28話 ざ・れんだー・おぶ・べーるす
しかし、次の1撃が放たれることはなかった。
それどころか、和樹は足をふらつかせ、今にも倒れそうになってしまった。
『代償か。幕引きはあっけなかったな』
アイホートはそう言うと、同じように足を地面に叩きつける。それと同時に、和樹が吹き飛ばされる。
「ご主人様!」
『可哀想になぁ。貴様が私に逆らわなければ、お前の主人は余計に力を使わずで済んだのに。そうなれば、結果は変わっていただろう。時間を巻き戻すのは、今のやつではあまりにも力を使いすぎる。貴様を助けるためにわざわざ時間を戻すとは、人間とは本当に愚かだ』
「その意見に関しては同意だね。でも、お前は大事なことを見落としているようだ」
今までどこかで身を隠していた勝仁が突然現れ、そう言い放つ。
『私が見落としているだと?それは貴様がやっていた儀式のことか?』
「そうだ」
『笑わせてくれる。貴様が行っていた儀式魔術がどのようなものかは知らんが、すでに勝敗は決している。貴様も大人しく逃げておけば死なずに済んだのにな』
「勝敗は決しているね…これを見てもそれが言えるもんなら、言ってみろ」
勝仁は金属でできた模型のようなものを投げつける。
それと同時に勝仁は優花を担ぎ上げた。
「え?あの、ちょっと…」
「大丈夫だ、問題ない」
勝仁はドヤ顔でそういうと、優花を和樹がいる場所目掛けて投げつけた。
突然優花が飛んできて驚く和樹だったが、自分の肉体の時間を巻き戻し、万全の状態でキャッチする。
「和樹、全力で逃げろ。頑張って町の外まで出るんだ」
和樹の隣にはいつのまにか勝仁がおり、そう言葉を残すと、すっと消えてしまった。
訳がわからず、混乱している和樹だったが、次の瞬間、すべてを理解する。
アイホートがいる場所に何かが現れたのだ。
そして、それからはとてつもない力を感じた。それも、旧支配者を遥かに圧倒する力を。
それは目では認識できないような複雑な形をしており、灰色の棒状の物質はひかる球体と結合している。また、それら全ての棒状の物質は平らな塊につかながっており、棒と棒の間からは何かの目がこちらを覗き込んでいるように感じる。
さらに、それはどんどん膨張し、自身を巨大化しているようで、ありとあらゆるものがそれに飲み込まれていく。
あたりの建物は全てそれに巻き込まれ、どこかに消えていく。
時間、空間を超越しているように思えるそれは、巻き込まれれば最後、生きて帰れるようには思えなかった。
「…これ、やばくね?」
「かなりやばいと思います」
「逃げるか」
「そうですね」
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少し前、突如として訪れた地震に、ギルドは騒然としていた。
「おい、何が起きた?」
「やつが出たんだ!2年前、北区を破壊し尽くした厄災が!」
「場所は?」
「すぐそこの通りだ」
「奴に関してはBランク以上の冒険者で対処に当たる。C・D・Eランクは避難場所の確保、生存者の確認を任せる」
2年前、同じようなことが町の北区で起きたため、迅速な対応をとれたが、もし本当にアイホートが現れたのであれば、正直お手上げだった。
ギルドの建物は耐震工事をしていたため、崩壊こそしていないが、民家は先ほどの揺れで崩壊しているだろう。
外に出てみると案の定建物は崩壊しており、道を破壊して遺跡の一部がむき出しになっていた。
あたりを確認すると、禍々しい見た目の神がそこにはいた。
私がギルマスになって2年。2年前に見た時よりも、魔力の圧が強くなっているように感じる。
しかし、そうも言ってられる状態ではないようだ。私は覚悟を決め剣を構える。そして、全ての魔力を込める。
2年前、奴が突然現れた時にはその強い再生能力と門を自在に操る力に翻弄されたが、その時の過ちを2度と繰り返さないために、この2年間に編み出した奥義。技の仕組みはシンプルで、魔力を斬撃型に変形させ飛ばすというものだ。全ての魔力を消費する代わりに、絶大な威力を持っており、家すら真っ二つにできる貫通力もある。
名前などは付けていないが、この奥義を使って奴をしとめる。
奴に狙いを定めて、斬撃を放つ。
完全にとらえた!もはや奴は終わりだ。そう思った瞬間、斬撃は何者かにより相殺された。
「困るんですよ。そういうことされちゃね」
どこからか声が聞こえてくる。
「誰だ」
「誰だとは酷いですね〜。私ですよ。ほらギルドの受付で働いているじゃないですか〜」
その声は私の背後から突如として聞こえだす。
それとともにこの世のものとは思えない恐怖に襲われる。その恐怖はアイホートを遥かに凌駕する。いや、そんなちゃちなものではない。
これはまさに混沌という概念を具現化したような感じに近い。
叫び出したいその気持ちを必死に抑える。
「もしお前がギルドの受付だったとして、ギルドの役員がなぜ私の邪魔をする?」
「決まってるじゃないですか〜。あなたがアイホートを倒そうとしたからですよ。あなたがさっき放った斬撃はかなりのものだった。いくら弱体化してるとはいえ、アイホートに致命傷を入れることができただろう。でも、そうなっては困るんですよ〜。私がせっかく頑張って用意したんだから〜。ちゃんとした人に倒してほしいんです〜。おっと、少し喋りすぎてしまいましたね。まあいいでしょう。それじゃあ、しばらく眠っておいてくださいね〜」
何者かの声が聞こえなくなると、途端に強烈な眠気に襲われたのだった。




