第一章 テイルとエレナと二人の正体 第五話 決闘
テイルとレンの決闘の準備はほぼ終わり、後は始まりを待つだけ…となったところでテイルが周りの者全員に、
「あの、一つ聞きたいことがあるんですけど?」
と問い掛けた。
その問い掛けに周りにいた全員を代表する形でテリーが、
「…?聞きたいこと?何だ?」
とテイルに聞き返した。
それにテイルが先の問い掛けに続けて、
「この中に結界を張れる人っていますか?」
と問い掛けた。
その問い掛けにテリーが、
「結界?」
と聞き返した。
それにテイルが、
「ええ、結界です」
と答えた。
するとそのやり取りを聞いていたレンが、
「めんどくせぇなぁ…。そんなんどうでもいいからとっとと始めようぜ?」
と話しに割り込んできた。
そのレンに対してテイルが、
「まあ、それでもいいんですけど…」
と前置きをして、
「ただ、近くにこの村を襲撃してきた魔王軍の本隊が潜んでいる可能性が極めて高いものですから。出来る限り気付かれたくないなぁ、と思いまして」
と説明した。
その説明を聞いたアリアが、
「そういう事なら…」
と言い前に出てきて、
「私は結界を張れます」
と名乗りを上げた。
これに続く形でカンティスも、
「私も出来ますが…」
と名乗り出た。
この二人の発言を受けてテイルが、
「では二人にお願いします。よろしくお願いしますね?」
とアリア、カンティスの二人に結界の展開を頼んだ。
そして決闘場所の周囲からテイル、レンの二人以外が離れたところでアリアとカンティスが、
「それではいきますよ?」
と確認をとったあと、
「結界、発動!」
と言い、直後にテイルとレンの周囲に結界が張られた。
そしていよいよ始まるか、と思われた時テイルが自分の足元に目印をつけると自分の後ろに向けて歩き始めた。
その様子を不思議に思うと同時に苛立ったレンが、
「何やってんだよ!早く始めようぜ!」
と声を上げた。
その声にテイルが、
「すいませんねぇ。先に結界の大きさがどのくらいか確認しておこうと思いまして…」
テイルはそう言いながら結界の端まで辿り着くと結界を手で軽く叩きながら確認すると始めに目印を付けた場所に戻り、今度はさっきの方向から直角の方に向けて歩き始めた。
そしてまた端まで辿り着くとさっきと同じように結界を手で軽く叩いて確認してからアリアとカンティスに、
「結界の形は正方形と考えていいんでしょうか?」
と確認した。
その質問にアリアとカンティスの二人が、
「ええ、そうです」
と答えたところでテイルが、
「わかりました、ありがとうございます」
と返事をしてレンの方に向き直り、
「お待たせしました。それでは始めましょうか?」
と声をかけた。
テイルの言葉にレンが、
「やっとかよ…」
と呆れながら返事をしながら結界の中央でテイルを待った。
一方のテイルも結界の中央に戻ったところで、
「最後に一つ、誰か決闘開始の号令をやってほしいんですけど…」
と周りの皆に声を掛けた。
少しの間、
「どうする?」
「誰がやる?」
と言った声が上がっていたが最終的にテリーが、
「では私がやろう」
と名乗りを上げた。
そのテリーに、
「ではお願いします」
と言いながらテイルはレンと向き合った。
テイルとレン、二人が対峙したのを確認した上でテリーが遂に、
「それでは…始め!」
と決闘開始の号令を掛けた。
と同時に二人は少しずつ距離を開け、互いにどう動くのかを観察し始めた。
その中でレンは、
(始まると同時に突っ込んで来るかと思ったけど…来ねぇな…。逆に離れてる…。向こうの方がリーチ短いってわかってるだろうになんで…?)
と思った。
と同時に、
(まぁいいか。来ないなら俺から仕掛けて主導権を取る!)
と考えレンが左ジャブのモーションに入った時だった。
レンが左ジャブを打ってくるとみたテイルは一瞬の溜めの後、
「ドンッ!」
という音と共に一瞬で自身の射程距離、クロスレンジに踏み込んで行った。
一方で踏み込まれた側のレンは、
(嘘だろ!?一瞬で突っ込んで来やがった!)
と驚いた。
そして、
(クソが!モーションに入ってるから止まれねぇ!振り切るしかねぇ!)
と考えそのまま左ジャブを打っていった。
テイルはその左ジャブを避けると接近した状態からさらに踏み込み、渾身の右ストレートを打っていった。
レンはそれに、
(左を出した直後で戻せねぇ!右腕一本で止めるしかねぇ!)
と考えなんとか右腕をテイルの右ストレートの軌道に合わせて受け止めた。
その瞬間、
「ズドォン!!」
という轟音と共にレンの体は後方に5メートル近く吹き飛ばされた。
その一撃にレンは、
(何だ今の一撃は…!?なんとか受け止められたけど…右腕が痺れて動かせねぇ…!)
と驚愕していた。
一方結界の外で見ていたロイがボソッと、
「ヤバい一撃だったな…。」
と呟いた。
ロイのその言葉にアリアが、
「どういうこと?」
と尋ねた。
アリアのその質問にロイが、
「直撃したら終わっていた。そのぐらいヤバい一撃だった」
と解説した。
そう解説したロイにアリアは、
「レンは勝てるの…?」
と不安そうに尋ねた。
それにロイは、
「勝ってくれないと困るんだが…」
と言葉を濁した。
そのレンは結界の中でこれからどう戦うかを考えていた。
同じく結界の中にいるテイルはレンが戦い方で迷っていると判断、威嚇の意味も込めて右足を大きく前に出し、わざと大きな音が出るように地面を踏み締めた。
その威嚇に反応したレンはさらにテイルとの距離を開けた。
そんなレンに対しテイルは今度はあえてじわじわと距離を詰め始めた。
それを見たレンは、
(今度はじわじわかよ…。手ぇ出したら出したで突っ込んで来やがるし…。どうする…?)
と少しの間考えていたがふと、
(…待てよ?手を出したら突っ込んで来るってことは…)
と考えたところで、
(右腕もなんとか動くようになってきたし…試してみるか…)
そう決めるとレンはテイルに左ジャブを打っていった。
テイルがそれに反応し突っ込んでいったところでレンは、
(やっぱり来たか!それなら!)
と突っ込んで来るテイルに合わせて右ジャブを繰り出していった。
その右ジャブをテイルがガードし、前進が止まったところで、
(よし、やった!このままこれで!)
と前進が止まったテイルに左右パンチの高速連打を浴びせて後方に押し戻すとレン自身も後方に飛び退き距離を開けた。
そしてレンは、
(よっしゃあ!攻略法がわかったぜ!)
と自身が優位に立てる戦法を見つけられたと喜んだ。
そしてテイルが突進、それをレンが連打で押し戻す、という展開が三度繰り返され見ている誰もが、
「レンが立て直して優位に立った」
と思った時だった。
突っ込んで来たテイルを連打で押し返し、距離を開けようと後ろに下がったその時突然、
「ドンッ」
という音と共にレンの動きが止まったのである。
テイル以外の全員の頭に、
「?」
が浮かぶ中レンが手を伸ばしたところで、
「ゴンッ」
という音が響いた。
その瞬間何が起きたのかを理解したアリアとカンティスが同時に、
「結界だ!結界にぶつかったんだ!」
と叫んだ。
するとそう叫んだ二人にレンが、
「ふざけんなよ、アリア!おっさん!何勝手に結界移動させてんだよ!」
と怒りの声を上げた。
そんなレンにアリアとカンティスは、
「してないわよ、バカ!」
「ええ、私も何もしていません…」
と次々に答えた。
その答えにレンが、
「じゃ、なんで…」
と呟いた瞬間ロイが、
「レン、お前が下がらされたんだ!」
と叫んだ。
そしてあることに気付き続けて、
「レン、前ー!!」
と再度叫んだ。
それに、
「は?」
と言って振り返ったその時、レンの目の前には最接近して既に右ストレートのモーションに入っているテイルがいた。
一瞬逃げようと考えたレンだったがその時にはもうテイルの右ストレートが飛んで来ていたためガードに変更、なんとか両腕で受け止めた。
その瞬間、
「ズドン!!」
という音と共に後ろの結界に叩きつけられた。
その衝撃に、
「ぐぅぅ…」
という呻き声を上げたレンは次の瞬間ガードした時のままの両腕をテイルに掴まれた。
それにレンは、
(何だ!?何をしてくる!?)
と頭の中で叫び、続けて、
(両腕で掴んできているからパンチは無い…。ガードしたままだから頭突きも無い…。となると…足…?蹴りか!!)
そう判断したレンが足元を見るとテイルが左足を振り上げようとしていた。
その角度と蹴り上げ方からレンは、
(膝蹴り!狙いは…腹か!)
と考え全身の力を腹部に集中させ、
(さあ来い!この一発を耐えて脱出だ!)
レンがそう覚悟を決め、力を入れた右脇腹にテイルの左膝蹴りが炸裂した。
その瞬間、
「ズドン!!」
という衝撃音がしたと同時にレンの頭の中で、
(………は?)
という一言が浮かんだ。
そのレンに対しテイルは掴んでいた手を離して追撃の右ストレートを打っていった。
レンはそれを避けながら脱出を開始、それが成功し、テイルから少し離れた場所に逃げたところで、
(何だ今の膝蹴りは…!?は、腹、お、俺の脇腹!どんなことになってる!?)
そう頭の中で叫びながら自身の右脇腹を手で叩いて確認し、
(無事だ…!)
と心の中で安心した。
それに続けて、
(直撃した辺り全部…吹っ飛ばされたと思った…)
とテイルの一撃に恐怖を覚えた。
そしてテイルが自身の方を向き、またゆっくりゆっくり近づき始めたところで、
(くっそ、接近戦は駄目だ…!もう少し離れて…)
と考えて離れようとしたところでレンの膝が、
「カクンッ」
と曲がり、まともに動かすことが出来ずに離れることが出来なかった。
自分の足が一撃がそんな状態にされたことでレンの恐怖はさらに強くなり対戦相手のテイルのことを、
(地獄見せるって言ったが…そんなことが出来る相手じゃねぇ…。こいつ、強ぇ…)
と恐怖を持って見るようになった。
一方のテイルはレンの足がしばらくまともに動かせないとわかったようではあるが、これまでと変わらずゆっくりゆっくり、じわじわじわじわと近付いていった。