エピローグ
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もう一人の少女は大の字になって空を眺めていた。
ほんのりと地上のヴェールに覆われた夜空は一等星だって目を凝らさないと見ることができない。けれど、この街でそんなことを気にするのはその少女ぐらいだろう。
なぜなら、空から見下ろせば地球で最も美しいであろう地上の星がそこかしこに溢れているのだから。事実、彼女が今いるヘリポートにはため息が出るような夜景が広がっていた。
企業のマークとミュージカルのタイトルを飾り立てるネオンと液晶ビジョンが光の河ならば、屹立する摩天楼は光の森といったところだろうか。
少女は闇に手を伸ばす。
この二年で少女はその小さな手に何もかも掴み取っていた。
だから―――、もういいと思うのだ。
少女が目を瞑りかけたとき、懐のスマホが震えた。画面を見ると家族以外ではただ一人連絡先を登録している友人からだった。いつも通り愛想のない文面とともに写真が一枚添付されている。それは日本のアニメキャラを模した像だった。美術的には価値がないに等しい、高校生が作った平凡なプラスチック人形。
しかし、少女は笑っていた。
どんな著名な同業者の作品にもピクリとも反応しないその顔が。
数時間後、「音谷しの」の公式インスタグラムは短い文章で芸術活動の停止を告げていた。
―――NEXT GIRL MEETS GIRL TOO




