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7話



「そういうわけで。どうかなレオナ? 一緒に行かない?」


 次の日。寮から学校へと向かう途中。私はそんな風に昨日見つけた食堂に休みの日に行かないかとレオナに提案していた。


 別に食堂に食べに行くのは一人でも大丈夫だが、一人だとちょっとだけ行くのが気おくれするというか、緊張する。

 何も大舞台に立つというわけではない。なのに何で緊張するのだという話ではある。

 だがまぁ、ちょっとだけ話を聞いて欲しい。


 昨日描かれていた巨大パフェに夢中になって気が付かなかったが、あそこのお店少々デカすぎるのだ。

 しっかりとした店構え。

 お金のかかった外装。

 外から見えた中の様子では、中の方は広々く、席もたくさんある。そしてその席は埋まり、お客さんが皆食事をしていた。そして入口は入ると、中全体から見られるような構造。


 一ヶ月オーバーここケセムにはいたが、街の方はあんま歩いてみていないので、ある意味初めての街。

 そんな初めての街での、初めての食堂。

 そこはしっかりと人気そうな店。

 入ればほぼ確実に客の目線を全部集めたりしてしまいそうな構造。


 初回一人で行くにはちょっとだけ難易度が高く感じる。……いや、まぁいけないことはないが、行きずらいのだ。緊張する。

 そこで緊張せずに行くために、それとついでに絵のお礼も兼ねて、そこへ行ってみないかとレオナを誘っているというわけである。


「あぁ。あそこか~」

「? 知ってるの?」

「結構有名なところでね。……確か名前は『パンド食堂』だったかな。……料理の量が多い、なのに安いって感じで人気の店だったはずだわ」


 なるほど~。それは楽しみだ。パフェのみが目当てではあったが、他の料理も食べて見たくなってきた。


「ん~だけど今度の休みか……」


 レオナは申し訳なさそうにしてそう言った。


「何か用事でも?」

「ちょっと画材を補充しようかな~って」

「あれっ。でも学校にあるやつって結構使っても大丈夫じゃなかったけ?」


 この学校の美術室。まぁ美術室だけの話ではないが、この学校で用意されている消耗品。

 美術室にあるものと言えば絵具やキャンパス。消しゴム。鉛筆。

 それ以外のモノだったりすると、打ち込み用の棒や魔法実験で使う素材。道具作成用の材料。などなど。そういった消耗品は容量――つまりは過剰に、そして無駄に使い過ぎたりしなければ、基本的に自由に使うことができたりする。

 流石セオス王国一の学校と言える。


 なので画材に関しては問題ないはずであるが……?


「いや~なぜか使用禁止ってこの前言われちゃって」


 マジ?

 禁止になるって相当では?


「私としてはあんま使い過ぎていないし……むしろ我慢した方だと思ってたんだけどね~。

なのにこの前、急にピグマ先生に呼び出せれて。めっちゃ怒鳴られまくって、当分は美術室出入り禁止の上、画材を使うなって言われちゃって……」

「えぇ~……」


 私は驚きのあまり口をあんぐりと開けて、奇妙な音を漏らしていた。


 確かにレオナは結構使ってたと思うが、そんな禁止されるほどだったのか?


「えっと……一応聞くけど。どんぐらい使ってたの?」


 私は恐る恐るといった様子でそう尋ねた。

 するとすると少し前を歩いていたレオナがくるりと振り返った。そして癖っ気が多い髪の毛たちをぴょんと揺らしながら言った。


「ざっと100枚ぐらいかしら」

「100枚?」

「うん。100枚」


 私はもうすでに嫌な予感がしていた。だが口は止められず、開いていく。


「一ヶ月?」


 レオナは髪を揺らしながら首を横に振った。


「一週間?」


 またしても首を横に振った。


「……まさか……一日だったり……?」

「だ~いせいか~い‼」


 レオナは頭の上に腕で丸をつくりながらそう答えた。その表情は清々しいまでの笑顔。満面の笑みであった。

 流石にこの答えには私も驚きのあまり一瞬思考が止まった。が、なんとなく最初から予想はできていたため、すぐに復帰した。


 にしても一日100枚。そんなに描いてたのかよ。病院とかでは課題を持ってきて、それから絵を一枚描いたらすぐに帰っちゃうからちょっと変だな~とは思っていた。あんなに描きまくっていたのに、すごく大人しくなったなと。

 だが本当は違ったみたいである。


「ウイの戦ってる姿が凄いインスピレーションになって、メチャクチャ筆が走ったんだよね~」


 むしろ大人しくなるどころか、暴走状態。


「おかげで最近はちょっと寝不足なんだ~」


 筆が走りまくるという状態であったのだろう。


 太陽の陽で顔を照らされて、笑いながら歩くレオナの目の下。そこには、いつもは髪の毛の影かと思っていたが、実際は隈だと思われるものがあった。


 燃料が供給され、興奮が止まらない。興奮で眠れない。興奮で暴走。

 ……。

 ……。

 うん。


「めっちゃわかる」


 私は何度も縦に頷きながらそう答えた。


「でしょ~」


 うん。すごいわかる。

 なにせ私も昨日は眠れなかった。

 久しぶりに刀を持って鏡の前でポージングをしまくって、刀を頬擦りしまくって、刀身を眺め、月明りで照らしてみたり。そんなこんなやってたらいつの間にか一晩明けていた。

 おかげで私の目の下には出来立てほやほやの隈があった。


 最初は若干驚いたが、普通に考えてみれば至極当然のことである。


 私はレオナが禁止された理由に納得しつつ、「じゃあさ」と続けた。


「レオナの画材買いを手伝うからさ。私と一緒にパンド食堂行こうよ」

「ん~。良いわよ。私も手伝ってくれるのは嬉しいし」

「よしっ」


 私はそう言いながらガッツポーズをした。


 そうしているとレオナが私の後ろの方を見ながら言った。


「後ろのは誘わなくていいの?」

「後ろの?」

「うん。さっきからウイのお姉さんがじっと見てるよ」


 私は後ろを振り向いた。

 そこには何か期待した眼差しをして私を見つめながら付いて来ている姉様がいた。ちなみに姉様は別に私をストーキングしているわけではない。姉様も私たち同様、学校に向かっているため一緒なのだ。……なぜ私の後ろにいるのかは知らないが。


「……」

「……」


 私と姉様は無言で見つめ合った。


「ん~どうしようかなぁ~」

「ッ⁉」


 姉様は肩をビクンとさせた。そして若干目をウルウルとさせて見つめてくる。


 この前の件以来、姉様少し自重するようになり、激しいスキンシップなどなどが減り、こんな感じで大人しい感じになっていた。


 この姉様はなんだかいつもとは違い、なんか虐めたくなる。

 私は少し口角を上げながら言った。ちょっと変なスイッチが入ってしまったかもしれない。


「姉様はこの前、騎士団の人たちに迷惑かけたからなぁ~」

「⁉」

「それに姉様は仕事があるだろうしなぁ~」

「⁉」


 姉様は見る見る内に弱弱しい感じへと変わっていった

 その姿は中々見られないもので、普段とのギャップで少し面白い。……だけど流石にこれ以上は良いか。なんだか予想以上に弱弱しくなってるし。なんか可哀そうだし。


「姉様も行きます?」

「⁉ 行く。行く。行く‼ 絶対行く‼」


 姉様は激しく首を振りながら私に抱き着いてきた。


「お金は全部出すからいっぱい食べていいわよ! むしろいっぱい食べて! 食べさせて!」

「あっ、ちょっ! 苦しい。苦しいって。姉様!」


 弱弱しくなった反動か。またまた自重していた反動か。

 姉様は物凄い力で私に抱き着いた。あまりの力で振り解けない。


 って⁉ 体が浮いた⁉


「ちょっ姉様!」


 そして姉様は私を抱きかかえそのまま走り出した。


「うひゃぁぁぁぁぁぁ~~~~~‼⁉」


 そのあまりのスピードに私は思わず叫び声を上げた。

 ビュンビュンと風を切る音が耳へ入ってくる。周りを歩く生徒たちは何だ何だと道を空ける。そこを抱かれた私は突っ切っていく。


「頑張れ~」


 後ろの方からはそんなレオナの声が微かに聞こえてくる。


 頑張れってなんだよ。頑張れって。これをどう頑張れと⁉


「ぎゃぁあああああああ‼‼」


 叫び声が響く。

 絶叫が轟く。


 その音源である私を抱える姉様は本当にうれしそうであった。



 *  *  *



「大丈夫?」

「うぅぅ……だいじょばない」

「あらら」

「眠い。疲れた。寝たい……」


 教室の机に倒れ伏す私。横に座っているレオナは元気そうに授業の準備をしている。


 授業の開始の合図が鳴り響く。

 私は寝不足と若干の疲労を抱え、学校復帰となった。



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