはある注意書きが書かれていた。
「『当店の料理は大変サイズが大きいのでお気を付けください』か。
ねぇ、レオナ。ここの料理ってどんぐらいデカいの?」
私は事前にデカいという情報を知って、私に教えてくれていたレオナにそう尋ねた。
するとレオナは困った風な顔をして言った。
「う~ん。私も来たこと自体はないから……ちょっとわかんないわ。……ただ、そんな注意書きがあるんだから結構なデカさでしょうね」
「そうか~。そうだよね~」
そりゃ楽しみである。
私はワクワクしながらメニューに目を走らせ、何を食べるかを考えた。
今回の目的はパフェではあるが、一応昼食でもある。昼食がパフェだけというのはなんともまぁ……なのでそれ以外にメインを何か頼みたい。
何にするか。
かなりメニューが多すぎて迷う。
私は少し考えた末、目玉焼き付きのハンバーグにすることにした。姉様とレオナは私が決める前にすでに決めており、それぞれホットサンドとオムライスである。
そして私が決まると、姉様が近くを通りかかったきれいな赤髪が特徴的な店員を呼び止め、注文を伝えた。
「ウイ。学校は楽しい?」
料理を待っていると姉様がそんな質問を投げてきた。
「楽しいですよ姉様」
姉様は私がそう答えるとちょっと驚いたような表情になった。
「本当に楽しいの?」
「はい。ぼちぼち楽しいですよ」
うん。すごく楽しいとか、今が物凄き楽しいというわけではない。それに今は周りが大変めんどくさい状況でアレではある。だが楽しくないわけではない。
「なんせレオナが色々描いてくれたりしてくれますし、好きなことについて話したりするのは楽しいです。それに楽しみなことだってありますし」
レオナとは刀×雨のロマンを語ったり、逆にレオナの絵に対する思いを聞いたりと、結構色々さらけ出したりできるので楽しい。
それにセオス王立学校にはこれから先、三校祭があったりするなど楽しみなことがある。
授業も色々知れて、学べるので楽しい。
確かに今は若干めんどくさかったりするが、それ以上に楽しかったり、楽しみがあったりするので、結構満喫・充実である。
「そりゃ嬉しいこと言ってくれるねぇ」
「事実だからね」
「尚うれしいわね」
レオナは嬉しそうに言った。そしてそこから一転。表情が不気味……というか何だか不審者染みた感じになった。
「じゃあ~じゃあ~。そのお礼ついでに…………描かせて」
「ん? なんて?」
ぼそぼそとなっていたせいで後半が聞き取れないかった。
なんか姉様の目が充血したような気がするが気のせいだろうか。
「ヌード」
「ぬーど?」
「うん。ヌード描かせて?」
ぬーど?
ヌード?
nude?
一瞬にして思考回路が停止した。頭が赤く、熱くなっていくのがわかる。
「えっちょっ……えっ……?」
流石に予想外。想定外。私は突然の言葉に頭がパンクしそうであった。
えっ、だってヌードだぞ。ヌード。流石にそれは恥ずかしい!
そんな風に戸惑っていると、レオナは表情を戻して笑いながら言った。
「アハハハハ! 冗談! 冗談よ!」
「えっ。本当?」
「ええ。冗談だから。そんな顔赤くしないで」
ふぅ……そうか。冗談か。良かった……。
私は少しだけ胸を撫で下ろした。
姉様がちょっとだけ残念そうにしているが、まぁ気のせいだろう。




