夢。勝ちに行く、F1解説者。
ああ、今日も、残業かぁ。家に着くと、母さんと英明の大声がした。何かあったのか。二階へ、上がる。すると、英明がイタリア国旗を持ち、イタリア国歌を叫ぶように口ずさんでいた。
「父さん、英明が」
「母さん、ここは、男同士の話を英明とさせてくれないか。大丈夫だから。うん。母さんは下へ行っときなさい」
すると、英明はイタリア国旗を床に置き、下を向いた。
「はっはっ、はっ、は。英明、お前も、もう、中学三年生だもんな。こんなことをする歳になってたのか。やれ、どんなものを見て、解説してるんだ。父さんに見せてくれ」
英明はベッドの下から雑誌を取り出した。
「ほう、『月刊、セバスチャン』『週刊、フェルナンドアロンソのすべて』『近代F1解説の行方』。こういうものを見て、解説しているのか。英明、こういうものは、最近、簡単に手に入るのか」
「普通に、本屋で売ってあるんだ」
「ほう、そうなのか。父さんの頃はな、こういうものはなかったからなぁ。ずっと、想像で解説してたよ。やれ、アイルトンセナだ、やれ、ミハエルシューマッハだ、やれ、ジャンアレジだ。やれ、鈴木亜久里だ。英明、違うんだ。父さんはな、解説しちゃいけないと、言ってるわけじゃないんだ。勉強を一生懸命に頑張って、その合間に、解説者。それは、むしろ、車産業時代にとって、良いことなんだ。チャンピオンシップのためにもな。ただ、解説するときは、紫色のヘルメットに、大山英明インNipponときっちり、印字して、解説するんだぞ。なにかあった時に、責任がとれないからな。きっちりと、世界のモータースポーツ界に貢献するんだぞ。自分で責任をとれるようになってから、モナコグランプリに挑戦するんだぞ」
「それは、わかってるよ」
「英明、わかってくれたか。まあ、父さんが、やれ、アイルトンセナだ、やれ、ミハエルシューマッハだ、やれ、ジャンアレジだ、やれ、鈴木亜久里だと、想像で解説していたことは、母さんには秘密だぞ」
「うん」
「さあ、母さんも待っていることだし、下へ行って、ご飯にしよう」
「母さん、許してくれるかな」
「大丈夫だ、英明。ちゃんと、紫色のレーシングスーツをクリーニングに出すんだぞ」
「うん」
「頑張って解説するんだぞ。きっちり、チャンピオンシップを獲りに行くんだぞ」
「うん」
「おい」
ムラムラ。英明がこんなものを。父さんもF1にいつかは行きたくなってきたな。凄い世界だ。