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テイル戦記  作者: 篠原
1/9

プロローグ

「うーん…。地図通りだとこの辺りのはずなんですけど…」

街道を馬に揺られ進みながら地図を見ていた人物…少女が呟いた。

その容姿は腰まで届く銀色の髪、金色に輝く瞳をした絶世の美少女であった。

また乗っている馬は、馬と言うのが躊躇われるほどの巨体をしていた。

その巨体は一般に知られる馬の二回りはある大きさだった。

「あの分かれ道を右に行くと丘に出るみたいですね…。ちょっと行って辺りを見下ろしてみましょうか…」

少女がそう呟いて右の道を行こうとしたその時、左の道から人が3人走ってきた。

3人とも怪我をしており、何かから逃げているようだった。

「大丈夫ですか?何かあったんですか?」

逃げてきた3人に少女が馬に乗ったまま話しかけた。

「え!?うわぁ、ここにも化け物が!!」

今まで見たことがないほどの巨大な馬を見たこと、そしてその馬が喋ったと勘違いして驚いた3人はそう叫んだ。

その事に気付いた少女は今度は馬から降りて話しかけた。

「ごめんなさい、そして大丈夫ですよ?この子大きさ以外はわりと普通の馬ですから」

「え…?そ、そうなのか…?」

「ええ、そうですよ♪だから安心して下さい。それでその怪我は?何かあったんですか?」

少女は再度問いかけた。

「ああ、そうだった、村が襲われたんだ!」

「え?村が、襲われた?……誰にですか?」

「魔族だ!魔族が攻めてきたんだ!」

「魔族!?どうしてここに…?」

「わからん…。わからんが狩りを終えて村に帰ったら魔族が攻撃してきていて村は火の海になってたんだ…」

「俺たちも襲われたけどなんとか逃げてきたんだ…」

「ちょっと待って下さい…。あなた達の村に、エレナという女の子がいませんか…?」

「え?…ああ、いるというか、いたというか…」

「いた、って過去形なのは…?」

「村のあの様子だと…多分もう…」

「……!来るのが遅かった…!?…いえ、まだそう決まったわけじゃありませんね…。あの、村はこっちですね?」

「え?…ああ、そうだが…?」

「ありがとうございます、それでは!」

「は?…あんた、まさか、村に行く気か!?」

「はい、そうです」

「無茶だ!死にに行く様なもんだ!!」

「大丈夫です。私、こう見えて結構強いんですよ?それに…」

「…?それに…?」

「約束があるんです…。とても、とても大切な、約束が……」

「………そう、か…」

「ええ…!それじゃあ、縁があったらまたどこかで!お願い、ティンク!!」

ティンクと呼ばれた巨大な馬は少女の声に応えるように嘶くとまるで風のような速さで駆け出して行った。

逃げてきた3人はその様子を呆然と見つめていた。



村に近づくにつれて何かが焼け焦げた匂いが漂ってきた。

嫌な予感を感じながら少女は村に急いでいた。

そして遠くに村の入り口が見えたところで人が1人倒れていた。

それを見た少女はすぐに駆け寄りその人を抱え起こした。

倒れていたのは栗色の髪の女の子だった。

「これは……気絶してるだけみたいですね…。あなた、大丈夫?しっかりして下さい」

「……う、………う、ん……」

「ほら、しっかり。目を開けて?」

「………あ………え?あ、あれ…?ここ…は?あなた…は?」

「ここはアーカス村の前ですよ。それで、私の名前はテイル。テイル・ウィザースプーンといいます。あなたはここに倒れていたんです。とりあえずは大丈夫みたいですね。それで、あなたの名前、教えてもらっていいですか?」

「あ、はい…、私はエレナ・カトライアっていいます…」

「エレナさん…ですか?」「はい…、そうです…」

(そうか、この人がエレナさんか…)

エレナの答えを聞いたテイルは目の前の少女が捜していた人物だと気付いた。

「すいません…村の人達はどうなってますか…?」

「村の人達…ですか…。ここからでは全てはわかりませんが…、多分もう…」

「多分もうって…まさか…」

「…多分…逃げられなかった人達は…全員…」

「そんな…嘘…お父さん…、お母さん…!」

そう言うとエレナは村に向かって行った。

「あ、ちょっと!待って下さい!」

そう言ってテイルはエレナの腕を掴んで引き留めた。

「離して下さい!お父さんとお母さんが!」

「気持ちはわかります。でもエレナさん1人で行っても死者が1人増えるだけですよ?」


「う…。でも…」

「だから、私も一緒に行きますよ」

「え?」

「もともとあの村に用事があるからここまで来たんです。あの様子ではもう手遅れかもしれませんが…」

「……」

「そういうわけですからお供しますよエレナさん?」

「いいん…ですか?」

「ええ♪」

「じゃあ、お願いします…」

「それでお父さんとお母さんはどこにいるかわかりますか?」

「多分家にいると思います…」

「家の場所はどこですか?」

「村の奥の方です…」

「わかりました、行きましょう。家の近くに来たら教えて下さい」

「はい、わかりました」

「よし、行くわよ、ティンク!」

こうしてテイルはエレナを連れて村に入って行った。

村はひどい惨状だった。

村人の死体があちこちに転がり、火が付けられ炎に包まれた家、焼け落ちた家などまさに地獄絵図と言っていい有り様だった。

「これは…、ひどいですね…」

「お父さん、お母さん…」

この惨状を横目に2人はエレナの家に急いでいた。

と、何かに気付いたテイルが馬から降りて地面に耳を当てた。

「どうしたんですか?テイルさん…」

その様子に不思議そうな表情でエレナが声をかけた。

「少し気になる音がしましたから…」

「音…ですか?」

「ええ。……これは、この音は魔導機兵?村を襲うだけで魔導機兵も使ったということ…?」

「魔導機兵…ですか?」

「ええ…」

「魔導機兵って確か人が乗って動かす兵器ですよね?」

「正確には全長約10メートル、人や魔族が搭乗して動かす巨大人型魔導兵器ですけど…」

「そうなんですか…」

「ええ。…それにしても地上の村を襲うだけでわざわざ魔導機兵を使うかしら…?…何か別の目的があると考えたほうがいいでしょうね…」

「別の…目的…」

「ええ。ただ、この話はここまでにして、エレナさんの家に急ぎましょう。無駄話を始めた私が言うことではありませんけど…」

「あ、はい、わかりました!」

2人は再びエレナの家に向かっていった。

2人がエレナの家に着いたとき、エレナの家は炎に包まれていた。

「そんな…。これじゃ家の中には…」

家の惨状を見たエレナは泣きながらその場に崩れ落ちた。

その一方でエレナの家の惨状を見たテイルは、

「これならまだなんとかなりそうですね…」

と口にした。

「…え?……これが、どうにかなるんですか!?」

テイルの言葉を聞いたエレナがテイルに聞き返した。

「ええ。エレナさん、危ないですから少し下がっていて下さい」

そう言ってエレナを下がらせるとテイルは呪文の詠唱を始めた。

「我が呼び寄せるは氷結の竜巻!フリーズハリケーン!」

次の瞬間、エレナの家を完全に包み込む大きさの氷の竜巻が現れた。

その竜巻が家を包んで5秒程度たったところで

「そろそろ消えたかな…?」

と言ってテイルが指を鳴らすと氷の竜巻はあっという間に消えてなくなった。

同時にエレナの家を包んでいた炎も完全に消えていた。

「すごい…あの炎があっという間に…」

一部始終を見ていたエレナはそう言って驚いていた。

一方テイルは、

「さあエレナさん、早くお父さんとお母さんを。あの状況なら家の中に魔王軍兵士はいないでしょう。私はここで敵が来ないか見張っています」

と言ってエレナを促した。

「あ、はい、わかりました。行ってきます!」

そう言うとエレナは家の中に入っていった。

家の中も燃えていた跡はあったが火は消えていた。

エレナは1つ1つ部屋を見て回ったが両親の姿はどこにも見えなかった。

1階にはいないとわかったエレナは2階に上がっていった。

一方家の外で見張りをしていたテイルはズシンズシンという音から魔導機兵が近付いてくることに気付き、音のする方に視線を向けていた。

しばらくして周囲の確認をしに来たらしい1体の魔導機兵がテイルの前に現れた。

「やれやれ、生き残り村人と燃え残り家が1つずつか…。誰だサボりやがったのは…」

「サボったということは命令された行動ということですね?なぜここまで…?」

「お前はここで死ぬんだから気にしなくていいんだよ!」

そう叫ぶと魔導機兵の相手はテイルを握り潰そうと手を伸ばしてきた。

テイルはその手を避けると伸ばしてきた手に飛び乗って操縦席の位置まで駆け上がり、

「色々聞きたいことがあるのでこのままチャームを掛けさせてもらいますね?」

と言うと呪文を唱え魔導機兵の操縦者に魔法を掛けた。

一瞬で操縦席まで詰め寄られ動揺した魔王軍兵士はこの魔法から逃げることが出来なかった。

「チャーム成功、と…。これであなたは私の支配下になりました。色々教えてもらいますよ?」

「はい…わかりました…」

「ではまず…この村の惨状ですが、なぜここまでやったんですか?この村の戦略的価値はそれほど高くないと思うのですが?」

「…命令では、この村を完全に潰した後、アーランド城攻略の為の前線基地をこの場所に作る、と言っておられました…」

「アーランド城攻略の為ですか…。ということはあなた達はその最前線を任された部隊と言うことですね?」

「…はい、そうです…」

「攻略を任されたのはあなた達の艦隊ですよね?所属している艦隊は?司令官は誰なんですか?」

「…我々の所属は第7艦隊…司令官はミハイル・ライカント将軍です…」

「第7…。ミハイルか…」

「…はい…」

「わかりました。最後の質問ですけど、エレナさんのことについて何か聞いていますか?」

「…エレナ…?…いえ、何も聞いていません…」

「…そうですか…。わかりました、ありがとうございます」

「…はい」

魔王軍兵士への質問を終えたテイルはエレナの家に視線を移した。

「エレナさん遅いな…。何かあったかな…?ちょっと行ってみるかな…」

テイルはそう言ってエレナの家に入ろうとして

「ごめんなさい、戻って来るまで見張りお願いしますね?」

と魔王軍兵士に頼むとエレナの家に入っていった。

一方家の中で両親を探していたエレナは2階の部屋でついに2人を見つけていた。

エレナが2人を見つけた時父と母は、父が母に覆い被さるように倒れていた。

「お父さん、お母さん!」

2人を見つけたエレナはすぐに駆け寄った。

エレナが駆け寄った時、父はすでに亡くなっていた。

「そんな…。お父さん、お父さん!」

エレナがそう叫びながら父の亡骸を揺さぶっていると下から、

「……う、う……」

といううめき声が聞こえてきた。

「え…?…お母さん!?生きてるのね、お母さん!!」

エレナは父の亡骸を横に動かすと母を抱き抱えた。

「お母さん、しっかりしてお母さん!」

「…う、う…」

母はエレナの呼び掛けに応えることが出来なかった。

その様子を見たエレナは母を寝かせると

「待ってて、お母さん」

と言うと自身の目の前で十字を切り呪文を唱えると

「いきます、ヒール!」

次の瞬間にはあちこちの傷が治ったが完全には治らなかった。

「完治しない…!?…見た目より傷が深いの…?」

エレナがそう判断してもう一度ヒールを唱えようとした時、

「う、あ?…エレナ…?あなた、どうしてここに…?」

と母が意識を取り戻しエレナに話しかけてきた。

「お母さん!?気が付いたのね!?」

エレナはそう言うと母を抱き抱え、起こしていた。

「エレナ…あなた何で来たの…?早く…逃げてくれていれば…それで良かったのに…」

「お父さんとお母さんを置いて逃げるなんて出来ないよ…」

「エレナ…お父さんはもう…殺されてしまったんでしょう…?私も…もう長くないわ…。ここでお父さんと…静かに最期を向かえさせて…?」

「嫌よ!絶対に助ける!」

エレナはそう言ってもう一度ヒールを唱えたがやはり傷は治らなかった。

「そんな…どうして…?」

「わかったでしょう…?お母さんも…試したけど…治らなかったのよ…」

「そんな…」

その時エレナの様子を見に家に入っていたテイルが現れた。

「良かった。ここにいたんですね?それでエレナさんのご両親は?」

「テイルさん!?え、あれ?外は?見張りはどうしたんですか…?」

「見張りは別の人に代わってもらいました」

「別の人?」

「ええ、別の人です。それでエレナさんの方は?見つかったんですよね?」

「見つかったんですけど…法術が効かないんです…」

「法術が効かない…?ふむ…。ちょっと待っててくださいね」

そう言うとテイルは床に手を当てて少しの間目を閉じた。

「…これは…この村全体に法力を弱体化させる魔方陣が展開されているみたいですね…」

「魔方陣?テイルさんはそれがわかるんですか?」

「ええ」

「だったら、その魔方陣を消すことは…?」

「難しくはないんですけど、村全体に掛けられていますから時間がかかりますね…」

「それじゃあお母さんは…?」

「ここにいたら助けるのは難しいでしょうね…」

「そんな…」

「とりあえず村を出ましょう。魔方陣の外に出れば法術の効果は戻ります」

「魔方陣の外ですか…。わかりました。お母さん、もう少し頑張って?絶対助けるから」

「ところでお父さんはどうされます?ここに置いて行きますか?」

エレナの父の亡骸を見たテイルが二人に尋ねた。

「それは…連れていきたいですけど…」

「そうですか。ではお母さんもお父さんも私が連れて行きますね」

「え?」

そう言うとテイルはエレナの母と父を軽々と担ぐと

「さあ早く行きましょう、エレナさん」

と言ってエレナに早く村の外に出るよう促した。

「あ…はい…」

エレナはその光景に圧倒され

(なんとなく思ってたんだけど…テイルさんって凄い人?)

そう思いながらテイルに続いて家の外に出てきた。

家の外にはテイルがチャームで味方にしていた魔王軍兵士が魔導機兵に乗ったまま見張りをしていた。

「な!?え?なんですかこれ!?」

そのことを知らなかったエレナが絶叫した。

「ああ、これですか?先ほど別の人に見張りを代わってもらったと言ったでしょう?これはその代わりの人ですよ♪」

「…え?」

「ご苦労様でした。何もなかったようでなによりです♪」

「……はい」

「よし、ではエレナさん、早く村を出ましょう。急がないと手遅れになります」

「え…?あ、はい…。わかりました…」

そう言って二人が村の外に行こうとした時、見張りをしていた魔王軍兵士の乗る魔導機兵の後ろから新たに3体の魔導機兵が現れた。

「ん?おい、お前の足元!まだ生き残りがいるじゃないか!?何サボってるんだ!」

現れた3体の内、隊長機らしき機体の操縦者がそう叫びながら近づいてきた。

「…この様子だと村の出入口から外に出るのは難しそうですね…」

近づいてくる魔導機兵を見ながらテイルが呟いた。

そして後ろにいたエレナに

「正面突破は難しそうですから、森に行きましょう」

と、提案した。

「わかりました」

エレナがそう答えるとテイルは

「そう言うことになったので今度は時間稼ぎお願いしますね?」

とチャームをかけている魔王軍兵士に頼むとエレナと共に森に向かって逃げ始めた。

「おい、何してるんだ!?一人も逃がすなと命令されただろうが!?」

そう言って増援の3体はテイル達を捕まえようとした。

その3体にチャームをかけられている1体が攻撃を仕掛けた。

「何…!?お前、一体どういうつもりだ!?」

突然味方から攻撃された形の増援の3体は困惑しながら応戦を始めた。

「仲間割れを……させたんですか?」

魔王軍の様子を見たエレナがテイルに尋ねた。

「ええ、そういう事になりますね。…それよりエレナさんは先に森に行ってください。私は追っ手が来ないか確かめながら行きますから」

「はい、わかりました」

そう言ってエレナは森の中に入っていった。

それを確認したテイルが口を開いた。

「…さて、これで二人っきりで話ができますね、お母さん?」

「………」

「エレナさんが近くにいるとできない話もありますからね…」

「……テイル…さん…でしたね…。あなたは一体…?」

「また後で同じことをエレナさんにも話すことになりますけど、まずはお母さんに話します。私が何者であるか…。なぜここに来たのか…。その全てを…」

テイルは言った通り、エレナの母親に全てを話し始めた。

少し長い話しになり話し終わるまで少し時間がかかった。

話しが終わる頃にはエレナの母親からは涙が溢れ、止まらなくなっていた。

話しが終わるとエレナの母親は涙ながらに、

「…天は…、天はまだ、あの子を見捨ててはいなかった…」

そう声を絞り出した。

そして、

「テイルさん…、私が最期にやらなけばならないこと、それがわかりました。…それはあの子に、何があってもテイルさんについていくこと、何があってもテイルさんの側を離れないこと、これを、あの子に約束させること…。これが、私のやらなけばならない最期の、役割…」

「…ええ、よろしくお願いします…」

テイルはそう言って村の方を見て追っ手が来ないのを確認すると

「では行きましょうか、お母さん。エレナさんが待ってますから」

と言った。

「はい、お願いします…」

エレナの母親の返事を聞いたテイルはエレナを追って森の中に入っていった。

森の中を道なりにしばらく進んだところでエレナが待っていた。

「あ、テイルさん、お母さん!」

テイルの姿を見たエレナは二人の方に駆け寄ってきた。

「遅かったですね?何かあったんですか?」

到着が遅かったことをエレナは不思議そうに尋ねた。

「ええ、少し」

と、エレナの父と母を降ろしながらテイルが答えた。

「少し…ですか?」

「ええ、少しです」

「そうですか…。わかりました。とりあえずお母さんを治しますね。さあ、お母さん…」

そう言ってエレナがヒールを唱えようとした時、

「エレナ、やめて…。もういいの。お母さんはもういいから…」

と、言ってエレナの母親がエレナの詠唱を止めさせた。

「お母さん!?なんで?どうしてそんなこと言うの!?」

「もう助からないってわかっているからよ…。さっきテイルさんと話した時、そういう結論になったから…」

「え…?それ…どういう…ことですか…テイルさん…?」

そう言ってテイルの方に振り返ろうとしたエレナの腕を掴み、自分の方を向かせてエレナの母がエレナに話しかけ始めた。

「いい、エレナ…?よく聞きなさい…。これが私の遺言になるわ…」

「お母さん…!」

「いい…?あなたはこれから、テイルさんと一緒に行きなさい…。そして何があっても、テイルさんの側を離れないこと…。わかったわね…?」

「テイルさんの…?」

「ええ、そうよ…。あなたが願えば、テイルさんは生涯あなたのことを守ってくれる…。あなたが奇跡を起こしてほしいと願えば、必ず奇跡を起こしてくれる…。そして…」

そう言ってエレナの手を握り、

「本当なら、私たちが、伝えなければ、ならなかったことも、全て、あなたに、伝えてくれる…。だから、あなたは、何があっても、テイルさんから、離れないこと…。これが、私の、遺言、よ…?必ず、守ると、約束、してね…?」

「お母さん…」

エレナは返事が出来なかった。

それを見た母は、

「すぐに、返事は、しなくて、いいわ…。少し、ずつ、理解、して、いけば、いい、から…」

と言った。

「お母さん…」

そして、

「最後、に、なる、けど…エレ、ナ…、あなた、の、母、親、を、やれ、て…幸せ…だった…。あり…が…と…、さよ…な…」

そこまで言ったところで、エレナの母親は息を引き取った。

「お母さん!?お母さん!!お母さん!!いやぁーーーーーー!!!!」

森の中にエレナの絶叫が木霊した。

エレナはそのまま母の亡骸を抱きしめながら泣き始めた。

テイルはなにも言わずその様子を見つめていた。

それから30分近く泣いていただろうか、そのエレナが口を開いた。

「…教えてください、テイルさん…。あなたは何なんですか…?なんでお母さんはあなたについていけって言ったんですか…?お母さんが伝えなければならないことって何だったんですか…?教えてください、テイルさん…。全部……全部教えてください!!」

「ええ、わかってます。エレナさんが知りたいと思っていること、その全てを教えなければいけないことは…。ただその中にはエレナさんが知らない方がよかったと思う事実がいくつかありますからね。話しをするのはエレナさんがもう少し落ち着いてからの方がいいと思うんです」

「………」

「今はとりあえず最初の質問に答えます。私が何なのか、そう聞きましたね?」

「ええ…」

「今の私は、叶えられる範囲であなたの願いを叶える者、です」

「…私の願いを、叶える…?」

「ええ。叶えられない願いは叶えられませんけど…」

「私の、願い…」

「さて、エレナさん?今、何か叶えてほしい願いはありますか?」

「…じゃあ、お父さんとお母さんを生き返らせてください……。これは叶えられる願いですか…?」

「…ごめんなさい…。死者蘇生は叶えられない願いの1つなんです…」

「そう…ですか…」

「…他に何かありますか?無ければ無いでもいいんですけど…」

「…だったら…」

そう言ってエレナはまっすぐにテイルを見つめ、

「お父さんとお母さんを殺した人達をやっつけてください…。村の皆を殺した人達をやっつけてください……!お父さんとお母さんの、村の皆の、敵討ちをしてください……!!」

「………」

「………これも…叶えられない願いですか…?」

その言葉に、テイルはゆっくりと首を横に振り、

「いいえ…。それは、叶えられる願いです…!」

テイルは力強くそう答えた。

「じゃあ、お願いします!私の願いを叶えてください!」

「わかりました」

そう言ってテイルはエレナにてを差し伸べた。

そして、

「では一緒に村に戻りましょう、エレナさん。あなたの願いが叶うところを見せてあげます」

「…!はい!」

そして二人が村に戻ろうとしたところで、

「あ…と、お父さんとお母さんをここに置き去りにするわけにはいきませんね」

とテイルが言った。

「あ…、そう、ですね…。でも私1人じゃ2人一緒には連れていけないですし…」

「んー……、あ、そうだ。あの子に頼もう。ついでにエレナさんにも紹介しておきましょう」

「え?あの子?」

「ええ。ティンク、出ておいで」

テイルがそう言うと、

「はーい」

という声と共にテイルの髪の中から全長約10センチ、淡いピンク色の髪の毛、半透明の羽をもった少女が現れた。

そしてテイルが、

「さあ、ティンク」

と言って手を出した。

その手にティンクが降りたところで、

「紹介しますね、エレナさん。この子はティンク。妖精族、フェアリーの女の子で私の使い魔をやってくれています。ティンク、エレナさんにごあいさつは?」

テイルに促されティンクが、

「はーい。エレナさん初めまして。妖精族のティンクっていいます。よろしくお願いします」

そう言って丁寧にお辞儀した。

それを見たエレナも、

「あ、えっと、エレナっていいます。よろしくお願いします」

そう言ってお辞儀をした。

「さあティンク、エレナさんのお父さんとお母さん、お願いね」

「はい!」

「え?ちょっ、テイルさん?ティンクちゃんにお父さんとお母さんを頼むのは無理じゃないですか…?」

「大丈夫ですよ、エレナさん。ティンクは変身魔法のスペシャリストですから。さあ、ティンク」

「はーい!変身!!」

そう言った次の瞬間、ティンクの姿は巨大な馬の姿に変わっていた。

「え!?これ、テイルさんが乗ってた…。この子ティンクちゃんだったんですか!?」

「ええ。これならお父さんとお母さんを連れて行けるでしょう?さあティンク」

「ヒヒーン!」

ティンクの返事を聞いたテイルとエレナは、エレナの両親をティンクの背に乗せるとエレナの願い…、村の皆の敵討ちの為、村に戻っていった。


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