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10話



 大勢の現役学生。皆その身に学生服を纏い、サムシの話を聞いている。

 その様子は私が通って頃と何も変わらない。


 未来に目を輝かせ。

 切磋琢磨し。

 仲間と共に学び合う。


 あの頃とほとんど変わらない様子だ。


「…………」


 私の目に映っていたのは話を聞くために前に集まっている生徒たち――ではなくその後ろ。生徒たちの山で見え隠れする黒い髪。このセオス王国では珍しく、我が家にとっては馴染み深いその髪色。

 私が見ていたのは、私の大事で大好きな妹、ウイである。

 ウイは講義が始まってからずっと後ろの方にいた。隣にはこの前病室で会って、その後色々お話をしたウイの友達のレオナもいる。

 仲良さそうな友達ができた。その嬉しさに目頭が熱くなりそうだ。

 だけど今はそんなことはどうでも良い。

 目頭の熱さはどこへやら。私の心を満たしていたのは冷たい感情。怒りの感情。


(あぁ。本当に腹立たしい。こいつら何、ウイの邪魔してるんだ‼

 おいそこの男子、頭下げろ! ウイと被ってるだろうが! そこのお前も。ウイが見えないだろうが‼)


 授業開始してからずっとウイは後ろの方にいる。ウイの身長は大きいというわけではない。むしろ若干低い部類に入る。……そこもかわいいところではある。

 そしてそんなウイが後ろ。多くの生徒がいる中の一番後ろにいるということは、どうなるか。

 答えは簡単。

 ウイが私のことを見ることができないということだ。


 折角のお姉ちゃんの活躍。

 それを見せてやれない。

 見るかもしれないが、見えづらい。

 そんなことなったら、


(ウイが悲しむだろうがっ‼)


 心の中で怒りを爆発させながら、私は何とかそれを外に出さないように留めていた。


 笑顔。

 笑顔。

 ちょうどいい笑顔で受け答え。

 サムシ先生が投げてくる質問に答え、講義の内容に補足をしていく。


 もしこれが授業でなければ。

 私がお手伝いをしていなかったら思わずあいつらを軽く脅したりするところである。まぁ今はやらない。我慢する。

 それに学校でそんなことをすると逆にウイが孤立してしまうかもしれない。それはダメだ。絶対にダメ。そんなことになればウイが悲しむ。

 よって脅すのはダメなのだ。


 ……。

 ……。

 ちょっとだけ……。

 ちょっとだけ二、三語言って……ダメだ。多分と言うか確実に四、五、六と際限なく増える。そして最終的に脅しになる。


 うぅ……本当に歯痒い。

 何かしてあげたいのに何もできない、やれないもどかしさ。


(あぁ……あんなに悲しそうな顔してる……私の姿が見れないのがそんなにも……)


 私は一瞬できた隙間からウイの悲しそうな顔を見た。表情に影がかかり、悲しむようなその姿。その顔を見た瞬間思わず声を出し、叫びそうになった。

 だがそのタイミングで、


「ではトウコさん。こちらについては実際にはどんな感じなのでしょうか?」


 サムシ先生の質問が再び飛んできた。

 私はすぐに頭を切り替え、質問への回答を考える。


「え~と、対人剣術の化け物への有用性ですね」

(あ~‼ もうっ、また‼)


 さっきからずっとサムシ先生は私が何かしそうになったそのタイミング。ちょうどそのタイミングにばかり質問を飛ばしてくるのだ。十中八九タイミングを読んでる。私が何かやらかさないようにしているのだ。授業前も小言というかお願いを何度も何度も言われたので確定だ。


 その気遣い自体は嬉しい……まぁ嬉しいのだが。何してくれるんだという気持ちもある。


 私にとってはウイが最優先。

 よってウイのための行動を邪魔されるというのは内心としては嫌な感じだ。

 例えそれが私やウイのことを考えた行動だとしてもだ。何というか理性ではわかるし、納得もしているが、感情では何か嫌だという感覚なのである。


「剣術……それにもよりますので、有用だったり、有用じゃなかったりします。対人でも魔法を使う相手に特化された剣術は有用な技が多かったりします。その理由としては、対魔法特化ということは人間以上の力や攻撃を受けることが前提となっており、それを打ち倒し、殺す。そのための剣術を作り上げていくと、結果的に仮想敵が化け物となってくるからですね」


 私の話を頷きながら聞く者数名。

 聞き流しているもの数名。

 私を馬鹿にした様子で聞いていない者数名。


 ああ本当に前と変わらない光景だ。

 私が学生としてこの学校に通ってた頃、周りは私のことを避けていた。私を見る目は敵対、嫉妬、蔑み、恐れ。そんなモノであった。

 私はこんな学校ではウイも同じような環境になってしまうと何とか頑張って、みんなのアマツカエ家に対する嫌な感じを払拭しようと努力した。おかげで騎士団に入ることにもなったが、その甲斐もあり、マシにはなった。

 そのため陰の者から聞いた、ウイの入学当初は私のときほどではなった。


 ……そんな私の努力むなしく、あの馬鹿王子のせいでウイは孤立したが……。本当にムカつく王子だ。第一王子とかでなければ殴りに、殴って、脅しに脅していた。

 まぁそれに関してはウイが自分の手で馬鹿を剣で圧倒したことで若干の改善がされたようではあったが。流石は私の妹である‼


 しかしそんな若干の改善がされていったタイミングでの学校襲撃。そのせいでウイは大怪我。その上若干の改善が起きてた環境が逆戻り。学校襲撃の原因はウイであるという風潮ができたせいでまた悪化。私の頃近くの空気になってしまった。


 本来であればここまでにはならないはずであった。

 ウイが原因とされる。そんなことは起きないはずであった。何せ本当の原因はあの馬鹿にあるのだから。


 だが実際に原因とされているのはウイである。


 そうなってしまったのは王室による情報統制だ。

 今回の事件。セオス王立学校に襲撃があったこと、そして王子が殺されかけたこと。その二つを王室としてはなるべく表には出したくない、そもそも大きく広められたくなかった。

 それに加え、情報統制により黒幕の捜査をやりやすくしたかった。

 しかしことが事であり、規模も規模だ。完全には隠せない。隠せないはずなのだが、ここで王室の奴らが無駄な頑張りを行ってしまった。

 学生も動員させた急ぎの復旧。迅速な行動。

 その結果奇跡的に隠せてしまったのだ。

 街で暮らす者たちには襲撃と暗殺を。

 学生たちには王子の暗殺を。


 本当に迷惑なことだ。

 何してくれるんだって話だ。

 おかげでウイの環境が悪くなっただろうが‼


 幸い先生の方は裏事情を知っている者も多数だったので完全に最悪とはなっていない。

 上級生の方でも生徒会の方で動いており、沈静化。何か問題行動したりしないようにはされている。

 だが同学年。一番大事な同学年へのカバーが出来ていない。出来ていなかったのだ。


 そのせいでウイは現状のようになってしまっている。

 推定原因。

 学校襲撃事件の推定原因。

 周りからウイヘ向ける感情は悪いものばかりだ。


 これは何とかしなければならない。だが私にできることと言えばウイに敵対する者を脅したりする程度。かかる火の粉を払うことぐらいしかできない。

 ならばどうするか。

 そんなのは分かり切っている。


(ウイを甘やかす‼ 周りからの悪感情で傷ついたウイを甘やかしまくる‼)



 トウコの中では完璧な理論。

 重度のシスコンである彼女にとっては完璧な回答であった。


 だが傍から見れば若干ズレた回答であった。

 もっと他にやることがあるだろうってツッコミを入れられてもおかしくない回答だ。

 しかしそれを告げてくれる者は誰もいない。


 重度のシスコン、アマツカエ・トウコは一人で暴走。ウイとのお出かけで甘やかしまくると燃え上がっていた。


 なお、ウイ自身は別に周りから悪く思われてしまっていることや避けられていることを気にしていなかった。

 悲しい顔をしていたのも、己が姉を見れないことではなく、自身の中途半端な身長を嘆いてのことであった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 内心キレてるけど動かないお姉ちゃん。 本当に良い姉です。 サムシ先生もナイスアシスト。
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