第一章 テイルとエレナと二人の正体 第六話 テイル、圧倒
さっきの膝蹴りのダメージでまだまともに動けないレンにテイルはじわじわと近付いていた。
近付いて来るテイルを見ながらレンは、
(どうするどうするどうする!?踏み込める距離になったら一気に来るはずだ…。足はまだ動かせねぇから逃げられねぇ…。おまけに踏ん張れねぇから応戦も出来ねぇ…!どうする!?)
と焦りを募らせていた。
一方でついに踏み込める距離まで近付いたテイルは決着をつけるため、一気に襲い掛かっていった。
それを見たレンは、
(き、来たぁ!!どうする!?どうするんだ俺!?)
と大混乱に陥った。
その時レンの後ろから、
「レン、前に出ろ!上から覆い被さるように抱きつけ!!」
というロイの叫び声がした。
ロイの声を聞いたレンは突っ込んで来るテイルに対しなんとか前進、ロイのアドバイス通りにテイルの上から覆い被さるように抱きつく形になった。
その様子を見たロイは
「ふぅ…やれやれ…」
と一息ついた。
そして抱きついたレンは、
(助かったぜぇ〜…。サンキュー、ロイ…)
とアドバイスを出してくれたロイに感謝していた。
一方で抱きつかれた側のテイルはレンを振りほどこうと何度か大きく体を揺すったが、レンは必死に抱きついて離れようとしなかった。
抱きついているレンは揺さぶられながら、
(そう簡単に離すかよ!回復するまでこのまま休ませてもらうぜ!)
と考えていた。
そんな二人の様子を見ていたアリアはロイに、
「あれで大丈夫なの…?」
と尋ねていた。
アリアの疑問に尋ねられたロイは、
「ああ、レンの奴、相手の腕が使えないように上手いこと抱きついてるよ。あれならしばらくは大丈夫だ」
と答えた。
一方抱きつかれたままのテイルは振りほどけないと判断、次の行動に移っていた。
左足を軽く浮かせると前後左右に振り始めた。
そして自由に動かせることを確認したテイルはその左足を大きく後ろに下げる形に構えた。
それに気付いたアリアはロイに、
「ねぇロイ、あの子、あれは何しようとしてるの…?」
と尋ねた。
尋ねられたロイも不思議に思いながら、
「足を動かしてるってことは…蹴り…か?けどあれだけ密着してたら膝蹴りも出来ないだろうし…」
そう考えそして、
「…待てよ…、あいつまさか!」
と一つの可能性に気付いて、
「レン!そいつから離れろ!!」
と叫んだ。
叫ばれた方のレンは、
(ふざけんな!まだ回復してねぇんだよ!それにくっつけって言ったのはお前だろ!?)
と思って抱きついたまま動こうとしなかった。
そんなレンに対しロイは再度、
「早く後ろに飛べ!急げ!!」
と叫んだ。
二度目の叫び声にレンが、
(何なんだよ、一体!?)
と思いながら後ろに飛んだ次の瞬間だった。
さっきまでレンの頭があった場所をテイルの左ハイキックが恐ろしい速度で飛んでいった。
そのハイキックを目の前で見る形になったレンは、
(あの状況からハイキックで頭を狙ってくるだと!?イカれてんのかこいつ!?)
とさらにテイルへの恐怖が増していった。
一方ハイキックを避けられたテイルは振り上げた左足をレンの下がった方向に大きく振り下ろすと、その反動を利用して渾身の右ストレートを打っていった。
着地した直後で身動きの取れなかったレンはその右ストレートを受け止めるしかなく防御、その瞬間、
「ゴガン!」
という衝撃音と共に結界の展開されている場所まで吹き飛ばされた。
そのまま結界に叩き付けられ思わず、
「ぐぅぅ…」
とうめき声を上げた。
そんなレンに後ろから、
「レン、前ー!!」
というロイの叫び声が上がった。
そう叫ばれたレンが、
「え?」
と言いながら前を見るとテイルがもう目の前まで迫ってきていた。
「うわぁーーーっ!!!!」
などと叫ぶ間も無く急接近してきたテイルがその勢いのまま再び右ストレートを打ってきた。
それをなんとかガードしたレンだったが、その衝撃で結界に押し込まれた。
身動きの取れない状態になったレンにテイルは、反動をつけて勢いの増した左フックを打っていった。
レンはこの左フックもガードしたのだがその衝撃を受け止めきれず、結界に沿って自身の左の方向に吹き飛ばされてしまった。
そのレンを追いかけて移動したテイルは、まだ吹き飛ばされた状態から立て直せていないレンに、今度は右フックを打っていった。
レンはその右フックもなんとかガードしたがその衝撃で大きく体勢を崩すことになった。
テイルは今度はそこに左ハイキックを打っていった。
倒れそうになっているところに倒れそうになっている方向から蹴りあげられる形になったレンだがこの左ハイキックもガード、さらにその反動で体勢を立て直すことにも成功した。
しかし体勢は立て直せたレンだったが、心は徐々に折れ始めていた。
立て直した状態でレンはテイルを見つめながら、
(…全部ガードは出来た…出来たけど、ガードの上からの攻撃だったのにそれぞれ一発ごとに気絶しそうになった…。直撃もらったら終わってた…。化け物かよこいつは…!?)
と思うようになっていた。
一方テイルはまた少しレンとの距離が開いたためじわじわと接近、一気に踏み込める距離になったところで突っ込もうとしていた。
これまでの流れからまた突っ込んで来るだろうとレンは思った。
そしてレンの予想通りにテイルは突っ込んで来た。
すると今度はレンの方からもテイルに突っ込んでいった。
この時レンは、
(離れていても突っ込んで来る…。接近戦じゃ勝ち目がない…。足もまだ回復しきってない…。なら抱きついてそのまま押し倒して少しでも時間稼ぎするしかねぇ!)
そう考えたレンは考えた通りにテイルに抱きつき、そして押し倒したのである。
そして押し倒したレンは、
(普通の相手ならこれで大丈夫だろうが…こいつヤバいからな…。下手するとこの状態からでもなんかしてきそうだし…。ここは思い切り離れるに限る!)
そう判断して出来る限り飛び退いて距離をとった。
一方で倒されたテイルも起き上がり距離をとったレンを見ながら、
(久しぶりに押し倒されたな…。ちょっと嬉しかった…。とかいう冗談は置いておいて、さて…どう動くのかな、レン君?)
と考えていた。
そして距離をとった方のレンは、
(とりあえず足は回復した…が、これからどうする?多分向こうは同じように来るだろうし…。)
というふうに考え、そして、
(…だったら一か八か、最高速度で!!)
と結論を出して今度は自分の方からテイルに近付いていった。
対するテイルもこれまでと同じようにゆっくりとレンに近付いていった。
そしてある程度の、テイルにとっては一気に踏み込める距離、レンにとっては自身の手が届く距離になったところでテイルが接近戦を仕掛けるために踏み込もうとした瞬間、レンのほうが先に攻撃を始めた。
それは左右ストレートの高速連打で今までの攻撃よりも数段速かった。
テイルはガードを固めてレンの攻撃を防ぎきったが踏み込もうとしていたレンはすでにテイルから離れてしまっていた。
そのレンの攻撃を見ていたアリアはロイに、
「レンの攻撃ってあんなに速かったの?」
と尋ねた。
アリアのその質問にロイは、
「あれがレンの最高速だ…。レンのやつ賭けに出やがった…」
と答えた。
ロイの最後の発言にアリアが、
「賭け…ってどういうこと?」
と聞き返した。
それにロイが、
「あれで駄目ならもう打つ手がない…。そういうことなんだよ」
と説明した。
その説明にアリアが、
「そんな…」
と半ば絶望的な表情でロイの説明を聞いていた。
そんなやりとりをしている間にまた両者が接近、さっきとほぼ同じ距離になったところで再びレンの高速連打が始まった。
テイルはこれも防いだがさっきと同じく踏み込むことは出来なかった。
それから同じような攻防が数回行われ見ている誰もが、
「レンは完全に立て直した」
「このままレンが押しきるだろう」
とそう思うようになってきていた。
だが同じように見えていた攻防は実は少しずつ変わってきていた。
この攻防を見ていたアリアがロイに、
「これで大丈夫でしょ?レンは勝てるでしょ?」
と尋ねたが二人の攻防の変化に気付いていたロイは、
「駄目だ…。レンは負ける…」
と答えた。
ロイの返答にアリアは、
「え!?何で?どうして!?勝ってるじゃない!?」
と聞き返した。
それにロイは、
「確かにレンが勝っているようには見える…。だがよく見てみるとそうじゃない。レンはじわじわ追い詰められてる…」
と答えた。
ロイのその言葉にアリアが、
「それ、どういうこと…?」
と問い掛けた。
その問い掛けにロイが、
「さっきまであの相手はレンの攻撃を防御しているだけだったが今は…」
と言って戦っている二人を見ながら、
「レンの高速連打を全て叩き落としてる」
ロイにそう言われたアリアがテイルとレンの戦いを見ると、確かにロイが言った通りにレンの攻撃はテイルが全て叩き落としていた。
それを見たアリアは、
「ねぇ…あのままだったらまた近付かれるんじゃ…?」
とロイに問い掛けた。
それにロイは、
「もう近付かれ始めてるよ…」
と答えた。
ロイの返答にアリアは、
「え?もう近付かれてるの!?」
と聞き返した。
そんなアリアにロイは、
「あの相手はレンの攻撃を叩き落とすと同時に少しずつ前進してきている。その分レンは後退させられている…。おそらくもうすぐレンは負ける。間違いない」
とロイは断言した。
そんなロイの言葉にアリアは、
「後退させられてるって言っても頑張ってるじゃない。まだこれから…」
と言って反論した。
それにロイは、
「無理だ…。忘れたのか?下がらされ続けたらそこには…」
とロイが話してところで突然、
「ドンッ」
という音が聞こえてきた。
アリアが音のした方を見るとそれはレンの方からだった。
それにアリアが、
「え?…何があったの…?」
とロイに尋ねた。
ロイはそれに、
「やはり結界か…。もう完全に追い詰められた…」
と答えた。
ロイの返答にアリアは、
「結界って…あの子レンの攻撃を払いながら結界に追い詰めていったの!?そんなこと出来るの!?」
とロイに問い掛けた。
それにロイは、
「ある程度の実力差があれば出来なくはないが…レン相手にやれるとなると…」
と返答した。
一方、ロイとアリアが話している中追い詰められたレンは前進してくるテイルを押し返すために攻撃し続けていた。
しかしテイルはその全てを叩き落としながら前進、完全にテイル自身の射程距離に入ったところでレンの両腕を掴み防御出来ない状態にして、そのまま二発目の左膝蹴りをレンの右脇腹に打っていった。
そして直撃した瞬間、
「ドゴォン!!」
という炸裂音が響き渡り、それと同時にテイルが手を離した途端にレンは崩れ落ちていった。
崩れ落ちていくレンを見たロイとアリアは同時に、
「レン!!」
と叫んでいた。
その叫び声が聞こえたのか、もう少しで倒れるというところでレンはなんとか踏みとどまった。
しかし一撃で完全に身動きがとれない状態にさせられてしまったレンは目の前のテイルを見ながら、
(くっそー…。まだだ…、まだ終んねぇぞ…)
と、折れそうな心を必死で繋ぎ止めていた。
一方のテイルは、
(さて、これで動きはほぼ止めたはず…。そろそろ終わりにしようかな…)
と考え最後の攻撃を始めようとするのだった…。