プロローグ
南西の街ラナ。
ホルの国の中でも大きな街として有名である。
この街には様々なものがとりそろっている。
肉に魚に野菜に麦に果物に綺麗な水。
豊かな食料があるということは人も集まる。
旅人・農民・平民・商人・兵士・貴族。
そして冒険者・・・。
このラナの街でも人気は目立つ石造りで出来た大きな家。
その扉の前には大きな字でこう書いてある。
冒険者ギルド。
ここにはたくさんの冒険者が集う。
毎日たくさんの人々からの依頼が受付に届く。
依頼の内容は様々でモンスターの討伐・輸送・探し物・発掘・採取・探索と他にも色々とある。
冒険者はその依頼をこなし報酬としてギルドから金をもらう。
それが冒険者の生活。
依頼には難易度が☆で記される。
☆1~☆10までの難易度。
数が多いほどその依頼は難しく困難で命を落とす可能性が高いとされる。
しかし任務を遂行出来ればその分報酬も大きい。
冒険者達にはランク付けがされている。
それは、首につけられている首飾りに依頼書と同じ☆が付けられている。
その数が多いほど強く、冒険者ギルドからも依頼人からも信頼もされる。
冒険者にとっては首飾りは自分の名を高める大事な道具なのだ。
また、☆の数によっていける場所も広がる、通行証の役割も果たしている。
この街の通行証のランクは☆4となっている。
なぜ大きな街なのにランクが低いのか。
理由は簡単だ。
危険がないからである。
ラナの街は王都から近くにありその周辺は王国の兵や冒険者もいて、周辺の魔物達はすでに退治されているからだ。
今日も賑わう冒険者ギルド。
その扉が開かれた。
入ってきた人物に騒いでいた皆が一気に静まり返った。
その静かさは葬式のように冷たい静けさを感じさせた。
ギルドに入ってきた人物は全身を銀の鎧で身に纏い背中には大きな大剣を背負っている。
後ろにはメイド服を着た女性が付き人でいる。
男の首にぶら下がっている首飾りには☆が7つあった。
今このギルドには彼より☆が多くある人物はいない。
いるのは最高で星5までの冒険者だ。
なので、現時点で最高ランクとされている人物。
それがこの男だ。
男は依頼書の紙を受付の女性に渡した。
「・・・依頼は終わった」
男は隙間のあまりない甲冑の中からくもった声で言い、討伐した魔物の一部、頭を提示した。
まだ倒して時間がそれほどたっていないのか、床に血が滴り落ちている。
少量の血のはずなのに部屋中に魔物の血の臭いで充満した感じがする。
近くにいた冒険者達は鼻をつまんだり目を逸らしたりしている。
その風景を見て他の冒険者達にも伝染していった。
「は、はい。ではこちらがその報酬となります」
ギルドの女性は少し震えながらも自分の役割をこなした。
男は女性から受け取った袋の中身を確認する。
「・・・確かに。他に依頼はあるか?」
報酬額分あるのを確認し袋を閉じ受付に聞く。
「い・・・いえ、本日はリケッド様宛の依頼はきておりません」
脅えた声で女性は告げた。
「そうか。ではまた来る」
リケッドという名の銀騎士とメイドは冒険者ギルドを後にした。
「この街も・・・潮時だな」
「・・・そのようですね。流れも元に戻りましたし」
リケッドとメイドは賑わう人通りの中を歩いている。
「外壁に囲まれた街は安心感があるな」
街全体を囲む高き壁は外からの危険を感じさせない強固な作りで住む人々に安心を与えている。
「ですが脅威の度合いは変わりませんよ」
「わかってる。ただ見える安心と見えない安心とでは気持ちも変わるだろ」
「臆病なんですね」
「生きるための知恵と努力と言ってほしいな」
「・・・知恵と努力・・・ですか・・・」
メイドは一瞬だけ周りの人を見、視線を元に戻す。
「こんな小さな檻を作ることしか考えられないとは・・・」
「手厳しい言葉だ・・・」
二人はその賑わいにそそられることもなく見向きもしていない。
だが、それに憎悪や険悪を感じている様子もない。
街の人々も賑わいに酔いしれており気づきもせず気にもしていない。
「・・・気づいていますか?」
リケッドの半歩後ろを足取りを変えずに落ち着いた様子で歩いていたメイドが小声で言った。
「ああ・・・」
リケッドは短くそう伝えた。
「どうしますか?」
その言葉には温もりはなく、ただ冷たく鋭い声だった。
「・・・いつも通りにする」
その問いにリケッドはそう応えた。
「わかりました」
メイドはそう言うとそこから先は何も言わずに黙々とリケッドの後を付いていく。
リケッドも何も言わずただただ賑やかな街並みを歩いていった。
賑やかな町の中心地から徐々に離れ、人気は減っていく。
足音も同じように減っていく。
「・・・5人か」
「そのようですね」
二人は足を止めた。
中心地から南東の端まで二人は来ていた。
周りには民家がいくつかあるが、人の気配はない。
おそらくここは農民が多く住んでいるんだろう。
まだ太陽は真上にを少し過ぎただけ、畑仕事はまだ終わらない。
「さて、出てきてもらおうか」
周りにはリケッドとメイドしか見当たらないその場所でリケッドは言った。
暫くするとどこからともなく人の姿見えた。
「用件は何だ?」
「貴様の命」
短いやり取りを終えると黒フードを被った5人が一斉に構え襲い掛かった。
「メルラ下がってろ」
メルラと呼べれたメイドは微笑を浮かべ
「言われなくても大丈夫です」
優雅にゆっくりと下がっていった。
リケッドは背中に背負っている大剣の柄を握り構える。
・・・だが。
ドスドスドスドスドス
ほぼ同時に5つの刺さる音がした。
刺さっているのはリケッドだった。
5人の黒フードに左右の脇から1刺しずつ、首に1刺し、甲冑の隙間から2刺ししてある。
どこも鎧の隙間を狙った攻撃。
どれか一つでも刺されば致命傷の場所を全て狙われ、そして刺された。
刺した剣から血が滴り落ちる。
剣を抜くと刺して開いた傷から血がさらに流れる。
血の水溜りが出来始めた。
リケッドは膝を付きゆっくりと倒れる。
リケッドの死を確認し、全員がメルラの方へと向く。
「次は貴様だ」
剣を持ち直し構えて少しづつ距離を詰める。
逃げられないように囲って・・・。
「いつまでそうしているのですか・・・」
メルラの透き通った声がその場の全員に聞こえる。
5人は動きを止め辺りを見渡す。
『・・・・・・』
他に仲間がいるのか周囲に気を配る。
しかし動きには一切の隙がなく、メルラが逃げようとしたらすぐに仕留める体勢を全員がとっている。
5人は目配りをする。
他に人の気配はなし。
再び視線をメルラに向けその生を終わらせにはいる。
「・・・・・・」
メルラの背後を取っていた1人の敵の動きが止まった。
その急な変化に全員が気づく。
そして後ろを振り向いた。
『・・・・・・・・・』
血の水溜りに浸かっていたリケッドが立っていた。
「どうした?」
甲冑の中で話す声はくもりそして響いた。
フードで顔が見えにくくなっているがその動きからは明らかに伝わってくるものがあった。
驚くのも無理もない。
絶命確実の箇所を刺したはずの男が今目の前に再び立っている。
刺した箇所から血が尚も流れ続けているその現状で・・・。
「・・・貴様、魔物か・・・」
フードの男が一人口を開いた。
「なぜ魔物だと?」
「魔物以外生きてられないからだ」
「・・・なら試すといい。魔物が死ぬまでの殺傷を」
リケッドは両手を広げた。
その行為は相手に「好きにしろ」と言っている。
それは5人も感じ取った。
再びリケッドへと一斉に向かった。
魔物が絶命するまでの殺傷を。
・・・魔物か。
そうだな。確かにそう言われても仕方がない。
俺はすでに人間を辞めた。
魂を売った化け物だ。
復讐を遂げるために・・・。
「リケッド。朝よ起きなさい」
優しさと温もりのある言葉が意識の奥まで聞こえる。
「・・・おはよう。姉さん」
目を開けると優しく微笑みかける姉さんがいた。
「今日は森で狩りをするんでしょ?早く行かないと暗くなって獲物がいなくなるわよ」
姉さんは窓を開け新鮮な空気と太陽の光を部屋に入れてくれた。
「大丈夫だよ。獲物は逃げても逃げられないさ」
「あら、自信満々ね」
「当たり前だよ。俺がぼうずで帰ってきたことないだろ」
「そうね。昔から運がいいものねリケッドは」
「その言い方だと、実力はないって聞こえるんだけど・・・」
「姉さんがそんな事言うと思うの?ヒドイは・・・」
大袈裟に悲しそうな表現をする。
そんな姉さんを見ながら笑みが自然とでてくる。
「思わないよ。姉さんは俺の命の恩人だ。姉さんに会わなかったら俺は今頃この世にいなかったんだから」
俺と姉さんは血がつながっていない。実の兄弟ではない。
幼い頃、俺の住んでいた村は山賊か盗賊か魔物かに襲われ、俺以外の人は皆殺された。
この世界で生きるには外壁で囲まれている街以外で暮らすということは常に死と隣り合わせだということを知っておかないといけない。
何時自分達が殺されるかを知っておかなければいけない。
それがこの世界での常識なのだ。
だけど、運がよかったのか悪かったのか、その時俺だけは村から少し離れた森で遊んでいた。
帰ってくると村は亡くなっていた。
焼けた家と人の血の臭い。
その場で呆然と佇み一生分吸った。
その後はただ無意識に歩いていった。
いく当てのない死の旅に。
数日間歩き続け、体力・空腹の限界に達した俺はついに力尽きた。
これでやっと両親の元に逝けると思うと死ぬことに恐怖は感じない。
疲れ果てた疲労から瞼が重くなり深い眠りについた。
次に目が覚める時はきっと両親が笑顔で迎えてくれるはずだ・・・。
だが、違った。
目を開けると見知らぬ天井に暖かな毛布を被せられてた。
隣にを見ると知らない女性が座っていた。
女性は寝ていたが少しすると目を覚まし自分と目が合うと急に抱きついてきた。
そしてなぜか泣いていた。
耳元では「もう大丈夫だよ。私があなたのお姉さんなって一緒にいてあげる。大丈夫・・・大丈夫だから」
何度も「大丈夫だから・・・」と囁かれた。
いきなりの事でわけがわからなかった。
なぜこの人は俺を抱きしめているのか。
なぜ泣いているのか。
なぜ同じ言葉を何度も言っているのか。
だけど一つだけわかることがあった。
空っぽになった心が満たされて溢れてくる感覚。
俺はその人の胸の中で溢れて行き場のなくなった感情を大声でぶつけた。
こうして俺は姉さんに育てられ、家族として、姉弟として共に過ごしてきた。
着替えを終え食事を取り弓とダガーを持ち森へと出かけた。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
外に出るとすぐに薪を割る音が聞こえた。
「ハンスさん。おはようございます」
「やあリケッドくん。おはよう」
ハンスという若い男は薪割りを中断しリケッドの方へと歩み寄ってきた。
「今から狩りかい?」
リケッドの身なりをを見てハンスは言った。
「はい。今から森へと出かけます。ハンスさんはお体の方はもう大分良くなりましたか?」
「ああ、君達と村の人達のおかげでもうすっかり元気だよ」
優しい笑顔を向けそうこたえた。
ハンスさんはこの村の人ではない。
先月、俺と姉さんが野草を摘みに行ったその帰りに川の辺で倒れていたハンスさんを見つけた。
その時ハンスさんは足を怪我して血を流して動けないでいた。
俺と姉さんはハンスさんを担いで村へと戻り治療をしてあげた。
最初は木の杖を付いて移動していたが、ここ最近はそれもせずに普通に歩けるようになり、今は村の人達の手伝いなどをしている。
「大物を捕らえたらハンスさんにも分けてあげるよ」
「本当かい。それは助かるよ」
「楽しみに待っててください」
ハンスさんにそう言って俺は森へと向かった。
森に入るとすぐさま葉や枝を服に着飾っていく。
顔には泥を塗る。
そして身を屈めた中へと入っていく。
音をなるべく立てずに静かに歩く。
森には動物以外の生き物がいる。
主にはゴブリン・オークが生息している。
だけど、こいつらは別段脅威ではない。
ゴブリン・オークは知能が低いのもあり、見つかってもすぐに逃げ切ることができる。
さらにいうとこいつらの領域は広くない。
だからすぐに逃げきれる。
危ないのは、奥に生息するグリフォン、パンサー、そしてバジリスクなどの中型魔獣だ。
こいつらが生息しているからゴブリン・オークの領域が狭くなっている。
弱肉強食の世界だ。
奥にいかなければ会うことはないはずだが、稀に出会う事がある。
そうなると逃げても逃げ切れない。
だからこうして擬態をし臭いを消し、静かに森の中を歩いていく。
今俺はこの森と一体化している。
異質の来訪者ではない。
そう念じ、そう思い込み、そう信じて獲物の痕跡を探しながら森の中を静かに歩く。
「・・・あった」
地面に蹄の跡がある。
これは鹿の足跡だな。それも2頭だ。
よかった。意外と早く見つけれた。
その足跡慎重に追った。
足跡を追うと湖があった。
そこに2頭の鹿がいた。
まだ動いては駄目だ。
どちらか1頭が離れた時を狙う。
もう暫く俺は自然と同化しその時を待つ。
すると1頭は湖から離れていった。
「・・・スー・・・ハー・・・」
静かに呼吸整え弓を構える。
狙うは首。
一発で仕留めないと逃げてしまう。
ギリギリと音を立てながら弓はしなる。
「・・・・・・」
目を見開き矢先を首に合わせ放った。
矢は狙い通りに首へと命中し鹿は倒れた。
すぐさま鹿の方へと赴き鹿を茂みの中に隠す。
そしてまた身を潜めもう1頭の帰りを待った。
離れていた鹿が戻ってきた。
鹿は仲間がいなくなり辺りをキョロキョロと見渡している。
その隙を突き弓を引き首へと放つ。
鹿は倒れた。
「よし。今日は大猟だ」
俺は持ってきたダガーで鹿の腹を裂き必要な分の肉と臓物を手早く取り森を出ることにした。
すでに日は傾き遠くの方では紅く染まり始めていた。
無事森から生還し村へと向かって歩いていると。
風に乗せられて懐かしいにおいが鼻をとおった。
「・・・・・・このにおいは・・・」
「・・・そんな・・・」
遠くから煙が上がっている。
あの方角には村がある。
俺は全速力で走った。
村は紅く染まりあげ、黒い煙を空へと浮かび上がらせて、そこにはあの穏やかで優しくて温もりがあった村はなくなり、断末魔と人の焦げる臭いと血なまぐささだけがあった。
「・・・・・・」
リケッドは丘の上に伏せ身を隠した。
逃げ惑う村の人達の後ろをまるで子供の鬼ごっごのように笑顔を向け追いかけ剣を振りかざす人間の姿が見られた。
命乞いをするものの首に剣を突き立てられ絶命する人、首を刎ねられる人、四肢をゆっくりと斬られ叫びながら死んでいく人。
様々な死を見てしまった。
気持ち悪くなり胃の中のものが逆流しそうになった時、今度は別のこうけいがリケッドの目に留まった。
村の若い女性が何人もの男達によって犯されるこうけいだ。
逃げ惑う女性の服を掴み破き徐々に露になる肌に男達は更に興奮し服を剥ぎその興奮を鎮めるために女性を使うこうけい。
刃物を突き立てられ脅され性処理として扱われる人、泣きながら犯される人、恐怖のあまり自我を放棄し快楽に溺れ逝く人・・・・・・。
そんな中リケッドの脳裏にある人の姿が現れる。
「姉さん!!」
リケッドは村へと走り見つからないように家へと近づく。
家にはまだ火の手があがってない。
急いで家の中に入り姉さんを探すリケッド。
「姉さん!!いたら返事をしてくれ!!」
今外がどんな状況になっているのかリケッドはわかっているはずだが、大切な姉の事を思うあまり理性より本能が優先されてしまっていた。
広くない家の中で叫ぶが返事が返ってこない。
一つ一つ部屋を探し回った。
「・・・・・・姉さん・・・」
部屋の隅に姉は倒れていた。
床には赤い液体が零れている。
「・・・そんな・・・」
リケッドは姉の死を目のあたりにし後退すると何かにぶつかり、振り返ると見知った男がいた。
「ハンスさん!?」
「・・・やぁリケッドくん。無事だったんだね」
ハンスの表情はこの状況に合わないほど冷静で冷酷で冷たい目をしていた。
「ハンスさん無事だったんですね!村が大変な・・・こと・・・に・・・?」
自分の腹に何かが入っていく感触がした。それはすぐに痛みから激痛へと変わり、口から血が出始めた。膝に力が入らなくなり倒れこむ。
「駄目じゃないか、生きているのは」
ハンスは微笑を浮かべそう言った。
「・・・どう・・・して・・・」
「まだ息があるのか・・・。この村を襲ったのは俺の仲間だ。俺は盗賊のリーダーでな、逃走中に怪我をしているところを助けられたんだよ。そのおかげで傷は癒えたからそのお礼に村を襲撃したんだよ。あの女は気に入ってたから俺の物になれっていったら断りやがったから殺した」
「・・・・・・・・・」
「そしてお前もここで死ね」
ハンスはリケッドの首に刃を当て、そして引いた。
俺は、ここで死ぬのか・・・?
体からは生温かい水が流れていくの感じ、徐々に冷たくなる体と遠のいていく意識の中で地面に倒れる。
視界が狭くなり辺りが暗くなっていく。
遠くで姉さんが倒れている。
・・・死ぬわけにいかない。
俺は、まだ死ぬわけはいかない・・・!
生きてあいつらを殺して姉さんの敵を・・・!
強い憎しみと信念を抱きながらも体はもう動かすことができない。
誰でもいい・・・。
誰か俺を助けてくれ!
何でもする。何だってしてやる!
・・・お願いだ
助けて・・くれ・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「・・・ここは?」
いつの間にか痛みと傷は消えていて、起き上がると辺りは真っ暗だった。
「・・・ようこそ死の世界へ」
遠くのほうで声がした。
誰かが俺に近づきてくる。
「誰だ?」
暗い世界から誰かの姿が現れたのは女性だった。
黒いフードから見えた顔まだ幼さがありながらも血の気ないみたいに蒼白で赤い髪と闇夜でも光るだろう黄色い瞳の美しい女性だった。だけど、女性には不釣合いといえるほどの禍々しい大きな鎌を所持をし首には髑髏のペンダントがついていた。
「では、行きましょう」
女性はそういうと俺を手招きしこちらに来るように命じた。
「待ってくれ。ここは一体どこなんだ?」
全身黒いフードに覆われた女性に聞いた。
「・・・ここは死の世界です」
冷たく口調で女性は告げた。
「・・・死の、世界・・・」
「そうです。死んだ人が訪れる世界。あなたは死にました。そして私はあなたを黄泉の国へと導く死神です」
「死神・・・」
この女性が死んだ人の魂を刈り取るといわれている死の神なのか。
俺が思っていたのとは全く違っていた。
「では、行きましょう」
「待ってくれ!」
「・・・なんですか。私は仕事をしないといけないのです」
女性は不機嫌に言った。
「俺はまだその黄泉の国という所に行く気は無いんだ」
俺はあいつらに復讐をしたい。
だから生きて街に戻りたいんだ。
「無理です。あなたの肉体はすでに死んでいます。助かりません」
「それでも俺にはやらないといけないことがあるんだ。頼む俺を生かしてくれ!」
「無理です。早く私と来てください」
「断る!!」
駄々をこねる子供の言うと女性は小さくため息をつき俺に近づいてきた。
俺は近づく女性から逃げずにその場にいると
「・・・ふざけるな。たかが人間が神に意見をするな」
首を掴まれ持ち上げられた。
「・・・っぐ!」
息が・・・出来ない!
振りほどこうと女性の手を掴むが力が尋常ではなく離すことが出来ない。
「お前にどんな使命があるのか私が知ったことではない。黙って私に従え人間。じゃないとここで魂ごとけすぞ?」
ギリギリと締め付けられる。
意識が徐々に薄れていく。
だけど俺は
「・・・こと・・・わ・・る・・・」
それでも自分の信念と執念を貫きかすれた声で言った。
「・・・魂が消えれば転生も出来ないぞ?」
黄色く光る瞳とドスの聞いた声で恐怖が倍増する。
「・・・それ・・で・・も・・・いい・・」
「・・・・・・・・・」
「かはっ・・・ハア・・・ハア・・・」
女性は手を離し俺は地面に倒れ息を大きく吸い込みそして吐いた。
「まったく・・・強情な人間ですね。ここまで脅しても屈しないとは・・・やれやれ面倒なことです」
「・・・どうして・・・消さないんだ?」
「・・・私は死神でも魂を導く仕事が専門です。勝手に消し去ることは許可されてません。あなた名前は?」
「・・・リケッド」
「ではリケッド。あなたに聞きましょう。どうしてそんなに生きたいんですか?」
「・・・言ったら叶えてくれるのか?」
「あなたに質問する権限は与えてない。許可はされてませんが本当に消し去ってもいいんですよ?」
「・・・・・・わかった」
俺は死神にその理由を告げた。
「・・・なるほど。その仲間だった男に姉と村を亡くしたからその復讐が完了するまで生かしてほしいと」
「そうだ・・・」
「・・・・・・ふむ」
女性はしばらく考え込んだ。
俺はその間黙って待っていた。
「・・・一つ条件があります」
考えがまとまったのか、女性は俺に条件を持ちかけてきた。
死神の条件とは一体どんなものなのか緊張しながらも俺はその条件を聞くことにした。
「あなたの復讐は特別に叶えましょう・・・始末書が面倒ですが・・・。ですが、私の手伝いをしてもらいます」
「・・・手伝い?」
「ええ。私の使命した人の命を奪っていただく簡単なお仕事です」
「・・・俺に人殺しをしろというのか?」
「復讐するのに人殺しは嫌なのですか?」
「当たり前だ!俺は自分を裏切った奴だけを殺すのが目的だ。それ以外の見ず知らずの人を殺せるはずないだろ!」
「おかしな事を言いますね」
「おかしいだと?」
「自分で言っててきがつかれてないのですか?理由があるから殺すのはよくて、理由がないから殺したくない。・・・殺すことに理由がいりますか?」
「当たり前だ」
「ではお聞きします。あなたは空腹になったらどうします」
「それは食べ物を食べて腹を満たす」
「それは理由ですか?」
「・・・・・・」
「違いますよね。それは理由ではなく本能です。食べなければ死ぬ。だから食べる。生物は皆本能で生きてるのに人間は違う。外で寝るのが嫌だから家を建てる、裕福になりたいから商売をする、自分の思い描く村・街・国を得るために戦う、それらを失わないために攻めてきた人を殺す。人間だけですよ全部理由をつけて正当化してやっているのは。なぜ理由をつけたがるのですか?本能のまま生きられないのですか?」
「・・・・・・・・・」
「・・・理由がほしいのでしたら与えます。単純です死ぬはずの人間が死んでないからです」
「意味がよくわからない・・・」
「リケッドさん魔法を知ってますよね」
「・・・ああ」
「魔法は攻撃・強化・妨害・癒しの種類があります。高位な魔術師が使う魔法はより強力です」
「そうだが、・・・それが一体なんなんだ?」
「知っていますか?魔法では傷は癒せますが、寿命は延ばせないのですよ」
「・・・・・・」
「まだわからないようですね。いいですか、生き物には生まれた瞬間から寿命が与えられます。時間は違いますが平等です。その限られた時の中でどう生きていくのかを見るため永遠に生きる神が授けたのです。生き物がそれを変えていいことではないのです。ですが、人間はその罪を犯しました。・・・禁忌の魔法を使って」
「禁忌の魔法・・・」
「他者の寿命を移す魔法。知性の高いエルフでも触れてはいないその魔法を人間は触れ、使い始めました。まったく・・・知識を与えたのが間違いでした・・・。それにより、その禁忌の魔法の性で死ぬはずの人間が生き延びて死期を狂わせ私達死神の手から逃れている人間が現れ、魂の循環が上手くいってないのです。なのでその人達を殺して下さい。私達では手を出すことが許されていませんので。これが理由です。どうですか、これで理解していただけましたか?」
「・・・・・・」
「・・・付け加えましょう。リケッド。あなたは運命を信じますか?」
「・・・運命?」
「はい」
「・・・・・・わからない」
「では、あなたは姉としたうあの人と出会ったのはどうですか?」
「あれは・・・」
「そう運命です」
「・・・・・・」
「死ぬはずの人が死なずに、死ななくていい人が死ぬ。それにより来世で出会うあうはずの大切な人に出会えなくなってしまいます。今この時だけ生き延びればいいという疎かな考えにより来世の巡り会いが崩壊しているのです」
「・・・・・・それはどんな人達なんだ?」
「それは会ってみないとわかりません。死神には死期を見る目がありますので、それで見てみないとなんとも言えません」
「・・・・・・」
「やるかどうかわリケッドさん次第です」
「わかった。手伝う」
「・・・わかりました。では今この瞬間からからあなたは私の僕になりました。僕と言っても特に制約はありません。ただ私の手伝いをしてもらうだけです。他は自由ですので。・・・私のことはメルラと呼ぶように」
「わかった」
「では肉体に魂を入れ直します」
「・・・・・・」
「ど、どうしてお前が生きているんだ・・・」
男は確かに殺したはずの青年が目の前にいることに恐怖と驚きを隠せないでいた。
仲間は皆殺され自分だけとなり孤立していた。しかし、その孤独も一瞬で終わった。
男の首に迷いのない一閃が通過した。
「・・・・・・・・・・」
「願いは叶えましたよ」
背後からメイド服を着たメルラが現れた。
「気分はどうですか?」
「・・・・・・・・・ひどく最悪だ・・・」
「それも直に慣れますよ。では行きましょうか」
「気は済んだか?」
5人の暗殺者は武器を手に持っているが震えていた。手に持っている武器には血がベットリとついている。リケッドの足元は血だまりが出来ている。なのに倒れず膝も付くことがなく立っている。その光景を見て恐怖を感じない人間はいない。
リケッドは動けないでいる1人の暗殺者に歩み寄ると
「手を出せ」
「・・・・・・」
「手を出せ」
「・・・・・・・・・」
恐る恐る手を差し出すとその手に大量に入った金貨や銀貨の袋を渡された。
「その金で今のを忘れろ。雇い主には殺したと言え」
「・・・・・・殺さないのか?」
「殺さない。だからすぐにここから消えろ」
「・・・・・・わかった」
暗殺者は言うとおりにその場を引いた。
「お疲れ様です」
メルラがゆっくりとリケッドの元に寄り添うと血まみれになっているリケッドへと手を差しのべた。
「やれやれ、こんなにも傷だらけにして、修復するこちらの身になってくれませんかね」
「すまない」
「まったく・・・。ここでは出来そうにないですね。止血の魔法はしてますから一旦宿に戻りましょう」
「いや、それよりもすぐに街を出たほうがいい」
「・・・わかりました。それまでは壊れないで下さいよ」
「わかっている・・・あ」
リケッドが歩き始めると右腕がボトリと落ちた。
「・・・・・・」
「・・・・・・すまない」