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17話



 走っていると先の方から音が響いてきた。多分音がするところにいるだろうと当たりをつけ、一気に加速していく。

 体は若干重く感じるが問題なし。

 私はどんどん加速し走っていく。

 レオナは後ろから聞こえる足音からして、若干遅れてしまっているが、まぁ大丈夫だろう。


 少し走っていくと木の隙間から人が見えてきた。

 白装束二人と倒れている生徒。白装束の一人の足元からは何か黒いモノが生え、刃のようになり、生徒の方へ襲いかかろうとしていた。普通に絶体絶命という感じだろう。一応助けるかな。


「よいしょっ!」


 私はそう考えると近くの木に体を乗っけ、斜め上に飛び、また木に体を乗っけ、飛んでいく。そして倒れている生徒を飛び越え、その前に立った。

 彼らの前に立つということは刃がすぐに襲いかかってくるということ。


 刃が何本も意思を持っているかのように動きながら迫ってくる。

 私は着地した瞬間動き出した。

 数が多いから手数で斬り伏せるよりは、一撃で。一撃で全部斬り伏せた方が効率が良い。

 体を屈め、刃の下から斬り上げていく。


 刃と刀が接触した瞬間、黒い刃の硬さが伝わって来た。思ったよりも硬い。私は込める魔力を瞬間的に増やし、急加速。


「はあ!」


 キンっ‼


 その音――何か硬いものを斬るような音が鳴った瞬間、私の刀は黒い刃たちを一閃していた。斬られた刃たちはまるで存在していなかったのように消えていく。

 私は追撃を警戒するが、それはなく刃の根本たちが引いていった。

 刃は白装束の男の影の所へと消えていく。その男は右腕があるべきところは袖が崩れ、何もないことが示されていた。

 男が剣で戦ったりする感じであれば片腕というのはハンデであるが、さっきの感じからして男の主戦武器は魔法。見た通りの影を使った魔法だろう。間合いは中距離、遠距離どっちも可。近距離もできるだろうが、それよりは中、遠距離の方が有利だ。それを簡単には捨てないだろう。

 そうなると間合いとしては私の方が不利。

 さっきみたいな刃を避けつつ、私の間合いに持っていく。まずはそこからだな。


 あとは男の体つきは普通に良いし、そこからのフィジカルとかに警戒。


 うん。強そうだな。

 その男は強者という感じの雰囲気を纏っており、感覚としては私をボコボコにしたあの大柄な男を想起させる。

 多分あの男がのこぎりの奴が言っていたドローガという奴だろう。


 私は目線を男の後ろへ移した。

 男の後ろには白装束に全身を包み、性別も何もわからない奴がいた。そいつに関しては見た感じ武器を持っていないことから魔法が武器と予想。暗器とかも使ってきそうだが、はっきり言って可能性を考え出したらキリがない。

 行動の一手一手を警戒した方が良いか……。


「黒髪……?」


 そこまで思考をしているとそんな声が私の耳に入ってきた。

 何か面倒くさそうな人の声だ。

 私は気のせいだと決めつけ、声の方は振り向かない。


「お、おい黒髪。なぜ貴様がここにいるんだ!」


 あーこれ第一王子だ……。アロガンスだ……。そういえばあののこぎり、途中で話を遮っちゃったけどなんか第一王子をころすとか言ってたな。普通に聞き流していた。

 なんだか一気にテンションが下がってきた。


 私は昂ぶりが微妙に下方向になるのを感じながら後ろを向いた。

 そこにはフェルゼンとビエンフーを抱えている第一王子アロガンスがいた。面倒三の体は怪我だらけで血や泥をこれでもかというほど付けていた。フェルゼンとビエンフーの方は意識がなく、瞼を閉じていた。


「なぜって、戦うためですよ」

「戦う? まさか俺のためか……? ふざけるな! 俺はアマツカエ家になんか守られてたまるか!」


 あー、煩いめんどくさい。だからコイツは嫌なんだよなー。


「あ~そういうのじゃないですから。ただただ私の個人的趣味ですので、どうぞ殿下は気にせず逃げてください。……はっきり言って邪魔ですので」

「そ、そうはいかん。私はこの二人の仇をっ……」

「その傷で?」


 私はそう言って立ち上がろうとしたアロガンスを軽く押さえつけた。それだけでアロガンスは立ち上がれず、地面に座り込んだ。

 はっきり言って普通に戦えるような状態ではない。さっきまで逃げることができず、あと少しで刃で斬殺か串刺しにされそうになっていたのだ。そんなんで戦うとか……無理だろ。てか私の楽しみの邪魔である。さっさとどっか行って欲しい。


「さっきも言いましたがこれは個人の趣味です。その邪魔をするというのは勘弁してくださいというヤツです」

「なっ⁉」


 アロガンスは何か衝撃を受けたかのような表情でそう言葉を漏らした。


「ではではバイナラですよ」


 私はそう言って正面を向いた。

 白装束二人は律義に何もせずに待ってくれていた。


「なぜ邪魔をする」

「はぁ?」


 私が刀を構えようとすると推定ドローガがそう言ってきた。その言葉に思わずそんな間抜けな感じの声が漏れてしまった。


「アマツカエ・ウイ。貴様は俺たちの殺害対象とはなっていない。にもかかわらずなぜ邪魔する。そいつを守るためか? それとも学校襲撃の餌にされた腹いせか?」

「……」

「どうしてだ?」

「…………はぁ~」


 ため息が零れた。

 また言うのか。さっきそこのアロガンスに話していただろう。それが聞こえていなかったのかよ。本当にめんどくさい。

 確かに戦いの前の対話とかは必要だったりするかもしれないが、これは別に要らんだろう。さっき言っていたんだからそれで察しろよ。

 うん。やっぱアロガンスがいるせいでテンションがヤバくなってる。

 これでは駄目だ。


 ひっひっふ~。

 ひっひっふ~。

 ひっひっふ~……。

 ……。

 ……。


 よし、落ち着いた。

 意識は目の前の敵にのみ。

 これから始まる戦いにのみ。


「さっきもそこで倒れているのに言いましたけど、個人的趣味ですよ」

「個人的趣味?」

「はい。

 私、雨の中でカッコよく戦いたいんです。きれいに、美しく、カッコよく。姉様みたいに戦いたいんです。強い人と。……そして今ここに強~い奴がいるってのこぎりの人が教えてくれたんですよ」

「のこぎり……? ドントか……クソっ、あの野郎」


 ドローガは腹立たしそうにそう吐き捨てた。

 私はそれを気にせず言葉を続けていく。


「……まぁそういう訳でここに来たんですよ。別に邪魔する気はないですよ。王子殺害」

「なっ、黒髪貴様‼」


 後ろからは何も聞こえない。まだいたのかよとか思わない。何も聞こえない。何もいない。聞こえな~い。いな~い。


「? ……ならさっさとそこをどけ」

「良いですよ。ただし私と戦ってからです」

「はぁ?」


 ドローガは意味が分からないという表情になった。

 う~ん、何故だろう。わかりやすく話したはずなのだが。


「わかってなさそうなのでもう一度言いますね。

 私は強い人と戦いたいんです。そしてここに強そうな人。OK?」

「……」

「別に王子を殺害すること。それはどうでも良いんです。どうぞお好きに。ただしその前に私と戦ってください。そうしてくれたら王子殺害は好きなだけどうぞ」


 真っ当な理論だとは思うんだが。

 私はドローガと戦いたい。

 ドローガたちはアロガンスを殺したい。

 ただしドローガたちはアロガンスを殺せば、すぐに逃げるだろう。そうなると戦うタイミングはここ。今しかない。それに私と戦わなければ、アロガンスを殺せないとなれば、しっかりと戦ってくれるだろう。私が全力で立ちふさがれば、それはもう全力で。

 完璧だ。

 矛盾なんてない真っ当な理論である。


「チッ……戦闘狂の類か……」

「別に戦闘狂ではないんですけど……」


 私はそう言いながら今度こそ刀を構えた。


 雨は冷たく降り注ぐ。

 私たちの体に降り注ぐ。

 だが私の体温は下がらず、むしろ上がる。

 魔法による効果だけではない。

 私の心の昂りだ。

 昂りが体を熱くしている。


 最高のベストシチュエーションである。


 雨×刀×強い敵。


 ニヤニヤが止まらない。


 ドローガはそれを見て鬱陶しそうにしていた。


「トート、騎士団は?」

「マダダ。ダガアマリヨユウハナイダロウ……」


 なんだ今の不思議な声。ドローガの後ろの正体不明の奴から男とも女とも言えない、なんだか不思議な声が聞こえてきた。


「分かった」


 ドローガの魔力が高まっていく。それに伴って私の興奮はどんどん上がっていった。


「……そんなに死にたいなら、殺してやるよ」

「良いですね~。やれるもんなら、やってみろですよ」



 戦いの火蓋が今――落とされた。



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