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18話



 三校祭会場の中では警備の者が見回りをしたり、デュアリの火球による影響、舞台上の大きな破損がないかなどの確認。そしてなにより、舞台に貼られていたはずの結界が別のモノに置き換わっていた原因の調査を行っていた。


 一方の観客たちは混乱がやっとのこと治まり、ひとまず三校祭1日目はアクシデントによって強制終了となり、不満を漏らしたりしていたが、すぐに帰ったり、近くの店に行って飲み食いをし始めていた。

 その風景はとても先ほどまで危険なことが起きていたとは思えないほど平穏そのものであった。

 そんな風なのは人々にとってはさっき起きたことは何処か他人事な感覚であるからだろうか……。

 誰も彼もが特に大事に考えず、食事の肴にしていた。


 そんな風景の隣。


 ある料亭の中に三人の客がいた。


 その料亭はよく密会などに使われるため部屋の防音設備はかなりのものであった。


「おい、どうなっている!」


 そしてそんな部屋で怒鳴り込むような声が響いた。もしここが防音ではなかったら、その声は部屋を飛び出し、料亭さえも飛び出して響いていただろう。


 それに対して怒鳴られた二人は特に大きな反応を返すことなく悠々としている。いや一人に関してはその全身を外套で覆っているため、実際はどんな反応をしていたのかは定かではない。


「どうなっている。とは?」


 外套に身を包んでいないほう――長身の男が酒を飲みながらそう言葉を返した。

 すると怒鳴っていた若い男は顔を真っ赤にして机を叩きつけた。


「惚けるな‼ 俺は始末するように依頼したはずだろ‼ なのになんで生きているんだ‼」

「なんでと言われてもなぁ――」


 男の声が二つ響く。片方の声は非常に焦っており、もう一方は逆にひどく落ち着いていた。


「それを聞きたいのは俺のほうだ」

「⁉」

「なんだアレは? なぜ結界を切り裂いているんだ? 魔法を切り裂き、霧散させているんだ? あんな力を持っているとは俺は知らなかったぞ。あぁッ?」


 長身の男は穏やかそうな声――だがその内心は相当腹が立っている様子でそう話しながらいつもの癖で魔法を使える体勢になっていた。

 それを見た若い男は肌に鳥肌を立てながら思わず後ずさりをしていた。


「そ、それは、俺も知らなかったんだ‼ し、知ってたらちゃんと伝えていた‼」

「ふん。貴様の無知で俺の計画は失敗したというわけか」

「まっ、待て! 待ってくれ! 頼むからその手はやめてくれ!」


 男は手を振り上げながら制止を聞かず歩いていく。その歩みは非常にゆったりとしたものである。簡単に逃げることはできる。だが若い男の体は見えない何かに拘束されたように動くとができず、それ以上下がることはできなかった。


「なぁに。別に死ぬわけではない。ただ痛みを感じるだけだ」

「や、やめッ」


 そして男が腕を振り下ろそうとした瞬間、その腕を止めるように光が走った。


「……」

「ソコマデニシトケ」

「はぁ? 誰に指図をしてんだ。トート」

「イライヌシダゾ。ムダナコトヲシテヤリスギテ、ホウシュウガナクナルノハカンベンダゾ」

「チィッ……確かに。そりゃそうか」


 男――エヴィルはため息を吐きながら若い男から離れていった。


「はぁ……全くこの世は使えん奴だらけだ」

「――ッ」


 その言葉に若い男が苦汁を飲むかのような表情を浮かべていたが、それに気づいていたのはトートだけであった。


「まぁ良い。計画になにか大きな影響があるわけではない」

「サンコウサイハヨテイドオリススムンダナ?」

「えっ、えっと、なんて?」

「あぁ。トートお前は黙ってろ。ただでさえ気色悪くて聞き取りにくいんだから」

「……」


 トートは箸と漬物を外套の中へ入れて黙り込んだ。


「三校祭は予定通り進むのか? さっさと答えろ」

「あ、ああ。それについては問題なく進むはずだ。ただ、2回戦の結果については少々保留になる」

「その程度なら問題ない」


 パリッパリッと漬物を噛む音が響く。


「決行は予定通り4日目」

「全てを壊す」


 パリッ。



 *  *  *



 突然だけど医務室とかのベッドって気持ち良いよね。

 具合が悪かったり、大けがをしたりした人のために、負担をできるだけ感じさせないようにフカフカで、しかし柔らかすぎない。シーツとかも衛生管理のためにかなりきれいだし。下手したら私の寮での部屋のベッドよりも気持ち良いかもしれない。


 まぁ余談はここまでにして、と。


 私は現在会場内に備え付けられた医務室で寝ている。

 別に怪我とかは特に酷いものはないのだが、一応念のためだ。


 いや~にしてもさっきは本当に凄かった&訳がわからなかった。

 突然デュアリの体から黒い靄が出てきたかと思ったらなんかデッカイ火球を生み出すし。しかもそれを私というか会場を巻き込んで放とうとするし。

 ……。

 ……。

 うん。本当こうやって冷静になって見るとより一層わけがわからない。

 昨日の段階からちょっと変な人だとは思ってはいたけど流石にさっきのは可笑しいとかのレベルではない。豹変ぶりが本当に凄かった。


「そんなわけなんですが何か一言ありますか?」


 私はそう言いながら正面のベッドに寝るデュアリに声をかけた。


「……」

「さっきはまさに暴走状態って感じでしたよね。一体全体何があったんですか?」

「……」

「あの~ずっと黙ってないで教えてくださいよ~」

「……」

「あの~」

「……」

「……はぁ」


 こんな感じでさっきから私の言葉に何も返さず頭を抱えて固まっていた。


「いい加減何か言ってくださいよ」

「……本当にすみません」

「うん?」

「先ほどのことは、全く覚えていないのです……試合の途中から意識がなくなって……自分でも何が何だか……」


 デュアリはゆっくりと顔を上げながらそう言った。その顔は真っ青であり、とても昨日私にとてもムカつく発言をしたデュアリと同一人物には見えなかった。

 何か自分の中での絶対的な価値観が壊れてしまい、迷子になっているような、そんな表情であった。


「善悪を測るなんて偉そうに言っておきながらこんな醜態を晒すなんて……。私は悪です。極悪な人間です……」


 その言葉はとても弱弱しかった。

 力強さん欠片もなく、その瞳には獰猛さなんて一切感じない。


「ウイさん。昨晩の発言を訂正させてください……。私は貴方を、貴方の家を悪と言いました。ですが、新に悪だったのは私でした。自分の行動も思考も、なにも制御できなかった愚かな私。私こそが悪でした」


 言葉をポツポツと懺悔するかのように漏らしていく。


 ……。

 ……。

 う~ん。長い。


「はぁ……だから何ですか?」


 私はデュアリにそう言葉を返した。そのときの表情は多分傍から見たらすごく詰まんなそうなものだろう。


「えっ」

「いや、だから何ですか? そんな悪とかなんとか話されても私にはさっぱりですから。私が知りたいのは何があったのか。そしてそれがわからないなら……まぁそこら辺は騎士団の人たちにお任せです」

「いやっ、そうではなく」

「そうでなくでもこうでもなくでもないですよ。

 何? あなたは私にどうして欲しいんですか? もしかして悪って言って欲しいんですか?」


 私は内心呆れかえりながら言葉を続けていった。


「もしそんな考えなら他を当たってください。

私は自分の夢が一番大事で、一番大切です。さっきだってあなたの暴走に対して思ってたのは『楽しい』ですから。そんな風に思う人が善ですか?」

「それは……」

「私は悪と思いますよ~。だけど私は別に悪ではない」


 はっきり言って善だとか悪だとかどうでも良い。


 例えば人を殺す。それは多分一般的には悪だろう。だがその背景。そこへ至った背景を考えた場合、その行為が悪から善へと簡単にひっくり返ってしまう。

 しかしそんな簡単にひっくり返ってしまうようなモノ、そんなもので世界を定義できて良いのだろうか。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……。

 答えはどちらでも良い。


 できても、できなくてもどちらでも良い。


 だってそれは私にとってはどうでも良いことだから。


「昨日は頭に血が昇って言えなかったんですけど、私にとってはどうでも良いんですよ」


 善か悪か。


 自分という存在がどんなものなのかも。


 他人にどう思われているなんてのも。


 全部全部どうだっていい。


「そんなものは全部道に落ちている小石ですよ。小石、小石」

「……」

「私にとって一番大事なのは夢だけ。だから心の底からあなたの善悪なんてどうでも良いんですよ。あなたが私や私の家を悪と言おうがどうでも良い」


 まぁちょっとはムカつくけど。


「だから私はあなたを悪だとか、善だよとか言いません。それを決めるのはあなたのほうで勝手にやってて下さい」

「私は……」


 私は好き勝手にそう話し終えるとベッドの上に腕を伸ばしながら寝転んだ。体の疲れが全てベッドに沈んでいくようで気持ちが良かった。


「私は……善……で……」

「そう思うならそれで良いんじゃないの?」

「だけど悪でもあった……」

「そりゃ人間だから。ブレたりするでしょ」


 私だって夢のために走って、脇目を振らずに走ると考えているのに、夢とは関係ないことだってするし、考える。どうでも良いことと考えても、ムカつくことはムカつく。

 だって人間だから。

 考えがブレたりするのは当たり前だ。


「あなたはどっちで在りたいの?」

「どっちで……在りたい?」

「善か、悪か? どっち?」

「私は……善で……あり、たい……悪を、消し去りたい……」

「ならそれで良いんじゃないの。人に迷惑をかけないようにその在り方であれば」


 私は面倒な絡みはするなよ、昨日みたいなことはするなよと遠回しに言いながらそう話した。


「……あの」

「うん?」

「私に何が起きたかについて、なんですが……」

「うんうん。なになに~?」


 私はベッドに沈めていた体を起き上がらせた。


「関係があるかは、分からないんですけど……ウイさんは試合前控室で飴を舐めましたか?」

「飴? なんでです?」

「私の控室には飴が置いてあったのです。それを舐めてから……何だか頭が少しボーっとしてたような」

「へぇ~」


 飴。飴ねぇ~。


「よっこいしょ。うん、ありがとうございます」

「いえ……私の方こそありがとうございます……」

「ニヒッ。そう思うなら今度はちゃんと最後までやりましょうね」


 私はそう言いながら医務室を出ていった。去り際入れ替わりで姉様が騎士団の人を連れながらやって来た。

 多分これから事情聴取なのだろう。まぁあの感じだとデュアリ自身に何か害意があったわけではなく、むしろ仕組まれたという感じなので捕まるとかはないだろう。



「あ。ウイ~」

「おっ。レオナ~」


 会場を出ると出入り口の所にレオナがいた。その傍らにはキャンバスが置かれていた。


「それ今日描いたヤツ?」

「うん。そうよ。今回もなかなかの出来栄えよ~」

「へぇ~そりゃ楽しみだぁ~」


 私は心躍らせてそう話しながら辺りを見渡した。


「そう言えばティミッドは?」

「うん? なんか知り合いがいたからって言ってどっか行っちゃった」

「知り合い?」

「うん。そう言ってわよ」


 私とレオナはティミッドが戻ってきてから旅館の方へ戻ることにした。











 だがティミッドがそこに戻ってくくることはなかった。



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