第一章 テイルとエレナと二人の正体 第1話 敵討ちの始まり
二人が村に戻ってきた時、村の様子は一変していた。
アーカス村を含むこの大陸全土を統治するアーランド王国が魔王軍の迎撃の為出兵、両軍の戦闘が始まっていたのである。
両軍の兵数差はアーランド軍が3に対し、魔王軍は1、3対1で数字上はアーランド軍が勝っていたが実際は兵士の戦闘力の差で魔王軍が圧倒していた。
戦闘の様子を見ながらテイルはとりあえずエレナの両親をエレナの家まで連れて行き、エレナの家の中に安置する事にした。
無事連れて行き、安置が終わったところでテイルが、
「お墓も焼き払われているみたいですから敵討ちが終わったら村の皆さんの分もお墓を作って埋葬してあげないといけませんね」
と言った。
「え…?」
テイルの発言に意外そうな表情でエレナはテイルを見た。
そのエレナにテイルは、
「このまま野ざらし、雨ざらしでは村の皆さんが可哀想ですよ?エレナさんはそう思いませんか?」
と問いかけた。
「…!いえ、思います!すごく思います!」
エレナはこう即答した。
「では決まりですね。敵討ちが終わったらお墓作り。この順番でいきましょう」
「はい!」
「ふふ♪…では行きましょうか。村の皆さんの敵討ちに…」
「…はい」
こうして2人は戦闘中のアーランド軍と魔王軍の元に向かって行った。
戦闘の状況は魔王軍が優勢でアーランド軍は苦戦していた。
「殿下、ここは一度後退して態勢を立て直すべきです!このままでは全滅してしまいます!」
「駄目だ!ただでさえ到着が遅れ、村ひとつ焼かれ、住民を皆殺しにされたのだ!この上後退するとなったら住民達の霊になんと言って詫びればいい!?」
殿下と呼ばれた青年、テリー・アーランドはそう叫んで後退を拒否した。
「殿下…」
「皆、良いか!この村人達の苦しみを思え!悲しみを思え!絶対に下がるな!なんとしてもここで魔王軍を討ち果たすのだ!!」
テリーはそう叫び兵に奮起を促した。
しかし戦況は少しずつ悪化していった。
そのような状況の中、テイルとエレナが両軍の戦闘地帯にやって来た。
アーランド軍、魔王軍共にその事に気付き戦闘が一時的に中断された。
「村の住民…?生存者がいたのか…?しかしなぜ戦闘中の場所に来た…!?」
テイルとエレナが戦闘地帯に現れたことにアーランド軍は混乱した。
一方の魔王軍は、
「まだ生き残りがいたのか。まあいい。探しだす手間が省けただけだ」
そういう感想を持ったものがほとんどだった。
そういう状況の中テイルがエレナに問いかけた。
「さあ来ましたよ、エレナさん?改めて聞かせてもらっていいですか?今エレナさんが私に叶えてほしい願いはなんですか?」
「お父さんとお母さんを殺した人達をやっつけてください。村の皆を殺した人達をやっつけてください。お父さんとお母さんの、村の皆の敵討ちをしてください。これが私の願いです」
「わかりました」
二人のやりとりを聞いたアーランド軍、魔王軍両軍は同時に、
「……は?」
という感想を持った。
だがその後発した言葉は両軍で違いがあった。
アーランド軍は、
「何を馬鹿なことを…!すぐにここから離れるんだ!急げ!!」
と、2人に逃げるようにと叫んだ。
一方の魔王軍は、
「ぷっ、くっくっくっく……、だーーっはっはっはっは!!俺達相手に敵討ちだぁ?笑わせてくれるぜ。どれ、あの小娘の魔力係数は……5000?たったの5000か!?どれだけ笑わせてくれれば気がすむんだ!?」
というもので両軍で全く違うものになっていた。
そしてアーランド軍幹部は、
「殿下…なんとかしてあの2人を逃がさなければ…」
とテリーに進言した。
「わかっている…。全軍魔王軍を食い止めろ!なんとしてもあの2人を逃がすのだ!」
テリーが部下に指示を出した。
一方魔王軍は、
「おいおい、ふざけるなよ?お前らごときに俺達の足止めができると思ってるのか?」
と言い、アーランド軍を威圧した。
「く…」
テリーはその威圧に反論出来なかった。
アーランド軍はこの時、前進も後退も出来なくなっていた。
両軍のやりとりが終わったと見たテイルは、
「終わりましたか?では早速敵討ちを始めましょうか。誰からにします?誰でもいいですよ?」
と魔王軍を挑発した。
それに魔王軍は、
「完っ全にイカれてんな、あの小娘…」
とあきれていた。
そして、
「おい、誰か。誰でもいい。あのお嬢ちゃん達を早く皆のところに行かせてやれ。そうすりゃ馬鹿も治るだろ」
とテイルの相手を探した。
するとその中の1人が、
「よっしゃ、俺がやる」
と名乗りを挙げた。
名乗りを挙げた兵士は、
「へっへっへっ…。覚悟しろよ、お嬢ちゃん?」
と言いテイルの前に立った。
一方のテイルは、
「あなたからですか。わかりました。では始めましょうか」
と言うと戦闘態勢に入った。
対する魔王軍兵士は、
「へっ、始まった瞬間、終わらせてやんよ!!」
と叫びテイルに自身の魔導機兵の右腕を振り下ろした。
一方テイルは振り下ろされた右腕に対し、渾身の右ストレートを打ち込んだ。
そして互いの右拳がぶつかった瞬間、
「ドゴォッ!」
という轟音と共に魔導機兵の右腕がその肩の部分まで、一瞬で遥か彼方まで吹き飛んでいた。
その光景を見ていたアーランド軍、魔王軍共に一瞬何が起きたのかわからず呆然と立ち尽くし、全く同じ、
「……え?」
という一言を発していた。
だがそれ以上に何が起きたのかわからなかったのは右腕を吹き飛ばされた魔導機兵に乗っていた兵士だった。
操縦席にいたぶん外の、周辺の状況がわかっていなかったのである。
そして兵士が周辺の状況を確認しようとした瞬間、
「はっ!!」
という掛け声と同時にテイルが右腕を吹き飛ばした魔導機兵の操縦席部分に襲い掛かっていった。
テイルは操縦席部分に一瞬で飛び上がるとその勢いのまま一撃で操縦席ごと魔王軍兵士を粉砕、そのまま魔導機兵を貫通し背部から飛び出すと見事に地面に着地した。
その直後、操縦者を失ない制御出来なくなった魔導機兵がテイルの一撃による衝撃で、着地したテイルの上に倒れてきた。
しかしテイルはそれを片手で受け止めると近くに降ろし、エレナに話し掛けた。
「エレナさん、もう一度だけ聞かせてもらっていいですか?エレナさんが今私に叶えてほしい願いはなんですか…?」
「村の皆の敵討ちです!どうかよろしくお願いします!」
「わかりました。…では」
最後の確認を終えたテイルは魔王軍の方に向き直ると、
「いざ、推して参ります!」
一言そう吼えるとテイルはエレナの敵討ちを続けるため、魔王軍部隊の方へと歩き始めた…。