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6話



 さて、私をつけていたレオナ・ビンチを確保。

 なんやかんやあって私の絵を描いてもらうことになって5日が経った。


 あれからレオナは隠れてつけていたのを止め、隠すこともなく私の背後にいるという感じになった。なんでも私の自然な姿を観察したいからだそうだ。

 少しむず痒いような感覚ではあったが、それで最高の絵ができるなら問題はない。

 むしろウェルカムである。

 

 またそれにともなって私の生活自体は特に大きな変化はなかった。

 朝起きて、カーテンを開けるとすでにスタンバっていたレオナが寝起きの私を描いている。そしてそこから朝鍛錬、朝食、学校に向かうまでずっと後ろについて、描き続ける。

 授業中などは流石にずっと後ろにいるなんてのは無理なので、そこは少し休憩。

 休憩時間なども朝と同じように、描き続ける。

 放課後や休日は美術室に二人で籠って色々なポーズを描いている。

 生活にレオナが加わった。そんな感じの生活をしている。


 ただしこうなってから話しかけられることがまた減ってしまった。確かにいつもレオナが背後にいて少し変ではあるが、別に不審者というほどではない。なぜそんな変なものを見たかのような顔をして避けていくのか。本当に疑問である。



 *  *  *



 美術室は何個かの大机と椅子。前の方には大きな黒板が設置されている。絵具などの特有の不思議な匂いが漂っており、この教室が苦手な人もいる。

 脇にはそんな匂いの元である、多くの画材が用意されており、生徒は自由に使うことができる。レオナはそこから何十枚もの紙を貰って、私を描いていた。


「こんなのはどう?」

「良いよ。良いよ。それもいい感じ!」


 私は今まで鏡の前でやっていたポーズをとっていく。


 刀を構え、抜刀の体勢。

 刀を抜いて下段に構える。

 斬り上げて――途中で一時停止。

 突きを繰り出して――一時停止。

 自分の記憶に微かに残っている前世で見た刀を振るう女性キャラクターたちのポーズ。

 カッコいい感じのもの。

 かわいい感じのもの。

 妖艶な感じのもの。

 次々にポーズをとっていく。


 それをレオナは高速で描き上げていく。出来上がったものがどんどん積み重ねられていく。その枚数はすでに100を超えていた。

 そのスピードはさることながら、その完成ぐあい。それもすごいものばかりであった。

 手を抜かれているものは一切なく、どれも色が塗られていないことを除けば完璧と言っていいものばかり。


 それを見るたびに私もどんどん調子よくなっていく。

 レオナもどんどん調子よく描いていく。


「あっ、そうだ。ウイ、ウイ。こんなポーズはどう?」

「それ良いね」

「やっぱり!」

「じゃあ今度はそれ」


 レオナもポーズの指示を出しながら、描いていく。

 私たちは仲良く、二人して大興奮状態で楽しんでいた。



 そうやって生活しているある日。

 休憩時間中、廊下を歩いているとあの面倒三がやって来た。

 アロガンスは私に手も足も出なかった心の傷から完全復活した様子であった。

 いつものように自信満々な表情でズカズカと接近してくる。だが急に私の背後で何か恐ろしいものを見たかのように表情を変えた。


「どうしたんですか、アロガンス様?」


 私が一応そう言ったが反応しない。

 アロガンスの後ろにいるフェルゼンも同じような表情になって私の後ろを指さしている。ビエンフーの方はいつも通りであるが、その目は私の後ろを見ていた。

 いったいどうしたのか。


「?」


 そう思っているとようやくアロガンスが口を開いた。


「き、貴様……黒髪、その後ろのはなんだ」


 その声には若干の震えがあった。


「後ろ?」


 私は声に釣られて自分の後ろを見た。そこには特に異常はない。レオナがいるだけだ。

 いつも通り一心不乱に私をスケッチしている。口からはかなり熱そうな息を荒く吐いていた。

 今描いているのは私のうなじみたいだ。相変わらずの画力で、少しエロさも感じる。


「レオナが私をスケッチしているだけですね。それがどうしたんですか?」

「それがって……」

「良い絵ですよ」

「……貴様に言うのはなんだが、友人というものは考えた方が良いぞ」

「そ、そうですよ! アロガンス様の言う通りです。そんな変な奴……」


 何やらいつもの私に敵対的な様子から一変、私を心配する様子でそう言いった。


「そ、そうそうぅ~」


 特に変わった様子がなかったビエンフーは震えた声で頷きながらそう言った。


 私は面倒三の態度の急変に思わず、


「えっ、なんか変なモノ食べました?」


 そう零した。


「何だと貴様!」

「アロガンス様になんてことを!」


 態度は戻り、憤慨しだした。

 どうやらいつも通りである。特に変なモノを拾い食いしたわけではなかったみたいだ。


 私は面倒三の声を聞き流しながら、もう一度レオナの方を見た。

 う~ん、いつも通りである。確かに少しだけ変ではあるが、私も興奮したときはこんぐらいなったりするし……別に普通である。


「別に不気味でないですね」

「はあ? なにいっ「ふぅうっ!」!ビックリした。急に叫ぶな貴様!」

「?」

「何だその顔。なんでそんな疑問そうな顔をするんだ!」


 いつも通りスケッチが完成したことで声を上げたレオナにアロガンスがそう叫ぶ。


「それに黒髪、貴様もだ!」


 急に叫んだアロガンスに首を傾けていたら、私にも叫んできた。

 何をそんな叫んでいるんだ?

 興奮して叫んだりしてしまうことは普通のことだろう。


「何なんだ貴様ら……」

「なんだって……アロガンス様こそ何だですよ。いつも何だではありますが」

「何でそんな変なのが後ろにいて普通にしてるのだ!」

「……だからレオナは変ではないですよ」

「なっ! ……やっぱりアマツカエは禄でもない! 父に直談判して今度こそ理解してもらわねば!」

「そうですよ、アロガンス様!」

「ですね~ですね~」


 勝手に何か納得したのか、面倒三たちはその場から立ち去っていった。

 本当に何だったんだ。面倒にも絡んできたかと思えば、勝手に何か納得、そのまま去っていく。

 私とレオナは顔を合わせ、二人して首を傾けた。


 なおそのときもレオナの手は新しい紙に私のスケッチをしていた。



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