エピローグ
「ぅう……」
目が覚めると知らない天井だった。きれいな白で汚れは一つもない、清潔感を感じさせる天井である。
どうやら今回は姉様の胸に押しつぶされていなかったようだと安堵しつつ、私は天井を眺めていた。
多分あの後私は治療され、ここに運ばれたのだろう。運んだのはレオナ……ではないな。多分違う。先生とか騎士団の人とかそこら辺であろう。
体の痛みはほとんどなく、固定されているような感覚もない。
この前のに比べれば軽かったのか、それとも長い時間寝ていたのか。それとも優秀な回復をかけてもらったのか。どれかはわからないが比較的体の調子は良かった。
そうやって現状把握している私の心の中にはあったのは満足感。満足感が満ち満ちていた。
白装束たちとの戦闘。
のこぎりの人との戦い。
そしてドローガとの戦い。
私の頭の中はもう「幸せ~」という感じで一杯であった。
そしてそう感じると共にこれからももっと鍛錬をしなければと感じていた。
ドローガとの戦い。あれの最後の方は余りにも傷を負い過ぎていたし、それに魔力もなくなっていた。もしほんの少しでも長引けば普通にヤバかった。
反省点はいくらでも出てくる。
もっと攻撃を捌けなければ。
もっと相手の動きを読んでいかないと。
もっと技のキレを良くしなければ。
もっと攻撃の繋げ方を考えなければ。
もっと動きを良くしなければ。
もっと魔力運用を効率よくしなければ。
もっと……。
もっと……。
もっと。
もっと。
そうやって思いにふけながら私は天井を眺めていた。
う~ん。
それにしても知らない天井だな。知らない天井……多分知らない天井だよな。
天井なんてあんま気にしてないので知ってる天井かもしれないけど。……まぁ、もしかしたら学校の保健室かもしれない。保健室に入ったことはあるが、わざわざ天井なんか見たりしてないので見覚えがないのも無理はないし。
そう考えたがすぐに違うと思った。
「……」
なぜなら私はふかふかのベッドに寝ていたからだ。気づくのが遅いというのは言わないで欲しい。ちょっとあまりの満足感でポヤポヤしていたのだ。
まぁ兎に角ベッドだ。今私が寝ているベッド。それはもう本当にふかふか。学校の備品ベッドのような変な硬さなんてない。ふっかふっかで寝心地はかなり気持ちいい。屋敷にある私が寝ているベッドほどではないがかなりいいベッドである。
折角起きたが、このまま二度寝と参ろうと思うほどだ。そんぐらい気持ちいい。
多分まだ疲れが残っているのだろう。
よしっ、もう少し寝よう。
「……?」
だがそうやって眠ろう目を瞑ろうとしたとき、変な匂いが漂ってきた。気分の悪くなるような匂いはない。むしろ何度か嗅いだことのあるような匂いだ。そうこれは何か……絵具のような……。それに何か物音もする。
「ようやく起きたね」
「うん?」
そのとき急に聞こえてきた声に釣られ、体を起こすとレオナがいた。だがそんなことよりも部屋の様子がおかしかった。
私がいたのは病室のような部屋であった。
学校の保健室ではないだろうというのは想像ついていたからそれに関しては特に変でも、おかしくもない。むしろ大怪我を負っていたなら保健室なんかではなく病院に運ばれるのは当たり前だ。
清潔感のある病室。
小さな机にお見舞いしに来た人用の椅子。棚もある。部屋はあまり広すぎず、だけど狭すぎずという広さだ。
なんもおかしくないはずだ。
おかしくないはずなのに、この病室には異常があった。
いくつもいくつも立っているのは絵を描く際、キャンバスを置く木のスタンド……確かイーゼルとかいうやつだ。それにキャンバスが置かれて、いくつも立ち並んでいるのだ。
おかげで十分な面積があるはずの病室は狭くなっている。
そしてレオナはその一つの前に座って筆を動かしていた。その片手には何色かの絵具が並んだパレット。私が嗅いだ匂いはアレだろう。
それにしてもだ。
気づくのが遅かったが、もしかしてレオナって結構アグレッシブにヤバい感じなのかもしれない。
行動力は高く、私のストーキングに戦場であろうと絵を描きながら付いて行く。目の前に死にかけの私がいても絵を描き続ける。病室でこんなに絵を描いている。
うん。ついつい私の絵を描いてくれるとか、戦いの興奮で忘れていたけど。改めて思い出しただけでもヤバくないか……。
そう考えているとレオナは自信満々な笑みを浮かべ立ち上がった。
「ウイが起きたということで早速お披露目です!」
「お披露目?」
「ええ。約束の絵、こちら……いえ。これらになりまーす‼︎」
そう高らかに宣言するとレオナは一つのキャンバスを持って病室内を駆け始めた。
するとレオナが通ったところに置いてあるイーゼルに置かれたキャンバスが私の方を向いていく。キャンバスたちは次々に反転していき、そこに描かれたものが私の目に映ってゆく。
「わあぁ……」
白装束を吹っ飛ばす絵。
囲まれた私がそれを抜けようとする絵。
紙一重でのこぎりを避ける私の絵。
数多の刃を斬ってゆく絵。
二本の刃の上に立ち男と見つめ合う絵。
巨大な刃を受けている絵。
そして男の腹を刀で突いている私の絵。
どれもこれもあのときのことを描いた絵であった。
そしてそのどれもがカッコ良かった。
思わず見惚れるほどに。
自分ではないと思うほどに。
それほどに見事な絵であった。
レオナが言っていたことは嘘偽りなく、最高の絵であった。
「凄い……」
言葉が思わず漏れる。
「でしょでしょ。だけどこんなの序の口。これが最高。これが最強。これが今回の傑作よ!」
そう言ってレオナは自身が持っていたキャンバスを私に見せた。
白い四肢。破れている服から見える肌。そこからは血が流れ、飛び散ってる。傷だらけの姿。そんな痛々しい姿にも関わらず、そこから見て取れるのはカッコいいという感情。きれいだという感情。
楽しんでいる。そんな気持ちが一目でわかるような瞳をして駆けている。
幾つもの刃を避けながら進んでいる。
まるで動いている。走っている。駆けている。絵ではなく動画を見ていると錯覚してしまった。それほどの躍動感がある絵だ。
あまりの出来栄えに私は声が出なかった。
「ウイのおかげでこんな良い絵ができたわ」
「……」
「ありがとうね」
「…………これ……」
「ん?」
「……これ貰っても……?」
「もちろんいいわよ。これだけじゃなくてここにあるの全部あげるわよ。てか最初からウイのために描いたものだしね」
ああもう最高だ。
すっごい最高だ。
こんなにもカッコいい絵になるなんて最高である。私は思わずベッドから飛び上がった。体がちょっとだけ痛かったが気にしない。
「レオナ、本当にありがとう‼︎‼︎ こんなのもう……大興奮の昂りまくりだよ」
「へへへ……そう言ってもらえるなら嬉しいわ。私にとってそういう賛辞は最高の報酬だもの」
「ふへへへ~」
私はレオナから絵を渡されるとそれをマジマジと見た。
本当にすごい。
想像以上。想像の何十倍も上を行く出来栄えである。
自分がモデルだが、絵の中の少女に思わず惚れてしまいそうである。
「どうしたの?」
「……」
だがそうやって見ているうちに私は思った。
まだ足りない。
絵のことではない。
自分自身だ。
この絵は凄い。私が私以上に描かれている。本物以上のカッコよさだ。
だがだからこそ感じる。まだだ。まだ足りない。私はこの絵にはまだまだ足りてない。
いくつも出てきた反省点。
そして最高の出来栄えの絵。
私の力はまだまだ足りていない。そう痛感させられた。
レオナの腕が良いのもあるが、まだ私の剣の腕が未熟なのもある。だからこそ感じた思いであった。
「……レオナ」
「何?」
「また描いてくれる……?」
「そりゃもちろんよ。なんウイは私の画題なんだから。こんなところで手放すなんてしないわ」
「それなら良かった……」
じゃあ次は……。
「次はもっと強く、カッコよく……。レオナが越えられないぐらいの私になって描かせて見せる」
それを聞いたレオナは楽しそうに笑いながら言った。
「それは楽しみ。ええ、なら私はそれをさらに良くして、今回以上の絵に仕上げて見せるわ!」
「なら私はそれ以上」
「それなら私はそれ以上」
「ならなら……私はさらにもっと、それより上」
そうやって私とレオナは医者が怒りの表情を浮かべて突撃してくるまで言い合った。
反省点は多い。
だからこそ私はまだまだ強くなれる。
そうすればもっとカッコよく、理想通りに刀を振るえる。
私は気分よく笑った。
これにて2章終了です。次回から3章に入っていきます。
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