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5 この世はマッチョで構成されている

 竜の背に乗り再び祭壇の間へ向かったわたし。

 いや、竜の背っていうか竜化したレイナちゃんの背中に乗っていったんだけどね。


 竜族ってすごいね。

 おっきくなったりちっちゃっくなったり出来るんだもん。


 祭壇の間に到着し、人化したレイナちゃんと一緒にイノシシの置物がある場所まで向かいます。

 そしてわたしは迷うことなくイノシシが被っている王冠を付けたり外したりしました。


『やめんか。この罰当たりが』


 予想通り神様が登場。

 レイナちゃんには姿が見えないみたいなので、わたしが代わりに話をつけることにします。


「あ、そういえば神様って見るひとによって姿形が変わるんだってね」


 さっきレイナちゃんが言っていたことを思い出します。


『そうじゃ。貴様はそんなことも知らんかったのか。カスじゃな』


「言い過ぎだろ! 謝れ! カスは凹む!」


『ふふん、貴様にはそれぐらい言ったほうがいいと世間が思っておるわ』


「世間て何っ!? なんか怖い!」


 言いようのない不安に駆られたわたしは怯えます。

 なんか今日の神様は初っ端から飛ばすな……。

 よし。そういうつもりならわたしもその気になっちゃう。


 ――イメージする。

 わたしの大好きなものを。

 それが神様の姿として具現化されることを。


「……ほわぇい!」


 ポンっと音がして神様の姿が変化した。


『……』


「おお!」


 神様はマッチョになりました。

 ギラギラに光る肉体美。

 小麦色の肌はまるで昔給食に出た黒パンのよう。

 でも顔はイノシシのままだね。

 なんか、すごいの出てきた。


「これは惚れる! 結婚して! 神様!」


「ゆ、結城原様……。一体なにが起きているのか私にはさっぱり分からないのですが……」


「あのね! マッチョなの! でもイノシシなの! 黒パンみたいなの!」


「……ええと」


 困った表情のレイナちゃん。

 でもごめん。

 今の私はマッチョに首ったけ。


『……結城原よ』


「はい」


『いや、はいじゃなくて。貴様、なにしてんの』


 マッチョなイノシシがお怒りのようです。

 わたしは一歩間を取りました。


『わし、神様。マッチョ違う』


「神様だって筋トレは必要だと思います!」


『筋トレ……うん。いや、そうじゃなくて、筋トレとかの概念とかが存在しないの。分かる?』


「分かります! 神様は筋トレしなくてもマッチョってことですよね! 結婚して!」


『うん。もう、いいや』


 鮮やかにわたしをスルーした神様は隣にいるレイナちゃんに視線を向けます。

 その横でわたしが『マ・ッ・チョ! マ・ッ・チョ!』って手拍子をしても何も反応してくれません。

 ポージングぐらいしてくれても罰は当たらないと思うのに。


『わしに用があるのはこっちの小娘じゃろうて。早く用件を聞け』


「はーい」


 手拍子が疲れたわたしはレイナちゃんに質問します。


「レイナちゃんはマッチョに何の用事があって会いに来たの?」


「え? マッチョ?」


『……結城原よ』


「はい。すんません」


 神様に睨まれたわたしはコンマ二秒で謝罪しました。


「ええと、神様に聞きたいことがあれば今ここで聞いてくれるって」


「ほ、本当ですか! ありがとうございます! 実は――」


 レイナちゃんは真剣な面持ちで話し始めました。

 要約するとこんな感じです。


 〇魔王との婚姻の儀をするときに魔王の城に行きました

 〇そのときにとある魔族に一目惚れしました

 〇そのひとの名前を知りたいから教えて欲しい


『ふむ……。なるほどな。そんなことは容易い。その魔族の男の名を教えてやろう』


「ゆ、結城原様……! 神様は何と……!」


「うん。そのひとの名前を教えてくれるって。良かったねレイナちゃん」


「はい……!」


 涙を流し喜ぶレイナちゃん。

 嗚呼、わたしにもこんな時代があったな……。

 こしがいたいばかり言ってないで、こいがしたいよ、恋が。


『その男の名は佐々木じゃ。魔族というか、まあわしが召喚した異世界人なんじゃが』


「……はい?」


 ええと、レイナちゃんが一目惚れした男の子の名前は佐々木くん、と。

 魔族じゃなくてこのイノシシマッチョが召喚した異世界人……。


「教えて下さい結城原様! 私の想い人の名を……!」


 わたしの服の襟を掴むレイナちゃん。

 そんなに揺らさないで。目が回っちゃう。


 ――でも、どうしてだろう。

 『佐々木』という名前を聞いて、少しだけ記憶が――。


「結城原様!」


「わ、分かったから。そんなに引っ張ったら服が破れちゃうから」


「あ……。すいません、つい……」


 我に返ったレイナちゃんは肩を竦めて謝りました。

 うん。可愛いから許す。


「ええとね、レイナちゃんが一目惚れした男の子って『佐々木』っていう名前なんだって。でも魔族じゃないみたい。わたしと同じ異世界人だって」


「結城原様と同じ……。その方は何故魔王の城に……?」


 再び神様に質問したレイナちゃん。


『そこまではわしは関知せん。この結城原を見れば分かるじゃろう。ここは自由に生きてなんぼの世界じゃ。わしは天からそれを見て楽しみながら茶を飲むだけじゃからな』


「神様の暇つぶしか! だったらわたしの記憶を戻してよ! 元の世界にも戻してよ!」


『うん? 貴様、元の世界に戻りたいのか? あの社畜時代に戻ると? それに記憶が戻ったら大変じゃぞ』


「え……? まさか社畜時代以上に辛い思いをしていたとか……」


『設定とか世界観とか』


「……」


 神様の言っている意味が良く分かんない。

 でもなんか大変そうだから聞き返すのはやめておこう。


「あ、あの……」


「ああ、ごめんレイナちゃん。神様にも分からないって。でも名前が分かって良かったじゃん。……いや、良くないのか」


「……はい。魔王との婚約が破棄になった矢先に、魔族の元にいる別の殿方を好きになってしまったと宰相らに知られでもしたら、私は……」


 確かにあの頭でっかちな爺さん達は激怒するかも……。

 ていうか魔族側にその佐々木くんがいる時点で叶わぬ恋になりそうな展開だなこりゃ。


「うーん。じゃあやっぱ魔王を倒すしかないかぁ。それともこっそり城に忍び込んで誘拐してくるとか」


『貴様、見事な鬼畜っぷりじゃの。じゃが、貴様が何をしようとわしは関知せんからな。もう帰ってもいいかの。見たいテレビがあるんじゃが』


「うん。ありがとうね。今度お供え物でも持ってくるよ」


『じゃあ茎ワカメを頼む。そんじゃ、お疲れ』


 それだけ言ってさっさと帰っていった神様。

 

 さあて、わたし達も帰って作戦会議を開こう。

 レイナちゃんの恋愛を全力で応援してやんぜ!



 そしてわたしとレイナちゃんは祭壇の間を後にしました。



 

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