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16話



 刀が振られる。

 その直前、


「あ~! 降参! もう何もしねぇから!」


 そう言って男は残った左手を高く挙げ、降参のポーズを取った。

 私の刃はギリギリのところで止まっていた。あと少しで男を斬る、そういうレベルであった。


「はぁ……?」


 私は最初男が何を言っているのかが分からず、思考停止、そしてその後理解した。

 理解するにつれ、私の熱が冷めてゆく。雨に打たれ、冷えてゆく。


「降参?」

「ああ……降参だ、降参。俺はもう何もしねぇから、命を取るのは勘弁してくれ! なにせ命あっての人生だ。なぁ、頼む」


 う~ん何か急に普通の人っぽいことを話しているが、よく考えてみると多分コイツ普通に何人も人殺してそうなんだよな~。そんな奴が命を取るなって……スゲェ自分勝手じゃないか。他の人の命を奪ったりしたんだ、それなら自分の命を奪われることぐらい覚悟済みだろう……。


 私は燃えに燃えていた心の炎が消えていくのを感じながらそう思っていた。


 そして目の前で降参と言って左手を挙げる男を見下ろした。

 その姿からは私を殺そうとするような雰囲気はなく、ただただ命を助かりたい……そういう心が見て取れた。


「大人しく捕まるから、なぁ?」

「……」

「何なら今回の襲撃の理由とか全部話すからさ」

「……」


 私は男から目を離し、レオナの方を見た。レオナはいつの間にか校舎の中に入って絵を描いていた。レオナがいつも常備している絵具を使いながら、キャンバスに描いたものに色を付けているようであった。そのためこっちで起きていることよりも、絵に集中しており、こっちで起きていることには一切気づいていない。


 私は再び男の方へ目線を戻した。

 男は相変わらず命乞いをしている。

 どうするかな~……。何か情報を話すって言っているけど、別に私はそんなのいらないし。てか中途半端な感じで戦いが止められたせいで何だか萎えてきたしなぁ。殺す必要はないかもだけど、生かす必要も私にはないしなぁ

 ん~。やっぱり斬るか。


 そう結論付けた私は男を斬る直前で停止していた刀を振り上げた。すると男の目の色が変わる。口調が早くなっていく。


「まっ、待て、待て、待ってくれ。何でも話す、抵抗もしない。だから頼む待ってくれ。

 そうだ! お前は戦いたいんだろう。強い奴と! なら良い感じの強い奴が今この学校襲撃をしているんだ。そいつのことを教えるから!」

「!」


 強いヤツ……?

 強い奴がいる。


「それってあなたより強いですか?」

「あぁ! ああ! 強いぞ、すごく強い。だからっ!」

「へ~え……」


 冷めていっていた体温が再び上昇していく。体温調整の魔法を床っていないにもかかわらず、体は火照り、熱くなっていく。

 消えかかっていた炎は再点火、心は少しずつ燃え上がり始めた。


 別に私がこの男を殺す理由はないし。なら生かしておいても別に問題ないだろう。しっかりと縄で縛ったりして拘束し解けばそれで捕縛は完了であるし。


「その人はどこに?」


 その言葉は無意識にいつの間にか零れていた。


「ここから先に言ったところの木が生い茂っている林の中。そこにドローガていう俺たちのリーダーが第一王子を殺すために」

「そういうのは良いですから。ひとまずあっちの林にいるんですね」

「あぁ……いる」

「嘘じゃないですよね」

「う、嘘じゃねぇ。本当だ、本当のことだ!」

「なるほど、なるほど……」


 私はニヤニヤと笑みを浮かべた。

 もうすでにさっきまでの戦いのことなど眼中になく、そのドローガとかいう奴と戦うことで頭は一杯になっていた。


「リーダーの戦い方は」

「あっ、それは教えなくても良いです。それじゃあフェアじゃないですから」

「そ、そうか」


 私は刀を納め、周りを見わたした。周りにあるのは木に、校舎。地面には雨に濡れた葉っぱたち。男を拘束できそうなものが全くない。


「レオナー!」

「んっ? 何~!」


 私の呼び声にレオナは珍しくすぐに反応を返した。


「この男を拘束したいんだけど、何か縄とかない?」

「縄? うーん……ああ、多分あるわよ。ちょっと待ってね」


 そう言うとレオナは筆を置き、近くの教室に入っていった。そしてすぐに出て切るとその手には縄が抱えられたいた。

 そして縄を持って窓に近づくと、それを思いっきり私の方へ投げてきた。

 私はそれをキャッチ。すぐに男を拘束して、適当に転がしておいた。その際、何か仕掛けてくることもなく、逆に恐ろしくなるほどに無抵抗であった。それほど死にたくはなかったということなのだろうか。……それならそもそもこんなことはしなければいいのにと思いつつ、私は立ち上がった。


「レオナ」

「今度は何~?」

「私、これからあっちの方に行くけど、レオナも行く?」

「もちろん行くわよ」


 そう言うとレオナは描いていたキャンバスを大事そうに抱えながら、窓を越えて校舎から出てきた。


「雨降ってるけど、絵の方は大丈夫なの?」

「ええ大丈夫。問題ないわ。しっかりと魔法をかけたもの」

「そう。それならよかった」


 折角描いた絵が雨でぐちゃぐちゃになったりしたらどうしようかと思った。


「ではでは、次なる敵ドローガに向かって出発だ!」

「おぉ!」


 そう言って私とレオナは走り出した。

 雨は少し弱くなり始めていた。



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