第一章 テイルとエレナと二人の正体 第七話 決着と旅立ち
テイルが最後の攻撃を開始しようとするのとは対照的に、レンの方は二発目の膝蹴りで完全に動きが止まってしまい、もうガードを固めること以外、出来ることがなくなっていた。
そんなレンの様子からテイルは、
(足はほぼ止めた…。次は腕を止める!)
と判断して固めたガードの上から左右ジャブの高速連打を浴びせていった。
ガードを固めたレンはテイルの攻撃を受けながら、
(速い!しかも一発一発が馬鹿みたいに重い!このままだとガードごと押し潰される!)
というふうに感じていた。
その攻撃を30秒ほど続けたところでテイルは、
(そろそろ腕が動かなくなってる頃かな…。次は足を、完全に止める!)
そう判断したテイルはまず右アッパーをレンのガードの下から繰り出し、レンのガードを跳ね上げた。
その次にテイルは渾身の左ボディブローをレンの右脇腹に打っていった。
次の瞬間、
「ズドォン!!」
という轟音と共にテイルの左ボディブローがレンの右脇腹に炸裂した。
直撃した瞬間レンは声にならない絶叫を上げながら再度崩れ落ちていった。
それを見ていた誰もが、
「これは駄目だ。今度こそ終わった」
と感じていた。
だがただ一人、レンは倒れない、そう思っている者がいた。
それはレンと対峙しているテイルであった。
テイルは崩れ落ちていくレンを見ながら、
(まだ終わらないでしょうね…。ロイ、レン、アリア…、三人の目的は私とほぼ同じはず…。だったらこの程度で倒れるわけがない。必ず立ってくる!)
とそう思っていた。
一方崩れ落ち、倒れる寸前のレンの頭の中に、ある人物の声が響いていた。
それは、
「あの子のこれからのこと、お前達に任せる。頼んだぞ…」
という物だった。
もう倒れる、と思われたレンは頭に響いてきた言葉で持ちこたえた。
そして足はまだガクガクと震えている状態だったが、
「うがぁぁっ!!」
と叫びながら倒れかけていた体を起こしたのである。
それを見た周りの全員が、
「嘘だろ!?あの状態から立て直すのか!?」
と驚きの声を上げていた。
一方でテイルは起き上がってきたレンに右ストレートを一発打っていった。
レンはその右ストレートをガードすると、
(今度はこっちの番だ!)
と思いながらカウンターで左フックを打っていった。
このレンの攻撃を周りの皆は、
(さすがにこれは避けられない!直撃する!)
と思って見ていた。
ところがテイルはレンのこの左フックを、体を後ろに反らしてあっさり避けてしまった。
さらにテイルは体を反らしたままの状態から左ハイキックを打っていくという通常では考えられない攻撃を繰り出していった。
これまではなんとかテイルの攻撃についていったレンだったがこの左ハイキックには反応出来ずついに頭部に直撃を受けてしまった。
その瞬間、
「ゴォン!!」
という音と同時にレンは10メートル近く吹き飛ばされ、地面に落ちた後も5、6回転がったところでようやく大の字になり倒れながら止まった。
倒れたレンは一撃で失神したらしくピクリとも動かなかった。
レンのその様子を見たテイルは周りで見ていた者達全員に、
「これもう私の勝ちでいいですよね?」
と尋ねた。
そう尋ねられた皆は、
「うーん…」
と考え込みはっきりテイルの勝ちだと言わなかった。
その様子を見たテイルは、
「うーん、とエレナに声をかけた。
まだ戦えって言われてるみたいだからやっちゃいますか…」
と言って倒れているレンに近付いていった。
それを見た周りの全員が、
(まだやる気だ!)
(このままだとレンが殺される!)
という考えが次々に浮かび慌てて、
「いや、勝ちだ!テイルの勝ち!それで決まり!」
と全員で叫び声を上げた。
それを聞いたテイルは笑顔を見せながら、
「わかりました。では結界を解いてもらっていいですか?」
とアリアとカンティスに話し掛けた。
そのテイルの言葉にアリアとカンティスが、
「ええ、わかりました」
と答え、揃って結界を解除した。
すると結界が解かれたのを確認したテイルが、
「エレナさん、レンの治療をお願いしたいんだけどいいかな?」
と声を掛けた
それにエレナが、
「あ、はい!わかりました!」
と応じるとレンの元に駆け寄っていった。
そしてレンに法術を使おうとしたところで、
「そう言えば法術を弱める魔方陣が使われているんじゃなかったんですか…?」
とテイルに問い掛けた。
エレナの疑問にテイルは、
「ああ、それならもう解除しておいたよ」
と答えた。
テイルの言葉にエレナは、
「え?いつの間に…?」
とテイルに聞き返した。
テイルはエレナの質問に、
「葬儀の最中にちょっとね。弔砲を始める前に、ね」
と答えた。
テイルの言葉にエレナは、
「そうだったんですか…。全然気付かなかった…。」
と答えた。
そんなエレナにテイルは、
「一生懸命お祈りしてたからね。わからなくても仕方無いかな?」
と声を掛けると続けて、
「それより早くレンの治療を。放っておいたら可哀想だよ?」
とレンを治療するように促した。
テイルの指摘にエレナは、
「あ、はい!すぐに治します!」
と言うと十字を切りながら、
「いきます!ヒール!」
と言い法術を発動させた。
すると倒れたままピクリとも動かなかったレンが、
「…う…、うーん……」
と微かに声を上げた。
その様子を見たエレナは、
「うん、これなら大丈夫です。すぐに目を覚ましますよ」
とロイ、アリアに声を掛けた。
そう聞いたロイとアリアはエレナに、
「そうですか…。ありがとうございます」
とお礼を言った。
そうこうしていると倒れていたレンが、
「う、うぁ…、あー…、あれ?ここは…?俺は…?」
と言いながら目を覚ました。
そんなレンにロイが、
「起きたか、レン」
と声を掛けた。
そのロイに今度はレンが、
「ロイ?…あ、そうだ、決闘は!?俺は…?」
と質問した。
レンの質問にロイは、
「終わったよ…。負けだ。お前のな…」
と答えた。
ロイの言葉にレンは、
「な!?それじゃあ!?」
と声を上げた。
それにロイが、
「ああ、そうなるな…」
と応じた。
そのロイとレンの視線はテイルとエレナに向けられていた。
それに気付いたテイルはエレナに、
「じゃあ用事も終わったことだし、出発しますか」
と声を掛けた。
そのテイルの言葉にエレナが、
「え?えっと、あの…」
と言いながらロイ達の方に目を向けた。
そのロイ達はテイルに、
「ちょっと待て!勝手に話を進めるな!」
と言いながら詰め寄った。
そんなロイ達にテイルは、
「だって私が勝ったらエレナさんは私と行くって条件でしたし」
と答えた。
そのテイルにレンが、
「ふざけんな!だいたいあんな強ぇなんて聞いてねぇぞ!」
と反論し、さらにアリアが、
「ええ。それを隠してあんな条件を出すのは卑怯ですよ」
と続いた。
その反論にテイルは、
「嫌だなぁ。隠してなんか無いですよ。決闘の前に言いましたよ?私は私以上に強い相手はいないぐらいに思ってるって」
と答えた。
それにレンは、
「普通そんなふざけた話しを信じるやつなんかいねぇだろ!」
と言い返した。
するとさらにロイが、
「もっと言わせてもらえば俺とアリアは決闘には否定的だった。レンが勝手に受けただけだ。屁理屈と言われようが俺とアリアはそう思ってる」
と言った。
両者の主張がぶつかり合い完全な膠着状態になったところでテイルが、
「やれやれ…。仕方無い、最終兵器を出すか…」
と呟いた。
そしてテイルはエレナに、
「エレナさん、私と行くのが良い?それとも向こうの三人と行くのが良い?どっちか決めてほしいんだけど…」
と声を掛けた。
エレナはテイルとロイ、レン、アリアとを見比べて、
「テイルさんと一緒が良いです…」
と言った。
エレナの言葉を受けてテイルが、
「決まりですね」
とロイ達三人に声を掛けた。
それにロイ達が、
「だから…!」
と言いながら詰め寄って来た。
それをテイルは、
「おっと」
と言いながら手を出して制止すると一言、
「御上意、ですよ?」
と声を掛けた。
それにレンは、
「ああ!?」
と言い関心を示さなかったがロイとアリアは共に、
「!」
と少し驚きの表情を見せ、
「…わかった」
としぶしぶ答えた。
そんなロイとアリアにレンが、
「はぁ!?なんでだよ!?」
と声を荒げ怒鳴った。
そんなレンに今度はロイが、
「いいから黙ってろ!」
と怒鳴った。
そんなロイ達のやりとりを見たテイルが、
「…そろそろ出発しても良いかなぁ?」
と問い掛けた。
ロイ達はそれに、
「……仕方無い…」
と再びしぶしぶながら同意した。
それを受けてテイルはエレナに、
「よし、じゃあ出発しましょう!」
と声を掛けた。
エレナはそれに、
「はい…わかりました」
と答えた。
二人は周りの皆に囲まれながら村の入り口までやって来た。
そしてテイルが、
「ティンク、おいで」
声を上げてティンクを呼ぶと馬に変身したティンクが近くの森から姿を見せた。
そのティンクにまずはテイルが乗り、続いてエレナを引っ張り上げるとテイルはエレナを自身の後ろに乗せて、
「しっかり掴まっててね」
と声を掛けると周りの皆に、
「それじゃあ出発します。縁があったらまたどこかで!」
と挨拶をすると、
「行くわよ、ティンク!」
とティンクに声を掛けた。
とそれにティンクが応じる様にいななくと一気に駆け出していった。
その様子をテリー達は名残惜しそうに、ロイ達は悔しそうに見つめていた。
ティンクの足は速くテイル達の姿はあっという間に見えなくなってしまっていた。